建設業許可は自分でやるな!10万円節約の裏にある200時間の損失

行政書士 小野馨
こんにちは

建設業許可の実績100件 行政書士の小野馨です。

「建設業許可、自分で取れたら10万円以上浮くんだよな…」

今、あなたの頭の中には、そんな甘美な計算と、同時に「でも、本当に自分なんかにできるのか?」という漠然とした不安が渦巻いているのではないでしょうか。

その気持ち、痛いほどよくわかります。現場で汗を流して稼いだ大事な売上です。

これから事業を拡大していくための運転資金や、古くなった工具の買い替え、あるいは頑張ってくれた従業員へのボーナスに残しておきたいと考えるのは、経営者としてあまりに真っ当な感覚ですよ。

実際、行政書士に依頼せずに自社で申請を行えば、専門家に支払うはずだった10万円から15万円、場合によってはそれ以上の報酬をまるっと節約できます。

利益率で考えれば、100万円単位の工事を受注するのと同等の価値があるかもしれません。

しかし、ここで少しだけ厳しい現実をお伝えしなければなりません。

建設業許可の申請は、車庫証明やパスポートの申請とは訳が違います。

数百ページに及ぶ「手引き」と格闘し、定款の事業目的に「建設業」の文言が入っているかを確認し、過去の書類の日付が1日でもズレていないか目を皿のようにしてチェックする…。

そんな地道で孤独な作業が待っています。

「何を隠そう、私自身がそうでした」なんて言いませんが、多くのチャレンジャーが窓口で「この書類では証明になりません」と突き返され、途方に暮れてきたのも事実なんです。

この記事では、そんな「自社申請」という険しい山を登りきるために必要な装備(知識)と地図(ノウハウ)を、プロの視点から包み隠さずお渡しします。

ただし、読み進めるうちに「あれ? これならプロに頼んで、自分は現場で稼いだ方が得じゃないか?」と気づくかもしれません。

いえ、むしろその「経営判断」をしていただくために、あえて現実の厳しさをお伝えします。

「節約」という果実を手にするために、あなたが払うべき「労力」の正体を正しく理解して、後悔のない決断をしてくださいね。

  • 建設業許可を自社申請することで手元に残る金額と、失う「時間単価」の天秤
  • 多くの申請者が挫折する「実務経験10年」の壁を突破するための具体的な証明テクニック
  • 税理士さんが作る決算書とは似て非なる「建設業財務諸表」の完全攻略法と作成リスク
  • 令和7年の法改正や電子申請(JCIP)など、最新の審査トレンドへの対応策

建設業許可を自分で申請する際の費用と要件

「よし、自分でやってみよう!」と決意したあなたが、まず直面するのは、

  • 具体的にいくら安くなるのか?
  • 絶対にクリアしなければならない条件は何か?

という問いです。

建設業許可は「取りたい」という情熱だけでは取れません。

冷徹なまでの「要件適合性」が求められます。

ここでは、コストパフォーマンスの現実と、許可の屋台骨となる要件について、深掘りして解説していきます。

行政書士費用の節約と自社申請にかかる労力

まずは、一番気になる「お金」の話から始めましょう。

自社申請を選択する最大のメリットは、間違いなく金銭的コストの劇的な圧縮です。

建設業許可(知事許可・新規)を取得する場合、誰がやっても必ずかかる「法定費用(申請手数料)」は9万円です。

これは都道府県に納める証紙代なので、絶対に値引きできません。

しかし、行政書士に依頼する場合、これに加えて「報酬」が発生します。

相場としては、新規許可で概ね10万円〜15万円程度。難易度が高い案件や、急ぎの案件では20万円を超えることも珍しくありません。

つまり、ご自身で申請書を作成し、窓口へ足を運ぶことができれば、この10万円〜20万円近いキャッシュアウトを完全に回避できるのです。

小規模な事業者さんや一人親方さんにとって、この金額は決して小さくありませんよね。

新しいインパクトドライバーが数台買えますし、数ヶ月分の車両燃料費にもなるでしょう。

経営の初動において、この資金を温存できるのは極めて大きなアドバンテージです。

しかし、世の中うまい話ばかりではありません。

この10万円の節約には、見えないコストが伴います。それが「あなたの時間」という莫大な機会損失です。

【社長の時給計算をしてみましょう】

建設業許可の申請には、手引きの読み込み、書類収集、作成、修正などで、慣れていない方だと50時間〜100時間は平気でかかります。

もしあなたが現場で1日働けば3万円〜5万円の売上を作れる方だとしたらどうでしょうか?

