こんにちは、おのっちです。
「個人事業主でも建設業許可って取れるのかな?」
「専任技術者の要件が難しそうで不安」
そんなふうに悩んでいませんか。
実は、法人じゃなくてもポイントさえ押さえれば許可は取得できるんですよ。
特に一人親方や個人事業主の方は、書類の準備や資金面の証明でつまずきがちですが、正しい知識があれば大丈夫。
この記事では、建設業許可の専門家である私が、個人事業主が許可を取るための具体的な条件や、一番の難関である実務経験の証明方法について、わかりやすく解説していきます。
ここ気になりますよね。最後まで読めば、あなたも自信を持って申請の準備を進められるはずです。
- 個人事業主でも500万円の資金証明があれば許可は取得できる
- 10年の実務経験は過去の請求書と通帳のセットで証明可能
- 従業員4人以下の個人事業所なら社会保険は未加入でもOK
- 将来的に法人成りしても認可承継制度で許可を引き継げる
個人事業主が建設業許可を取得する要件と実務経験
個人事業主が建設業許可を取得するためには、法人と同じく建設業法に基づく「5大要件」と呼ばれる厳しい基準をクリアしなければなりません。
これは「ヒト・モノ・カネ」に関する審査と言い換えることもできます。
「ヒト」は経営経験や技術力、「カネ」は財産的基礎、「モノ」は営業所の実態などです。
特に個人事業主の方の場合、法人と違って登記簿謄本などの公的な証明書類が少ないため、確定申告書や過去の請求書など、自分で管理している書類が審査の命綱になります。
「書類がない=実態がない」とみなされてしまう厳しい世界ですので、ここでは個人事業主の方が特につまずきやすいポイントに絞って、具体的なクリア方法を深掘りして解説していきますね。
専任技術者に必要な国家資格と29業種の区分
建設業許可を取る上で、もっとも高いハードルになりがちなのが「専任技術者(専技)」の設置です。
専任技術者とは、その営業所に常勤して、請負契約の締結や履行について技術的なサポートをする責任者のこと。
現場に出る「主任技術者」や「監理技術者」とは違い、原則として営業所にいなければならない内勤の技術者なんですよ。
この専任技術者になるためには、許可を取りたい業種に対応した「国家資格」を持っているか、あるいは「一定の実務経験」が必要です。
一番スムーズで確実なのは、やはり国家資格を持っていることですね。
主な国家資格と実務経験の短縮
国家資格を持っていれば、面倒な実務経験の証明が不要になったり、大幅に短縮されたりします。ご自身が持っている資格がどの業種に対応しているか、しっかり確認しましょう。
| 資格名称 | 対応する主な業種 | 備考 |
|---|---|---|
| 1級・2級建築施工管理技士 | 建築一式、大工、左官、とび・土工、石、屋根、タイル、鋼構造物、鉄筋、板金、ガラス、塗装、防水、内装仕上、熱絶縁、建具、解体 | 最強の資格の一つ。2級は「建築」「躯体」「仕上げ」の種別により対応業種が異なる。 |
| 1級・2級土木施工管理技士 | 土木一式、とび・土工、石、鋼構造物、舗装、しゅんせつ、塗装、水道施設、解体 | 土木工事全般をカバーできる強力な資格。 |
| 第1種電気工事士 | 電気工事 | 実務経験なしで即なれる。 |
| 第2種電気工事士 | 電気工事 | 免許交付後、3年の実務経験が必要。 |
| 給水装置工事主任技術者 | 管工事 | 免状交付後、1年の実務経験が必要。 |
このように、資格によっては「合格後に実務経験が必要」なケースもあるので注意が必要です。特に第2種電気工事士や給水装置工事主任技術者は、試験に受かっただけでは専任技術者になれない、という落とし穴があります。
29業種の区分と選び方
建設業許可は、建設工事の種類ごとに29業種に分かれています。「どの業種を取ればいいの?」と迷う方も多いですが、基本的には「直近の実績が多い業種」や「今後メインで受注したい業種」を選ぶのが正解です。
よくある間違いが、「リフォーム工事をしているから『建築一式工事』を取りたい」というケース。実は、内装リフォームやクロスの張り替えなどは「内装仕上工事業」に該当します。「建築一式」は、元請として新築工事や大規模な増改築を一括して請け負う場合の許可なので、個人のリフォーム業者さんには実績要件のハードルが高すぎるんです。
また、指定学科(建築学科や土木工学科など)を卒業している場合は、実務経験が短縮される(大卒3年、高卒5年)ルートもあります。卒業証明書や成績証明書が必要になりますが、これも有効な手段ですよ。
詳しくは、国土交通省の公式サイトで最新の資格要件を確認してみてくださいね。
(出典:国土交通省『営業所専任技術者の要件』)
