

こんにちは。
建設業許可の実績100件の行政書士小野馨です。
建設業の現場で汗を流していると、親会社や先輩職人から「500万円」という数字を呪文のように聞かされること、ありませんか?
「500万円までは許可がいらない」「500万円を超えたら許可がないと現場に入れない」……。
この業界における500万円というラインは、単なる金額の区切りではなく、プロとしての「信用」と「法令遵守(コンプライアンス)」が問われる巨大な境界線です。
でも、いざ実務になると、
「この500万円って、消費税込みなの?抜きなの?」
「お客さんが買ってきたキッチンを取り付ける場合は、その値段も含むの?」
「追加工事で結果的に超えちゃったらどうなるの?」
といった、非常にグレーで迷いやすい問題に直面します。
実は、私のもとに相談に来られる方の中でも、この「500万円の壁」の解釈を間違えていて、知らず知らずのうちに建設業法違反(無許可営業)の状態になってしまっていた……
というケースが後を絶ちません。
この記事では、年間5,000件以上の相談実績を持つ行政書士としての視点から、建設業許可における「500万円」の基準を、どこよりも深く、そして分かりやすく徹底解説します。
曖昧な知識は、今日ここで捨てていってくださいね。
- 500万円の判定に消費税が含まれるかの法的根拠と計算方法
- 材料費や運送賃を工事代金に加算しなければならない理由
- 請求書を分けて金額を抑える「分割発注」のリスク
- 無許可で500万円を超えた場合に待ち受ける懲役や罰金の実態
行政書士が教える500万円の壁と許可の要否
建設業界で生き残るためには、法律の知識が武器になります。
まずは、建設業法が定める「許可が必要な工事」と「不要な工事」の境界線について、条文の趣旨まで掘り下げて解説していきましょう。
ここをマスターすれば、無用なトラブルを未然に防ぐことができますよ。
500万円以下の工事なら建設業許可は不要か
結論から申し上げますと、1件の請負代金の額が500万円未満(税込)の「軽微な建設工事」であれば、建設業許可は不要です。
許可を持っていなくても、堂々と契約し、施工することができます。
建設業法第3条では、建設業を営む者は原則として許可を受けなければならないと定めていますが、同時に「軽微な建設工事のみを請け負う場合」を例外として認めています。
これは、DIYの延長のような小さな工事や、地域密着の小規模な修繕工事にまで厳格な許可要件(500万円の資金力や経営経験など)を求めると、新規参入が阻害され、国民の利便性が損なわれる可能性があるからです。
具体的には、以下の条件を満たす工事が「軽微な建設工事」に該当します。
| 工事の種類 | 許可不要となる基準(軽微な工事) |
|---|---|
| 建築一式工事 | 工事請負金額が1,500万円未満(税込)
または 延べ面積が150㎡未満の木造住宅工事 |
| 上記以外の工事
(専門工事) |
工事請負金額が500万円未満(税込) |
内装工事、電気工事、管工事、塗装工事など、世の中のほとんどの工事は下の「専門工事」に分類されますので、基本的には「500万円未満なら許可はいらない」と覚えておいて間違いありません。
多くの職人さんや一人親方の方は、まずはこの「500万円未満」の範囲で実績を積み、技術と信用を蓄えてから、事業拡大のタイミングで建設業許可取得を目指すのが王道のステップアップです。
逆に言えば、許可がないうちは、どんなに技術があっても500万円以上の大きな仕事は受けられないという「ガラスの天井」があることも理解しておく必要があります。
用語解説:請負(うけおい)とは?
建設業法が適用されるのは「請負契約」です。常用(人工出し)や派遣契約の場合は、そもそも建設業法の許可の対象外となる場合がありますが、実態が請負であれば法の規制を受けます。
(出典:国土交通省『建設業の許可とは』)
税込500万円の壁と消費税の判定基準
ここが実務上、最も勘違いが起きやすく、かつ致命的なミスにつながるポイントです。
「税抜価格なら490万円だから、500万円以下ということでセーフですよね?」という質問をよくいただきますが、行政書士としての答えは完全なNO(アウト)です。
建設業許可の要否を判断する500万円の基準は、必ず「消費税および地方消費税を含んだ金額(税込)」で判断します。
なぜ「税込」なのでしょうか?