仮に時給換算3,000円だとしても、50時間 × 3,000円 = 15万円の損失です。

「自分でやることで浮いた15万円」は、「現場に出られずに失った15万円」と相殺され、実はプラスマイナスゼロ、あるいは疲労だけが残るマイナスになる可能性が高いのです。

さらに、申請書類に不備があれば、平日の日中に何度も役所の窓口へ呼び出されます。

そのたびに現場を抜けたり、電話対応に追われたりする精神的ストレスは計り知れません。

「自分でやる」という選択は、単なる節約術ではなく、「自分の貴重な経営資源(時間)を事務作業に投資する」という経営判断であることを、まずはしっかりと認識してくださいね。

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経営業務の管理責任者や専任技術者の証明

「書類さえ作ればいいんでしょ?」と思っていると、ここで痛い目を見ます。

建設業許可申請において、最もハードルが高く、多くの申請者が頭を抱えるのが「ヒト」の要件です。

建設業法では、許可を取るための絶対条件として、以下の2つのポジションを常勤の役員や従業員で埋めることを義務付けています。

  1. 経営業務の管理責任者(経管): 建設業の経営を適正に行う能力を持つ責任者
  2. 専任技術者(専技): 工事の技術的な責任を負う専門家

問題は、これらが「これから頑張ります!」という未来の意欲ではなく、「過去にこれだけの期間、確実にやってきました」という事実の証明でしか認められない点です。

ここが最大の落とし穴なんです。

経営業務の管理責任者(経管)の証明

基本的には「建設業の経営経験が5年以上あること」が求められます。

これを証明するためには、以下の「三段論法」のような資料の積み上げが必要です。

  • ① その期間、役員(または事業主)であったか?
    法人の場合は「履歴事項全部証明書(登記簿謄本)」で証明できます。もし今の会社での経験が足りない場合は、前の会社の「閉鎖謄本」を取り寄せる必要があります。
  • ② その期間、建設業を営んでいたか?
    単に役員だっただけではダメです。その会社が建設工事を行っていたことを、「工事請負契約書」や「注文書」、「請求書+通帳」などで証明します。しかも、5年間分、毎年の実績が必要です。
  • ③ その期間、常勤だったか?
    これは今の常勤性確認とも関わりますが、住民票と営業所の距離や、健康保険証などで確認されます。

ポイント

ここがポイント!

特に「経営業務の管理責任者証明書(様式第七号)」の作成は、一字一句の間違いも許されない精密さが求められます。過去の役員期間の計算で1日でも空白があると、そこからやり直しになることも。まさにパズルのような作業ですが、ここをクリアしない限り許可への道は開かれません。

※経管の要件についてさらに詳しく知りたい方は、以下の詳細記事をご確認ください。

>>経営業務の管理責任者の要件を徹底解説【常勤性・証明資料】

実務経験を裏付ける請求書や契約書の確保

次に立ちはだかるのが、「専任技術者」の壁です。

もしあなたや従業員さんが、1級・2級施工管理技士や建築士、電気工事士などの国家資格を持っていれば、話は早いです。

合格証や免許証のコピー(原本提示)があれば、それで要件クリアです。

しかし、資格がない場合、いわゆる「10年実務経験」で勝負することになります。

これが、自社申請における最大の難所と言っても過言ではありません。

「10年建設業をやってきた」という事実は、口頭では1ミリも信用してもらえません。

役所が求めるのは、客観的な証拠書類の山です。

具体的には、過去10年間にわたり、申請しようとする業種(例えば内装工事なら内装工事)を請け負っていたことを証明する「契約書」や「注文書」、あるいは「請求書」を提出しなければなりません。

注意ポイント

【注意】請求書だけでは不十分?