10年の実務経験を請求書や通帳で証明する方法
国家資格を持っていない場合でも、諦める必要はありません。取りたい業種について「10年以上の実務経験」があれば、専任技術者になることができます。いわゆる「たたき上げ」の職人さんたちが活用するルートですね。学歴も資格も関係なく、現場での経験そのものが武器になります。
ただ、正直に言いますね。この「10年証明」は建設業許可申請の中で最難関のハードルです。なぜなら、口頭で「俺はこの道20年のベテランだ!」と役所の窓口で叫んでも、一切認めてもらえないからです。役所が信じるのは「客観的な書類」だけ。つまり、過去10年間にわたって建設工事を請け負ってきたという事実を、膨大な書類で積み上げて証明する「ドキュメント・ウォー」を勝ち抜く必要があるんです。
実務経験の証明に必要な「三種の神器」
具体的にどんな書類が必要になるのか、見ていきましょう。基本的には以下の3点セットを、10年分(つまり120ヶ月分)用意する必要があります。
これがないと始まらない!証明書類セット
- 工事請負契約書(または注文書・請書)
一番証拠能力が高い書類です。工期、工事内容、請負金額が明記されているため、これがあればスムーズです。 - 請求書(工事内容がわかるもの)
契約書がない場合(口約束が多い場合)、請求書の控えで代用します。ただし、「工事一式」だけでは内容が不明なので、内訳書や見積書もセットにしましょう。 - 預金通帳(原本)
これが最大のポイントです。請求書の金額が実際に入金されていることが記帳された通帳の原本が必要です。
「えっ、通帳も見せるの?」と驚かれるかもしれませんが、これは架空の請求書による不正申請を防ぐためなんです。請求書だけなら後からいくらでも作れてしまいますからね。そのため、もし「現金手渡し」でやり取りしていて通帳に記録がない場合、証明として認められない可能性が非常に高くなります。その場合は、当時の発注者に頼んで「発注証明書」に実印を押してもらうなどの裏ワザ(代替手段)が必要になりますが、10年前のお客様にお願いするのは現実的にかなり厳しいですよね。
期間の数え方と緩和措置
10年分の書類といっても、毎月毎月120枚全部を提出するのは大変すぎますよね。そこで、多くの自治体では緩和措置が設けられています。
- 東京都の場合:以前は「毎月1件」が必要でしたが、現在は「3ヶ月に1件」程度の確認で期間を通算できる運用になっています。
- その他の県:「1年に1件(決算期ごとの代表的な工事)」でOKとする場合もあれば、「毎月必要」とする厳しい県もあります。
重要なのは、「空白期間はカウントされない」ということです。たとえば、病気で半年休んでいた期間や、建設業以外の仕事をしていた期間は、実務経験の10年に含めることができません。その分、過去に遡って期間を延長する必要があります。
まずは押し入れや倉庫から、過去の段ボールをひっくり返して、古い請求書や通帳が残っているか確認してみてください。「捨ててしまった…」という場合でも、銀行で過去の取引履歴を発行してもらう(有料ですが)などの手立てはありますので、諦めずに専門家に相談してみましょう。
経営業務の管理責任者に必要な確定申告書の控え
「専任技術者」と並んで重要なのが、「経営業務の管理責任者(通称:経管・けいかん)」です。これは、建設業の経営業務を適正に行う能力がある責任者のこと。単に工事ができるだけでなく、資金繰りや契約管理といった「経営」の経験が求められるんです。
個人事業主として申請する場合、基本的にはあなた自身(事業主本人)がこの経管になることになります。
必要な経験年数と証明書類
経管になるために必要な経験年数は「5年以上」です。この5年間、個人事業主として建設業を営んでいたことを証明するための最強の書類が、「確定申告書の控え」なんですよ。
確定申告書で厳しくチェックされる3つのポイント
- ① 受付印があるか
税務署の受領印(収受印)が押されていることが必須です。e-Taxで申告した場合は、送信完了時に発行される「受信通知(メール詳細)」を印刷したものが受付印の代わりになります。これがないと、「正式に申告された書類」として認められません。 - ② 職業欄の記載
確定申告書第一表の「職業」欄に、「建設業」「大工」「内装工」「とび」などの記載があるか確認されます。ここが空欄だったり、「サービス業」など曖昧な記載だったりすると、追加の説明資料を求められることがあります。 - ③ 決算書の中身
青色申告決算書(または収支内訳書)の内容も重要です。「売上」があることはもちろん、「外注工賃」や「材料費」などの経費が計上されており、建設業を営んでいる実態が数字から読み取れる必要があります。
もし確定申告書がない場合は?
