

「社長である私が、全部の要件を一人で満たせれば一番安上がりなんだけど…」 「資格を持っている知り合いを、週1回のアルバイトで雇って許可を取りたい」
建設業許可の相談を受ける際、必ずと言っていいほど聞かれるのが、この**「ヒト(人的要件)」**に関する悩みです。
建設業許可には「500万円の資金」などの要件がありますが、実はお金の問題は融資などで解決できることが多く、一番のハードルになるのは**「適切な人材がいるかどうか」**なのです。
特に小規模な事業者や一人親方にとって、新しい人を雇う余裕はありません。できれば今いるメンバー、あるいは社長一人で許可を取りたいと考えるのは当然のことです。
ネットで検索すると、「名義貸し」のような危険な情報から、法改正による新しい「緩和措置」まで、様々な情報が錯綜しています。
この記事では、年間数多くの申請をサポートする行政書士の視点から、「経営業務の管理責任者(経管)」と「専任技術者(専技)」の兼務のルール、そして**要件が足りない時に使える合法的なテクニック(裏ワザ)**について、包み隠さず解説します。
正しい知識を持てば、諦めかけていた許可取得への道が拓けるかもしれません。
ポイント
社長一人で「経管」と「専技」を兼務することは可能なのか?
非常勤(アルバイト)や出向社員でも要件を満たせるのか?
役員経験が5年に満たない場合の「救済措置」とは?
経管と専技は兼務可能?一人親方が許可を取るための鉄則
まず、建設業許可における「ヒト」の二大巨頭である「経営業務の管理責任者(以下、経管)」と「専任技術者(以下、専技)」について整理しましょう。
経管(けいかん): 建設業の経営経験がある「経営のプロ」。会社の取締役や個人事業主など。
専技(せんぎ): 工事の技術的な実務経験や資格を持つ「技術のプロ」。
結論から申し上げますと、この二つを同一人物が兼ねることは、全く問題ありません。 というよりも、小規模事業者の9割以上は、この「兼務」パターンで申請しています。
なぜなら、兼務には圧倒的なメリットがあるからです。しかし、そこには絶対に守らなければならない「鉄則」と、例外的に兼務が認められない「NGパターン」が存在します。
結論:同一営業所なら「一人二役」が最強かつ最短のルート
最もスタンダードで、かつコストがかからないのが、**「社長(代表取締役・個人事業主)が、経管と専技を両方兼ねる」**というパターンです。
これを「一人二役」と呼びます。
例えば、あなたが10年以上、一人親方として内装工事を請け負ってきたとしましょう。 この場合、あなたには以下の実績があるはずです。
経営の実績: 個人事業主として確定申告を5年以上行っている(=経管の要件クリア)
技術の実績: 10年間の実務経験がある、または建築施工管理技士などの資格を持っている(=専技の要件クリア)
このように、一人の人間の中に両方の要件が備わっていれば、わざわざ他から人を雇う必要はありません。
行政側も、中小企業の実態として「社長が現場も経営も見る」ことは重々承知しているため、同一の営業所(本店のみ等)であれば、兼務を推奨しています。
兼務のメリット
人件費ゼロ: 新たな雇用が不要。
退職リスクなし: 従業員を要件にすると、その人が辞めた瞬間に許可取り消しの危機に陥りますが、社長ならその心配がありません。
意思決定が速い: 経営判断と技術判断を一元化できます。
まずは、「社長一人で両方満たせないか?」を徹底的に探るのが、許可取得のセオリーです。
兼務が認められない「唯一のNGパターン」とは
「兼務はOK」と言いましたが、これには一つだけ重要な条件があります。
それは、**「常勤する営業所が同じであること」**です。
逆に言えば、「本店と支店」など、場所が離れている場合は兼務できません。
【NG例】
本店(大阪): 社長が常駐。ここで「経管」として登録。
支店(京都): 営業所を新設。社長がここでも「専技」として登録したい。
これは認められません。建設業法では、経管も専技も「営業所に常勤(毎日出勤)していること」が絶対条件だからです。「身体は一つしかないのに、大阪と京都の両方に毎日常勤することは不可能」と判断されます。
たとえ車で30分の距離であっても、別の営業所である以上、兼務は不可です。 支店を出す場合は、その支店に常駐できる別の「専技(支店長候補)」を雇わなければなりません。これが、多店舗展開をする際の最大の壁となります。
※ただし、例外として「同一敷地内」や「隣接する建物」であれば認められるケースもありますが、非常に稀です。
経営業務の管理責任者(経管)の「5年」の数え方と証明の壁
兼務を目指す際、技術面(専技)は資格があれば一発クリアですが、多くの社長が苦しむのが**「経管としての5年の経験」**の証明です。
「5年やっています」と口で言うだけでは通りません。書面での証明が全てです。
【法人役員の場合】