ここで問題になるのが、「請求書はあるけど、本当に入金されたかわからないじゃないか」という疑いです。架空の請求書で実績をでっち上げることを防ぐため、多くの自治体では「請求書とセットで、その入金が記帳された通帳の原本」の提示を求めます。

想像してみてください。

10年前の通帳、すぐに手元に出せますか? もし紛失していたり、合算記帳されていて個別の入金が見えなかったりすると、その請求書は証拠として認められない可能性があります。

「実家の倉庫を探したらカビだらけの段ボールから出てきた」なんてドラマのような展開が必要になることも。

自社申請を成功させる鍵は、実は「ファイリング能力」と「物持ちの良さ」にあるのかもしれません。

東京都の緩和措置を活用した確認資料の省略

「毎月1件、10年分で120件の請求書なんて、揃えられるわけがない…」

そう絶望しかけたあなたに、朗報があります。

特に東京都で申請を考えている方にとっては、革命的とも言える緩和措置が令和4年9月からスタートしています。

以前の東京都は全国でもトップクラスに審査が厳しく、実務経験の証明においては「空白期間」を一切許さないスタンスでした。

1ヶ月でも工事実績がない月があると、その期間は実務経験としてカウントされず、トータルで10年を満たすために11年、12年前まで遡らなければならない…という地獄のような作業が必要でした。

しかし、この運用が大きく変わりました。

新たに導入された「経営経験・実務経験期間確認表」という様式を活用することで、証明資料(契約書や請求書)の日付の間隔が3ヶ月(四半期)未満であれば、その間の資料提示を省略できるようになったのです。

参考

【緩和措置の具体例】

例えば、以下のような日付の請求書があるとします。

  • 資料A:2023年4月15日の請求書
  • 資料B:2023年6月20日の請求書

この場合、4月から6月の間隔は3ヶ月未満です。以前なら5月の実績も求められましたが、現在は資料AとBだけで、4月・5月・6月の3ヶ月間すべてが実務経験期間として認められます。

さらに、工期が長い工事の契約書(例:4月1日〜5月31日)があれば、その「工期終了日」から次の資料までの間隔で判定されます。

つまり、飛び飛びでしか書類が残っていない事業者さんでも、パズルのように組み合わせることで10年の期間を繋げられる可能性が劇的に高まったのです。

この緩和措置は東京都のものですが、他の道府県でも独自の緩和ルールや、コロナ禍以降の柔軟な対応を行っているケースがあります。

「書類が足りないから無理だ」と自己判断せず、必ず管轄の土木事務所や県庁の手引き(最新版!)を確認するか、窓口で相談してみることを強くお勧めします。

500万円の財産的基礎と残高証明書の用意

建設業許可(一般)を取るための要件として、「お金」の問題もクリアしなければなりません。

具体的には、「500万円以上の財産的基礎」を有していることの証明です。

なぜこんな要件があるのかと言うと、建設業は材料費や外注費の支払いが先行し、入金が数ヶ月先になることが当たり前の業界だからです。

「仕事は取れたけど、資材を買う金がない」「職人に払う給料がない」となっては、発注者も下請業者も共倒れになってしまいます。そうならないための「最低限の体力測定」だと思ってください。

証明方法は、大きく分けて以下の2つのパターンのどちらかでOKです。

証明方法 具体的な内容 必要書類
① 純資産で証明 直前の決算において、貸借対照表(B/S)の「純資産の部」の合計額が500万円以上あること。 確定申告書(決算書)の貸借対照表
② 資金調達能力で証明 手元のキャッシュとして500万円以上を動かせる能力があること。 金融機関発行の残高証明書

もしあなたの会社の決算書が、赤字続きで純資産が500万円を割っていたり、マイナス(債務超過)になっていたりしても、諦める必要はありません。

圧倒的に多くの自社申請者が利用しているのが、②の「残高証明書」による証明です。

これは、申請日の直前(概ね1ヶ月以内、自治体によっては2週間以内の場合も)の日付で、会社の口座(個人事業主なら事業主名義の口座)に500万円以上の残高があることを、銀行に証明してもらう方法です。

注意ポイント

残高証明書の注意点

  • 「証明日(基準日)」が重要: 発行日ではなく、「〇月〇日時点でいくらあったか」という基準日が審査対象です。必ず500万円以上入っている日を基準日に指定してください。
  • 有効期限がある: 多くの自治体で、証明日から1ヶ月以内に申請書を受理されなければ無効となります。書類作成に手間取って1ヶ月過ぎてしまうと、取り直し(再発行手数料がかかります!)になるので、書類が完成する直前に取得するのが鉄則です。
  • 見せ金について: よく「一時的に親や知人から借りて口座に入れ、証明書を取ったらすぐ返すのはアリか?」と聞かれます。審査上は、その瞬間の残高があれば要件は満たします。しかし、経営の実態として推奨されるものではありませんし、借入金であれば返済義務が生じます。あくまで「資金調達能力の証明」としての最終手段と捉えてください。