「昔の申告書、どこに行ったかわからない…」という方もいるかもしれません。その場合は、税務署で「保有個人情報開示請求」を行うことで、過去の申告書の内容を確認できる場合があります。
一番まずいのは、「無申告(脱税)」の期間がある場合です。建設業許可は適正な経営を行っている業者に与えられるものですから、納税義務を果たしていない期間は、残念ながら経営経験としてカウントされません。もし無申告の期間があるなら、まずは税理士さんに相談して修正申告を行い、納税を済ませてから実績を積み直す必要があります。
また、確定申告書だけでなく、その期間に対応する「工事請負契約書」や「請求書」もセットで必要になる自治体が多いです。「申告はしているけど、実際の工事実績はあるの?」という裏付けを取るためですね。ここでもやはり、日頃の書類管理がモノを言うわけです。
500万円の残高証明書と財産的基礎の要件
建設業許可を取るためには、「お金があること」も証明しなきゃいけません。建設工事は着工から入金までの期間が長く、材料費や外注費の先行払いが発生するため、一定の資金力がないと途中で工事がストップして発注者に迷惑をかける恐れがあるからです。
これを「財産的基礎要件」と言い、一般建設業許可の場合は「500万円以上の資金力」が求められます。
「500万円なんて大金、手元にないよ…」と焦る必要はありません。個人事業主の場合、証明方法は大きく分けて2つあります。
① 自己資本が500万円以上あること
これは、直近の確定申告書(青色申告決算書の貸借対照表)を見ます。「元入金」+「事業主借」+「各種引当金」+「当期純利益(繰越利益)」などの合計額(純資産)が500万円以上あれば、それだけで要件クリアです。
長年黒字経営を続けて内部留保が厚い事業主さんは、この方法で証明できることが多いですね。
② 500万円以上の資金調達能力があること
創業したばかりの方や、自己資本が500万円に満たない方は、こちらの方法を使います。ご自身の名義の銀行口座に500万円以上の残高がある状態で、銀行から「残高証明書」を発行してもらう方法です。
残高証明書の取得に関する重要テクニック
- 有効期限が短い!
多くの自治体で、「許可申請の受付日から遡って1ヶ月以内(または4週間以内)」の残高証明書が必要です。書類作成などの準備がすべて整い、「よし、来週申請に行くぞ!」というタイミングで銀行に行くのがベストです。早く取りすぎると、申請時には期限切れになってしまいます。 - 一時的な入金でもOK?
極端な話、証明日(基準日)の時点で500万円が入っていればOKです。親族から一時的に借りて入金し、証明書を取った翌日に返す、といった方法でも形式上は審査に通ります(いわゆる見せ金)。ただし、これは推奨される方法ではありませんし、経営の実態として不安定ですので、あくまで最終手段と考えてください。 - 複数の口座の合算は?