証明書類: 登記事項証明書(履歴事項全部証明書)。
注意点: 監査役の期間はカウントされません。「取締役」以上の期間が5年以上必要です。また、登記をサボっていて重任登記が切れている期間があると、認められない場合があります。
【個人事業主の場合】
証明書類: 過去5年分(以上)の確定申告書の控え。
注意点: 毎年連続して確定申告をしていることが必須です。「数年サボっていた」「赤字だから申告していなかった」という期間は、経験年数としてカウントされません。さらに、確定申告書Bの職業欄に「建設業」「内装工事業」などの記載があるかどうかも厳しく見られます。
また、意外な落とし穴として**「建設業許可を持っていない会社での役員経験」**もカウントできますが、その場合は「その会社が本当に建設工事をしていたのか」を証明するために、過去の契約書や請求書を5年分引っ張り出してくる必要があります。これが「ドキュメント・ヘル(書類地獄)」と呼ばれる所以です。
専任技術者(専技)の実務経験と資格の優位性
専技になるためのルートは大きく分けて3つあります。
国家資格ルート: 1級・2級施工管理技士、建築士、技能士など。
学歴+実務経験ルート: 指定学科(建築・土木等)の大卒なら3年、高卒なら5年の実務経験。
10年実務経験ルート: 資格も学歴もない場合、10年間の実務経験を証明する。
兼務を狙う社長にとって、もし資格を持っていないなら「10年実務経験」で挑むことになります。しかし、これは経管の5年証明よりもさらに過酷です。
10年分の工事契約書、注文書、請求書+通帳のコピーを、1年につき数件ずつ、合計で数十件〜百件近く揃えなければなりません。 さらに、前述の「経管」と「専技」の期間は重複してカウントできます。つまり、**「個人事業主として10年間、自分で現場に出て(専技要件)、自分で経営していた(経管要件)」**ことを証明できれば、一人で両方の椅子に座ることができるのです。
これから許可を目指す若い職人さんには、声を大にして言いたいことがあります。 「契約書と請求書は、10年間絶対に捨てないでください」。 それが、将来あなたを助ける最強の武器になります。
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実務経験証明書の書き方完全ガイド!前の会社の印鑑がない時の対処法
非常勤は認められる?要件緩和と「裏ワザ」の正体
「社長の私には要件がない。でも、社員を雇う余裕もない」 「父が持っていた資格を使いたいけれど、もう高齢で毎日は来られない」
次に多いのが、こうした**「常勤性(毎日出社すること)」に関する相談です。 結論から言うと、建設業許可において「非常勤」や「名義貸し」は絶対に認められません。** しかし、法律の枠内で使える**「適法なテクニック」**は存在します。
ここでは、誤解されやすい「常勤」の定義と、プロだけが知る救済措置について解説します。
「常勤性」の壁!名義借りが絶対にバレる理由
まず、絶対にやってはいけないこと。それが「名義貸し(名義借り)」です。 「名前だけ貸してあげるよ」という有資格者の甘い言葉に乗ると、許可取り消しはおろか、最悪の場合は逮捕されるリスクすらあります。
行政庁は、「本当にその人が毎日会社に来て働いているか(常勤性)」を、以下の書類で厳格にチェックします。
常勤性の確認資料(標準的な例)
健康保険被保険者証(社会保険証): 事業所名が記載されたもの。
雇用保険被保険者資格取得確認通知書
住民票: 営業所への通勤が可能な距離に住んでいるか。
特に強力なのが**「社会保険証」**です。 社会保険に加入しているということは、「平日の所定労働時間の4分の3以上働いている」という公的な証明になります。逆に言えば、他社で社会保険に入っている人を、自社の専技にすることはできません(二重加入になるため)。
「週に1回だけ来てくれる顧問」や「他社の正社員である友人」は、どうあがいてもこの「社会保険」の壁で弾かれます。 行政書士としても、実態のない名義借りの相談はお断りしています。それは、依頼者を犯罪者にしたくないからです。
【裏ワザ1】75歳以上のシニア技術者を活用する特例
では、高齢の親族やベテラン職人を活用する道は完全に閉ざされているのでしょうか? 実は、一つだけ例外があります。それが**「後期高齢者医療制度」の対象者(75歳以上)**を活用する場合です。
75歳以上の方は、制度上、会社の健康保険(社保)から外れて、個人で「後期高齢者医療制度」に加入します。つまり、会社名入りの保険証が発行されません。 そのため、このケースに限り、**「社会保険証以外の書類」**で常勤性を証明することが認められています。
代替資料の例
住民票(通勤可能な距離か)
定期券のコピーや出勤簿
賃金台帳(毎月一定額の給与が支払われているか)
医師の診断書(就労可能であることの証明)が必要な場合も