※財産的基礎要件のより詳しい解説や裏技については、以下の記事も参考にしてください。

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社会保険加入は絶対!未加入業者が許可を取れない現実

自社申請をする個人事業主や一人親方の方が見落としがちなのが、この「社会保険」の壁です。

かつては未加入でも許可が取れる時代がありましたが、令和2年の法改正により、現在は「適切な社会保険への加入」が許可の絶対要件となっています。

ここで言う「適切な保険」とは、健康保険、厚生年金保険、雇用保険の3つを指します。

特に法人の場合は、社長1人であっても強制加入です。

「保険料が高いから…」といって加入を避けている状態では、書類を窓口に持っていっても門前払いされます。

注意ポイント

【遡及請求の恐怖】

申請のために慌てて年金事務所に行くと、場合によっては過去2年分まで遡って保険料を請求されるリスクがあります。

数百万円単位の請求が来れば、許可どころか経営の危機です。

プロに依頼すれば、こうしたリスクを事前に診断し、最適な加入タイミングや方法を提案できますが、自分で動くと「知らなかった」では済まされない事態になりかねません。

※社会保険の適用除外や加入のタイミングについては、専門的な知識が必要です。詳しくは以下の記事をご参照ください。

>>建設業許可と社会保険:未加入でも許可は取れる?適用除外とは

知事許可なら全国で施工できる営業エリアの真実

このセクションの最後に、建設業許可に関する「最大の都市伝説」を解体しておきましょう。これから申請するあなたに、ぜひ知っておいてほしい事実です。

あなたはこんな勘違いをしていませんか?

「東京都知事許可を取ったら、東京でしか工事ができない。千葉や埼玉の現場をやるなら大臣許可が必要だ」

これは、完全に、100%間違いです!

建設業法における「知事許可」と「大臣許可」の違いは、工事ができるエリア(施工場所)の違いではありません。単に、「営業所(契約などの事務を行う拠点)がどこにあるか」という違いに過ぎないのです。

  • 知事許可: 1つの都道府県内「のみ」に営業所がある場合(例:本店が新宿、支店が八王子 → どちらも東京なので東京都知事許可)
  • 大臣許可: 2つ以上の都道府県にまたがって営業所がある場合(例:本店が東京、支店が大阪 → 国土交通大臣許可)

これが真実です!

東京都知事許可であっても、北海道から沖縄まで、日本全国どこへ行っても工事を施工することができます。もちろん、法的に何の問題もありません。

この誤解のせいで、「将来は関東全域で仕事がしたいから、ハードルの高い大臣許可に挑戦しなきゃ…」と無用なプレッシャーを感じている方が本当に多いんです。大臣許可は、知事許可に比べて審査期間が倍以上(3〜4ヶ月)かかりますし、手数料も高い(15万円)です。さらに、各営業所に専任技術者を配置しなければならないなど、維持管理のコストも跳ね上がります。

まずは、足元の営業所を拠点として「知事許可」を取得し、全国の現場を飛び回る。そして、どうしても他県に「契約機能を持つ支店」を置く必要が出てきた段階で、初めて大臣許可への「許可換え」を検討する。これが、最も賢く、コストパフォーマンスの高い成長戦略です。SEO的に言えば、この事実を知っているだけで、あなたの「検索意図」に対する答えの質がグッと上がったはずですよ。

※知事許可と大臣許可の違いについてさらに詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。

>>知事許可と大臣許可の違いとは?メリット・デメリットを比較

建設業許可を自分で取得する手順と書類作成

要件がクリアできそうだと分かったら、いよいよ実務のスタートです。ここでは、特に初心者がつまずきやすい書類作成のポイントや、最新の申請方法について解説します。

税務決算書と異なる建設業財務諸表の作成

自社申請で最も補正(修正指示)を受けやすいのが、「財務諸表」の作成です。「税理士さんが作ってくれた決算書があるから、それをコピーすればいいんでしょ?」と思っているなら、今すぐその考えを捨ててください。