A銀行に300万、B銀行に200万、合計500万…という合算も、同日付けの残高証明書であれば認められるケースが多いですが、自治体によって運用が異なります。基本的には1つの口座にまとめた方が審査はスムーズですよ。
この「500万円」という基準は、許可を取ることで「500万円以上の工事(税込)」を請け負えるようになることとリンクしています。許可を取れば、これまで断っていた大きな案件にもチャレンジできるようになりますから、一時的に資金をかき集めてでもクリアする価値は十分にあります。
社会保険の加入義務と適用除外になる条件
近年、建設業界における最大のトピックといっても過言ではないのが「社会保険(健康保険・厚生年金・雇用保険)」への加入問題です。国交省は「社会保険未加入対策」を強力に進めており、許可申請の際にも加入状況が厳しくチェックされます。未加入の場合、許可が下りないケースも増えていますが、個人事業主には特有の「適用除外」というルールがあります。
個人事業主だけの特権「適用除外」とは
法人の場合、社長一人だけの会社であっても社会保険への加入は「絶対義務(強制適用)」です。しかし、個人事業主の場合は、従業員の人数によって扱いが異なります。
| 事業所の形態 | 従業員数 | 社会保険(健保・厚生年金) | 雇用保険 |
|---|---|---|---|
| 個人事業主 | 常時5人以上 | 加入義務あり (強制適用) |
加入義務あり |
| 常時4人以下 (一人親方含む) |
加入義務なし (適用除外) |
加入義務あり (従業員がいる場合) |
つまり、従業員が自分一人だけ、あるいは家族従業員と少数の従業員だけ(合計4人以下)であれば、健康保険は「国民健康保険(または建設国保)」、年金は「国民年金」に加入していれば、社会保険未加入の状態でも「適用除外」として適法に建設業許可を取得できるんです。これは法人にはない、個人事業主ならではの大きなメリットと言えます。
現場での「入場規制」との板挟み
ただし、法律上は許可が取れても、現場の実務では別の問題が発生します。大手ゼネコンの現場などでは、「グリーンサイト」への登録が必須となっており、そこで「社会保険未加入」と判定されると、現場への入場を断られるケースが増えているのです。
元請業者からは「許可を取るなら社保にも入ってくれ」と言われ、でも「個人事業主で4人以下なら入れない(任意適用申請が必要)」というジレンマに陥ることも。
もし、将来的に法人化を目指していたり、従業員を増やして規模を拡大したいと考えているなら、許可取得を機に「建設業国民健康保険組合(建設国保)」への加入や、任意での厚生年金加入を検討するのも一つの戦略です。建設国保なら、保険料が所得によらず定額であるなど、個人事業主にとってメリットも多いですよ。
社会保険の適用要件については、日本年金機構のサイトも参考にしてください。
(出典:日本年金機構『適用事業所と被保険者』)
個人事業主の建設業許可にかかる費用と法人成り
「許可を取るのにいくらかかるの?」「法人にしたほうがいいの?」これもよくある質問です。建設業許可は取得時だけでなく、維持更新にもコストがかかります。また、事業が成長すれば「法人成り」の選択肢も出てきますよね。ここでは、具体的な費用の内訳や、将来を見据えた法人化のタイミング、そして2025年時点での最新の法改正情報についてお話しします。
建設業許可の新規取得にかかる法定費用と相場
建設業許可を取得するには、まず役所に支払う手数料(法定費用)が必要です。これは、ご自身で申請しても、行政書士に依頼しても、誰がやっても必ずかかる実費です。金額は許可の種類(知事か大臣か)によって異なります。
申請時にかかる法定費用(新規申請)
- 知事許可:90,000円(収入証紙などで納付)
- 大臣許可:150,000円(登録免許税として納付)
個人事業主の方の9割以上は、一つの都道府県内にのみ営業所を置く「知事許可」に該当すると思います。ですので、まずは9万円を用意する必要がありますね。この9万円は、万が一審査に落ちて不許可になった場合でも返還されないことが一般的ですので、事前の要件確認がいかに重要かがわかります。
証明書取得にかかる実費
法定費用の他にも、申請書類に添付する公的証明書を集めるために数千円程度の実費がかかります。