商取引の慣習では「税抜」で会話することが多いですが、建設業法が保護しようとしているのは「発注者」です。発注者(特にお客さんが一般個人の場合)にとって重要なのは、「最終的に財布からいくら出ていくか」という総支払額です。
そのため、法の運用基準では一貫して税込金額でライン引きがされています。
現在の消費税率は10%です。この「10%」の影響力は凄まじいものがあります。
具体的に計算してみましょう。
【シミュレーション】税抜460万円の工事を受注した場合
- 本体価格(税抜): 460万円
- 消費税(10%): 46万円
- 契約金額(税込): 506万円
ご覧の通り、税抜では400万円台半ばの工事であっても、消費税を加えるとあっさりと500万円の壁を突破してしまいます。
この状態で許可を持っていなければ、即座に「無許可営業」となります。
悪気があろうとなかろうと、法律は数字で判断します。
「手取りは500万いかないから」「昔は消費税が5%だったから大丈夫だった」という言い訳は、役所には一切通用しません。
インボイス制度との関係
免税事業者であっても、建設業法の許可判断基準における金額は「取引の総額(税込相当額)」で見られます。
消費税を請求していようがいまいが、市場価格や取引慣行に照らして判断されるため、ギリギリの金額設定は極めて危険です。
500万円未満でも許可が必要な建築一式工事
少しややこしいのが「建築一式工事」の扱いです。
先ほどの表にもありましたが、建築一式工事の場合は「1,500万円未満」まで許可が不要という特例があります。
これを聞いて、「じゃあ、うちはリフォーム工事を一括で受けるから『一式工事』だね! 800万円のリフォームでも許可はいらないってことか!ラッキー!」と解釈してしまう方がいらっしゃいますが、これは非常に危険な誤解です。
「建築一式工事」と「内装工事などの専門工事」は、明確に区別されます。
行政実務において、「建築一式工事」として認められるのは、原則として以下の2点に限られると考えてください。
- 新築工事: 基礎から屋根まで、家を一軒まるごと建てる工事
- 大規模な増改築工事: 建物の構造耐力上主要な部分(柱や梁など)に関わるような大規模な工事
一方で、壁紙の張り替え、キッチンの交換、外壁塗装、屋根の葺き替えなどをまとめて請け負う一般的な「リフォーム工事」は、どんなに規模が大きくても、基本的には「内装仕上工事」や「管工事」などの専門工事に分類されます。
専門工事である以上、適用される基準は「500万円未満」です。
「一式」という言葉が見積書に書いてあるからといって、1,500万円まで許されるわけではありません。
ポイント
判断のポイント
「総合的な企画・指導・調整」が必要な工事かどうかが鍵ですが、個人の住宅リフォームレベルでは「建築一式」とは認められないケースが大半です。
ご自身の工事がどちらに該当するか不明な場合は、必ず着工前に都道府県の土木事務所や行政書士に相談してください。
請求書を分割して500万円以下にするリスク
現場で追い詰められると、悪魔の囁きが聞こえることがあります。
「今回の工事、総額600万円になりそうだな……。許可ないし、マズいな。
そうだ!『A工区(300万円)』と『B工区(300万円)』に分けて、契約書を2枚作ればいいんじゃないか? 日付も1ヶ月くらいずらしてさ!」
はっきり言います。これは「脱法行為」として、行政から最も厳しくマークされる手口です。建設業法では、正当な理由なく工事を分割して請け負うことを禁じています(建設業法施行令第1条の2)。
行政の調査官はプロ中のプロです。契約書が分かれていても、以下の要素を総合的に見て「実態は一つの工事である」と簡単に見抜きます。
- 場所の同一性: 同じ建物や敷地内での工事か
- 時期の近接性: 工期が連続しているか、重なっているか
- 目的の単一性: 一連の工事として完成する機能を持っているか(例:壁を作らないとクロスが貼れない場合、これらは一連の工事です)
もし「分割発注による偽装」と認定された場合、悪質性が高いと判断され、許可が取れなくなるだけでなく、後述する厳しい罰則の対象となります。「書類上の操作で法律を騙せる」という考えは、今すぐ捨ててください。
材料費を含めて500万円を超える場合の注意点
500万円の壁ギリギリの攻防で、もう一つ頻出する落とし穴が「施主支給(せしゅしきゅう)」資材の扱いです。
例えば、こだわりの強いお客様が、海外製の高級システムキッチン(市場価格200万円)を自分でネット購入したとします。あなたは、その取り付け工事と周辺の内装工事を請け負いました。工事費の見積もりは350万円(税込)です。
「契約金額は350万円だから、500万円以下! 許可不要でOK!」
……と思いきや、これも法律上はアウトになる可能性が高いのです。
建設業法施行令第1条の2第3項には、以下のルールが明記されています。
注文者が材料を提供する場合においては、その市場価格及び運送賃を請負代金の額に加算する。
つまり、このケースでの判断基準額は以下のようになります。
| 項目 | 金額(税込) |
|---|---|
| 請負契約額(施工費など) | 350万円 |
| + 支給材料費(市場価格) | 200万円 |
| + 運送賃 | 数万円 |
| 合計(判定基準額) | 550万円以上 → 許可が必要 |
なぜこのような厳しいルールがあるのでしょうか?