税務署に出す決算書と、建設業課に出す財務諸表は、作成の目的もルールも全く異なります。

  • 税務申告書: 課税所得を正確に計算し、税金を取るためのもの。
  • 建設業財務諸表: 会社の施工能力や経営の健全性を外部に開示するためのもの。

この違いにより、勘定科目の分類や表示方法には明確なルール(建設業法施行規則)が存在し、税務上の決算書をそのまま転記することは認められないのです。以下の図を見て、その複雑さをイメージしてみてください。

項目 税務申告用 決算書 建設業許可 財務諸表
売上高 「売上高」として一本化 「完成工事高」「兼業事業売上高」に区分
原価 「当期仕入高」など 「材料費」「労務費」「外注費」「経費」に分解
在庫 「棚卸資産」「仕掛品」 「未成工事支出金」として計上

特に重要なのが「原価の分解」です。税務申告書では「仕入高」としてひとまとめにされている金額の中に、材料費と外注費が混在していることがよくあります。これをそのまま建設業財務諸表に書くと、「材料費だけで工事をしたのか? 下請けには出していないのか?」と突っ込まれます。元帳(総勘定元帳)をひっくり返して、一つ一つの取引を「これは材料」「これは外注」と振り分ける作業が必要になります。これを税理士さんに頼まず自分でやるとなると、簿記の知識がない限り、かなりの苦戦を強いられます。

また、個人事業主の場合、青色申告決算書では貸借対照表(B/S)を簡易的に済ませている方も多いですが、建設業許可では完全な貸借対照表が求められます。「事業主貸」「事業主借」「元入金」といった個人特有の科目を正しく理解し、左右のバランスがピタリと合う表を作らなければなりません。これが「税理士任せにできない」理由の最たるものです。

※建設業財務諸表の作り方については、専門的な知識が必要です。詳しくは以下の記事で解説しています。

>>建設業財務諸表の書き方ガイド:税務決算書からの組替ポイント

電子申請JCIPの活用とgBizID取得

これまでは、分厚い紙のファイルを3部(正本・副本・自社控)作って役所の窓口に持参するのが当たり前でしたが、令和5年1月より、建設業許可・経営事項審査電子申請システム(JCIP:ジェイシップ)が本格稼働しています。

「ネットでできるなら簡単になったのでは?」と思うかもしれませんが、現実は逆です。

電子申請を使えば役所に行く時間は減りますが、その分、高度なITリテラシーが求められるようになりました。

利用するためにはデジタル庁が発行する「gBizIDプライム」のアカウントが必須であり、これの取得だけで2週間かかります。さらに、膨大な添付書類(契約書など)をすべてスキャナで読み込み、指定された形式のPDFファイルに変換し、システム上の正しい場所にアップロードしなければなりません。「ファイルサイズが大きすぎてアップできない」「ファイル名の付け方が間違っている」といったエラーで、パソコンの前で何時間も格闘することになるのがオチです。

デジタル化の壁

もしあなたが、「パソコン操作に自信がない」「スキャナの設定がよくわからない」というレベルであれば、電子申請(自社申請)は諦めた方が無難です。システムは不慣れなユーザーに優しくありません。プロに依頼すれば、紙の資料を渡すだけで、あとは全て電子化して処理してくれます。

申請から許可通知までの審査期間と準備

書類を出したらすぐに許可証がもらえるわけではありません。行政庁による厳格な審査期間があります。

  • 知事許可: 申請受理から許可まで 約1ヶ月〜2ヶ月
  • 大臣許可: 申請受理から許可まで 約3ヶ月〜4ヶ月

これはあくまで「申請書が受理されてから」の期間です。ここを勘違いしている方が非常に多いのですが、自社申請の場合、役所の窓口で一発で受理されることは稀です。「書類が足りない」「記載ミスがある」「証明資料が不鮮明」といった理由で、何度も補正(修正)を求められます。そのやり取りだけで2週間、3週間と過ぎていくこともザラです。

さらに、申請前の準備期間も考慮する必要があります。過去の資料探し、証明書(身分証明書や登記されていないことの証明書など)の収集、そして書類作成。慣れない作業であれば、ここにも1〜2ヶ月はかかります。

つまり、トータルで見ると、「思い立ってから許可が下りるまで、知事許可でも3ヶ月〜4ヶ月はかかる」と見ておくのが安全です。「500万円以上の大型工事の契約が来月に迫っている!」といったギリギリの状況で動き出しても、絶対に間に合いません。プロである我々行政書士は、この「準備期間」を劇的に短縮し、最短最速で受理まで持ち込むノウハウを持っています。「時間を買う」という意味でも、専門家への依頼は理にかなっているのです。