- 身分証明書(本籍地の役所で取得):300円〜程度
- 登記されていないことの証明書(法務局で取得):300円
- 納税証明書(県税事務所などで取得):400円〜程度
- 住民票:300円〜程度
- 残高証明書発行手数料(銀行):数百円〜1,000円程度
これらを合計すると、ざっと5,000円〜1万円程度は見込んでおいた方が良いでしょう。ちりも積もれば山となりますので、予算に入れておいてくださいね。
行政書士への報酬目安と依頼するメリット
建設業許可申請は、制度上はご自身(本人申請)で行うことも可能です。しかし、正直に申し上げて、個人事業主の方の申請、特に「実務経験10年」で証明する場合の難易度は超S級です。書類作成のルールは細かく、ローカルルールも多いため、慣れていない方がやると平気で数ヶ月かかってしまいます。
そこで、専門家である行政書士に依頼する場合の報酬相場を見てみましょう。
行政書士報酬の目安(新規・知事・一般)
約10万円 〜 15万円(税別)
※実務経験の証明が複雑な場合や、書類収集から丸投げする場合は+3万〜5万円程度加算されることが多いです。
「高いなぁ、9万円の証紙代と合わせたら20万越えか…」と躊躇する気持ち、よくわかります。でも、依頼するメリットはコスト以上にあるんですよ。
- 時間の節約:膨大な書類収集や作成、役所との事前相談の手間がすべて省けます。あなたは本業の現場仕事に専念できます。
- 実務経験の証明力:ここが一番大きいです。行政書士は「どの書類とどの書類を組み合わせれば証明として認められるか」のノウハウを持っています。自分では「無理だ」と諦めていたケースでも、プロの視点で書類を整理したら許可が取れた、という事例は山ほどあります。
- 補正リスクの回避:素人が申請すると、窓口で「ここのハンコが違う」「この書類が足りない」と何度も突き返され、何度も役所に足を運ぶことになります。プロに頼めば一発受理が基本です。
日当2万円の職人さんが、書類作成と役所回りで10日間仕事を休んだら、それだけで20万円の損失ですよね。そう考えれば、行政書士への報酬は決して高い投資ではないはずです。
許可の有効期間と更新手続きのスケジュール
苦労して建設業許可を取っても、それでゴールではありません。建設業許可には「5年間」という有効期間があります。5年ごとに「更新手続き」を行わないと、許可は失効してただの人(無許可業者)に戻ってしまいます。
更新手続きのデッドライン
有効期間満了日の30日前までに更新申請を行う必要があります。
例えば、許可日が「令和5年4月1日」なら、有効期限は「令和10年3月31日」まで。更新申請は、その30日前の「令和10年3月1日」までに行わなければなりません。うっかり1日でも過ぎてしまうと、原則としてアウトです。また新規で取り直しになり、費用も9万円(更新なら5万円)かかってしまいますし、許可番号も変わってしまいます。
毎年の「決算変更届」を忘れないで!
更新を迎えるための大前提として、毎年提出しなければならないのが「決算変更届(事業年度終了届)」です。これは、毎年の決算(個人なら確定申告)が終わった後、4ヶ月以内に「今年はこれくらいの工事をしましたよ」と役所に報告する義務です。
実は、この決算変更届を5年分きっちり提出していないと、更新申請を受け付けてもらえません。「5年後にまとめて出せばいいや」と思っていると、始末書を書かされたり、最悪の場合は許可が維持できなくなったりします。税理士さんに確定申告をお願いしている場合でも、この「決算変更届」は管轄外であることが多いので、自分で行うか、行政書士に依頼して毎年忘れずに提出しましょう。
赤字決算でも建設業許可を維持できるか
「最近、材料費の高騰で赤字続きなんだよなぁ…許可の更新はできるのかな?」という不安を持つ事業者さんは多いです。結論から言うと、赤字でも許可の更新は可能です。
新規取得の際は「500万円の資金力」が厳しく審査されましたが、更新の際は要件が変わります。一般建設業許可の場合、「直前の5年間、許可を受けて継続して営業した実績」があれば、財産的基礎要件は満たしているとみなされます。
つまり、赤字でお金が減っていても、5年間ちゃんと営業して更新の時期を迎えられたなら、資金力の証明(残高証明書など)は不要になるんです。
ただし「特定建設業」は別!