もしこの規定がなければ、高額なソーラーパネルや空調機器をすべて「施主支給」という形にして、施工費だけを契約することで、数千万円規模の工事でも無許可で請け負うことが可能になってしまうからです。法の抜け穴を防ぐために、「材料費も含めた工事全体の規模」で判断するというのが、建設業法の基本スタンスなのです。
市場価格とは?
たとえお客様が在庫処分セールで激安で手に入れたとしても、あるいは無償でもらったとしても、判定には「一般的な市場価格」を用います。安く手に入れたからといって判定額が下がるわけではありません。
行政書士が解説する許可要件の500万円とは?
「バレなきゃ大丈夫」「みんなやっているから平気だろう」……
そんな軽い気持ちが、取り返しのつかない事態を招くことがあります。
ここからは、500万円の壁を超えてしまった場合のリスクと罰則について、行政書士として心を鬼にして、厳しく現実をお伝えします。
追加工事で500万円を超えたら違反になるか
現場は生き物です。
リフォーム工事などで壁を剥がしてみたら土台が腐っていた、お客様から急に「やっぱりここのグレードを上げてほしい」と言われた……
そんな「追加変更工事」は日常茶飯事ですよね。
では、当初の契約が税込480万円だった工事で、途中で30万円の追加工事が発生し、最終的な着地見込みが510万円になった場合、どうなるのでしょうか?
答えは残酷です。
合計額が500万円以上になると確定した時点で、無許可業者はその工事を施工する資格を失います。
法律は「最終的な請負代金の合計額」で判断します。
「当初は超えるつもりはなかった」「不可抗力で追加が出た」といった事情は考慮されません。
実務上の対応としては、500万円を超える部分の工事を断るか、あるいは工事全体を許可を持っている別の業者に引き継ぐしかありません
(現実的には工期や責任区分の問題で非常に困難ですが)。
もっとも重要な対策は、「税込400万円台後半の工事は、無許可のうちは受けない」という自衛策を徹底することです。
予期せぬ追加工事は必ず発生します。その「予備の枠」を残しておかなければ、自分の首を絞めることになります。
500万円以上の工事が無許可でバレる理由
「うちは小さな個人事業主だし、役所がいちいち見に来ることなんてないだろう」と高を括っていませんか?