これらを使って、「毎日出勤できる健康状態であり、実際に通勤し、給与も支払われている」ことを証明できれば、75歳以上のベテラン技術者を専任技術者として迎えることが可能です。 これは、人手不足に悩む建設業界において、シニア人材を活用するための有効な手段です。
【裏ワザ2】他社からの「出向社員」を専技にする方法
「グループ会社には資格者がいるのに、新設会社にはいない」 そんな時に使えるテクニックが**「出向(しゅっこう)」**です。
これは「名義貸し」とは明確に異なります。 A社(出向元)に在籍したまま、B社(出向先・申請会社)に常駐して指揮命令を受ける契約を結ぶ方法です。
この場合、健康保険証はA社のままであることが多いため、通常の手続きでは「B社にいない」と判断されてしまいます。そこで、以下の書類を追加で提出し、適法な出向であることを証明します。
出向の証明書類
出向協定書・出向契約書: A社とB社の間で取り交わしたもの。
出向辞令: 本人への辞令のコピー。
賃金の負担関係がわかる書類: B社が給与相当分をA社に支払っている証拠など。
これにより、籍はA社にありながら、実態としてB社で常勤していると認めさせることができます。 ただし、出向期間中はA社の専技になることはできません(身体は一つだからです)。グループ企業間での人材配置を考える際に、非常に有効な戦略です。
【最新改正】役員経験が5年ない場合の救済措置(補佐者)
2020年(令和2年)10月の建設業法改正により、最大の難関だった「経管の要件」が大幅に緩和されました。 これまで「役員経験5年必須」で泣く泣く諦めていた事業者にとって、革命的な変更です。
新しいルールでは、「役員経験が5年に満たない人」でも、以下の条件を満たせば経管になれる道が開かれました。
新要件:チームで経営力を証明する
申請者(今の役員): 建設業での役員経験が2年以上あること(+それ以外の期間を含めて5年以上の役職経験)。
補佐者(ナンバー2): 申請者を直接補佐する者として、建設業の財務・労務・業務運営の経験が5年以上ある人を常勤で置くこと。
つまり、**「社長は経験2年しかないけど、番頭さん(補佐者)がベテランだから、二人合わせてOKにしてください」**という申請が可能になったのです。
この「補佐者」は、役員である必要はありません。古株の従業員や、経理部長などでも要件を満たす可能性があります。 一人ですべて背負うのではなく、組織の力で許可を取る。これが令和の建設業許可の新しいスタンダードになりつつあります。
どうしても要件が足りない時の最終手段
ここまで、兼務や緩和措置について解説してきましたが、それでも「どうしても要件を満たせる人がいない」というケースもあるでしょう。
その場合の選択肢は、現実的に以下の3つしかありません。
要件を満たす人を役員として招き入れる
知り合いの引退した親方や、資格者をヘッドハンティングして、登記上の役員(取締役)に就任してもらい、常勤してもらう。最も確実ですが、報酬の支払いが必要です。
要件を満たすまで待つ(実績を積む)
500万円未満の工事を請け負いながら、地道に経験年数を稼ぐ。この期間、契約書などの書類管理を徹底し、将来の申請に備える。
許可業者と合併する、あるいは会社を買う(M&A)
ハードルは高いですが、事業承継の一環として許可ごと会社を引き継ぐ方法です。
「なんとかごまかせないか?」と考えるのは時間の無駄であり、リスクしかありません。 それよりも、**「今の自社の状況で、最短で許可を取るにはどのルートが使えるか?」**を建設的に考えるべきです。
建設業許可の要件判断は、自治体(都道府県)によってローカルルールが存在し、担当者の裁量によって判断が分かれる微妙なケースも多々あります。
「自分はダメだ」と思い込んでいても、私のような専門家が履歴書を詳しくヒアリングすると、「あ、この期間の経験と、この資格を組み合わせればいけますね!」という解決策が見つかることが本当によくあります。
特に、**「健康経営」**の視点を取り入れ、社会保険の加入状況や就業規則を整備することで、人材確保(=要件を満たす人の採用)が有利になるケースも増えています。 許可取得はゴールではなく、会社を強くするためのスタート地点です。
一人で悩んで時間を浪費する前に、ぜひ一度、建設業許可のプロにご相談ください。あなたの会社に隠れた「許可への切符」を、一緒に探し出しましょう。
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「要件が足りない…」と諦める前に
ご自身で判断して「許可は無理だ」と諦めていませんか?
建設業許可のプロが経歴をヒアリングすれば、意外な「裏ワザ(合法的な救済措置)」が見つかることが多々あります。
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