令和7年法改正が及ぼす申請実務への影響

建設業界は今、大きな変革期にあります。令和7年(2025年)にも重要な法改正が予定されており、これから許可を取る方はこの流れを無視できません。

特に注目すべきは、「標準労務費」の導入と処遇改善、そして「技術者配置要件の見直し」です。国は、建設現場で働く人々の賃金を守るため、「標準労務費」という基準を下回る見積もりや契約を禁止する方向で動いています。これが許可要件に直結するわけではありませんが、財務諸表における労務費の計上や、社会保険加入状況の確認がより厳格化されることは間違いありません。

また、技術者不足に対応するため、監理技術者の配置が必要な工事金額の下限引き上げ(現行の4,500万円からさらに引き上げ予定)なども検討されています。これにより、現場の負担は少し軽くなるかもしれませんが、裏を返せば「適正な技術者を配置できない会社は排除される」というメッセージでもあります。

実務的な細かい変更点としては、国税庁が確定申告書の控えへの「収受日付印」を廃止したことに伴う対応があります。これまで、経管の実績証明には「税務署のハンコがある申告書」が必須でしたが、これからは電子申告の「受信通知(メール詳細)」等の添付が必須となるケースが増えています。「ハンコがないから証明できない!」と慌てないよう、デジタルデータの出力方法を確認しておきましょう。

建設業許可を自分で維持する更新と変更届

苦労して許可を取得しても、それで終わりではありません。建設業許可は5年に1回の「更新」が必要です。

そして何より忘れてはならないのが、毎年必ず提出しなければならない「決算変更届(事業年度終了届)」です。これを毎年出していないと、5年後の更新手続きができません。自社申請の場合、誰も「そろそろ決算届の時期ですよ」と教えてくれないため、うっかり忘れてしまいがちです。

変更届が必要な主なタイミング

  • 毎年の決算終了後(4ヶ月以内):決算変更届
  • 役員が変わったとき(30日以内):役員変更届
  • 営業所が変わったとき(30日以内):営業所変更届
  • 資本金が増えたとき(30日以内):資本金変更届
  • 専任技術者が辞めた・変わったとき(2週間以内 ※超重要!)

特に恐ろしいのが、専任技術者の変更です。もし専任技術者が退職した場合、代わりの人を確保して届け出る期限は「たったの2週間」しかありません。これを過ぎると、最悪の場合、許可取り消しになるリスクがあります。行政書士と顧問契約していれば「そろそろ更新ですね」「専技さんは大丈夫ですか?」と連絡をくれますが、自社申請の場合は全てのスケジュール管理を自分で行う必要があります。許可の維持管理まで自分で行う覚悟が必要です。

※更新手続きや変更届については、以下の記事で詳細を解説しています。

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建設業許可を自分で勝ち取るためのまとめ

建設業許可を自分で取得することは、決して不可能ではありません。

10万円以上のコスト削減は大きな魅力ですし、自社の経営状況や法令について深く学ぶ良い機会にもなります。

私自身、自分で手続きをやり切った経営者の方々を何人も見てきましたが、皆さん一様に「大変だったけど、勉強になった」と仰います。

しかし、その裏には「平日の日中に何度も役所へ行く時間」「膨大な手引きを読み解く根気」「過去の書類を整理する几帳面さ」といった、見えないコストが大量に支払われています。

もしあなたが、「書類仕事は大の苦手」「現場が忙しくて寝る時間もない」「パソコン操作に自信がない」という状況であれば、餅は餅屋で、プロである行政書士に依頼する方が、トータルの収支(得られる利益)はプラスになる可能性が高いです。

「あなたの50時間を、書類作成に使いますか? それとも、100万円の現場利益に使いますか?」

もし、現場での利益を優先したいと考える賢明な経営者様であれば、ぜひ一度、当事務所へご相談ください。

その50時間で、報酬以上の利益を生み出せるよう、私たちが最短ルートで許可取得をサポートいたします。

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  • この記事を書いた人

行政書士 小野馨

平成17年2月行政書士開業。建設業許可申請の手続き実績100件以上。フットワークの軽さとサービス精神で、県内トップクラスの良心価格と実績を持っています。建設業許可は当事務所にお任せ下さい。みなさまのご依頼をお待ちしております!

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