確かに、国交省の職員がパトロールで全現場を回ることは不可能です。しかし、現代社会において「隠し通す」ことはほぼ不可能です。無許可営業が発覚するルートは、皆さんが想像する以上に多岐にわたります。
主な発覚ルート
- 税務調査からの情報連携: 税務署が売上をチェックした際、請求書等の証憑から500万円を超える工事契約が発見されるケース。悪質な場合は行政へ通報されるリスクがあります。
- 労働基準監督署の調査: 現場で労災事故が起きた場合、労基署が徹底的に調査に入ります。そこで元請・下請関係や契約金額が明るみになり、無許可営業が露呈します。
- 公共工事の施工体制台帳: 公共工事の現場では、「施工体制台帳」に全ての一次下請け、二次下請け業者の名前と許可状況が記載されます。ここはガラス張りですので、ごまかしは一切ききません。
- 公益通報(タレコミ): 実はこれが非常に多いのです。「あそこの業者は許可がないのに大きな工事をやっている」という通報が、辞めた元従業員や、仕事を取られた競合他社から行政に寄せられます。
3年以下の懲役や罰金など無許可営業の罰則
では、実際に無許可で500万円以上の工事を請け負った場合、どのような罰則が待っているのでしょうか。建設業法の罰則は、他の行政法規と比べても極めて重く設定されています。
建設業法第47条(無許可営業等の罪)
3年以下の懲役 または 300万円以下の罰金
(情状によっては、懲役と罰金の両方が科されることもあります)
「300万円払えば終わりか」と思わないでください。法人の場合、行為者(社長など)だけでなく、会社そのものに対しても罰金が科される「両罰規定」があり、その上限はなんと「1億円以下」です。中小企業にとっては、倒産に直結する金額です。
さらに恐ろしいのは、罰金刑以上の刑を受けると、「欠格要件」に該当してしまうことです。
欠格要件に該当すると、現在持っている許可(もしあれば)は取り消され、その後5年間は新たに建設業許可を取得することができなくなります。
つまり、たった一度の「まあいいか」という違反が、5年間にわたって500万円以上の工事を一切受注できなくなる「事実上の廃業勧告」につながるのです。このリスクは、あまりにも大きすぎます。
(出典:e-Gov法令検索『建設業法』罰則規定参照)
無許可業者への発注で発生する発注者責任
ここまでは「受注する側(下請けなど)」の話でしたが、リスクは「発注する側(元請)」にも及ぶことを忘れてはいけません。
500万円以上の工事を、許可を持っていない業者に下請けさせた場合、元請業者は「建設業法違反の監督処分」を受ける可能性があります。
具体的には、行政からの「指示処分」や、公共工事の「指名停止処分」、最悪の場合は「営業停止処分」が下されます。元請業者にとって、無許可業者を使うことは、自社のコンプライアンス体制の欠如を露呈し、社会的信用を失墜させる自殺行為に等しいのです。
そのため、最近ではスーパーゼネコンやハウスメーカーに限らず、地場の工務店レベルでも、「金額に関わらず、建設業許可を持っていない業者とは一切取引しない」という厳しい方針(グリーン調達のような基準)を設ける企業が急増しています。許可がないと、そもそも見積もりの土俵にすら上がれない時代になりつつあるのです。
下請け業者も守るべき500万円の上限規制
下請けの立場の職人さんから、「元請けの社長に『550万円の仕事だけど、お前ならできるだろ?なんとか頼むよ』と言われて、断りきれなかった」という相談を受けることがあります。
心情は痛いほど分かります。仕事を断れば、次の仕事が来なくなるかもしれないという恐怖もあるでしょう。
しかし、法律上、「元請けに頼まれたから」という理由は免罪符にはなりません。下請け業者であっても、独立した一事業者として法令を遵守する義務があります。
もしその工事で事故が起きたり、行政調査が入ったりした場合、処罰されるのは元請けだけではありません。実際に手を動かしたあなた自身も、「無許可営業」として処罰の対象になります。
元請けからの無理な依頼に対しては、「許可がないので、法律上この金額では受けられません」とはっきり断る勇気を持つこと。それが、あなた自身と、あなたの大切な会社や家族を守ることにつながります。
500万円の壁に関する行政書士への相談まとめ
ここまで、建設業許可における「500万円の壁」について、かなり踏み込んで解説してきました。
500万円という基準は、単なる数字の区切りではありません。消費税、材料費、契約形態など、様々な要素が絡み合う複雑なラインであり、ここを正しく理解し遵守できるかどうかが、建設業者としての「資質」そのものと言っても過言ではありません。
「今の契約内容で本当に大丈夫だろうか?」「そろそろ売上も伸びてきたし、許可を取るべきタイミングかな?」と迷われた際は、自己判断せずに、ぜひ建設業許可を専門とする行政書士にご相談ください。
建設業許可を取得することは、単に500万円以上の工事ができるようになるだけではありません。銀行からの融資が受けやすくなったり、公共工事への入札参加資格(経営事項審査)への道が開けたりと、事業を次のステージへと押し上げる最強のパスポートになります。
法令を遵守し、堂々と大きな仕事を受注できる強い会社を、私たちと一緒に作っていきましょう。