もしあなたが「特定建設業許可(元請として大規模工事を行う許可)」を持っている場合は話が別です。特定建設業の更新では、財産的基礎要件が非常に厳しく、赤字や債務超過の状態だと更新ができず、一般建設業許可にランクダウン(般特新規)しなければならないケースがあります。
とはいえ、一般建設業であれば赤字でも即取消しにはなりません。ですが、赤字が続けば銀行融資も受けにくくなり、経営そのものが立ち行かなくなります。許可維持のためだけでなく、事業存続のために黒字化を目指すのは言うまでもありませんね。
認可承継制度を活用した法人成りの手続き
事業が軌道に乗って売上が増えてくると、節税や対外信用のために「そろそろ株式会社にしようかな(法人成り)」と考えるタイミングが来るでしょう。一昔前までは、これが非常に厄介でした。個人で取った許可はあくまで「個人」のものなので法人には引き継げず、一度個人事業を廃業して許可を返納し、法人としてゼロから新規許可を取り直す必要があったのです。
その間、数ヶ月の「無許可期間(空白期間)」が発生してしまい、500万円以上の工事を請け負えない時期ができてしまうのが大きなデメリットでした。
しかし、令和2年の法改正で「認可承継(にんかしょうけい)制度」が創設されました!これにより、個人の許可を法人にスムーズにバトンタッチできるようになったのです。
認可承継制度のメリット
- 許可番号が変わらない:取引先への案内や請求書の変更が最小限で済みます。
- 空白期間がない:認可を受けた日に即座に地位が承継されるため、工事が途切れません。
- 実績が引き継げる:個人の頃の施工実績や経営年数が、法人の実績としてカウントされます。
【超重要】スケジュールの罠
この制度を使うための絶対条件は、「法人設立登記の前」に申請を行い、役所の認可を受けることです。先に会社を作って登記してしまったら、もうアウト。通常の新規申請しかできなくなります。
事業譲渡契約書の作成や、役所との事前相談を含めると、法人設立予定日の数ヶ月前から準備を始める必要があります。「会社作っちゃいました、許可引き継げますか?」という相談が後を絶ちませんが、それでは手遅れなんです。法人化を思い立ったら、登記のハンコを押す前に必ず建設業許可の専門家に相談してください。
(出典:国土交通省『事業承継制度について』)
2025年の法改正と建設キャリアアップシステム
最後に、これからの建設業界を生き抜くために知っておくべき最新トレンド、特に「2025年問題」とも絡む法改正やシステムの動きについて解説します。
建設キャリアアップシステム(CCUS)の普及
今、国が全力で推し進めているのが「建設キャリアアップシステム(CCUS)」です。これは、技能者一人ひとりにICカードを配布し、現場の入退場履歴や保有資格をクラウド上で「見える化」する仕組みです。
2025年時点では、個人の建設業許可取得の「必須要件」まではなっていませんが、公共工事や大手ゼネコンの現場では、CCUS登録がないと入場すらできない現場が増えています。また、経営事項審査(経審)でも加点対象になるなど、登録している業者が優遇される仕組みが出来上がっています。許可取得と合わせてCCUSへの登録も済ませておくと、今後の営業活動が有利になりますよ。
特定建設業の金額要件の緩和
近年の資材価格高騰(インフレ)に対応するため、特定建設業許可が必要となる下請発注金額の下限が引き上げられました。以前は「4,000万円(建築一式は6,000万円)」以上を下請に出す場合に特定許可が必要でしたが、これが「4,500万円(建築一式は7,000万円)」に緩和されています。
これにより、「ギリギリ特定許可が必要だったけど、緩和のおかげで一般許可でも大丈夫になった」というケースも出てきています。特定許可は財産要件などが厳しいので、一般許可で済むならそれに越したことはありません。ご自身の事業規模と照らし合わせて、最適な許可区分を選んでくださいね。
まとめ:個人事業主の建設業許可取得のポイント
長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。個人事業主が建設業許可を取得するための道のりは、決して平坦ではありません。しかし、ポイントさえ押さえれば、十分に手が届く目標です。最後に、この記事の要点を整理しておきましょう。
個人事業主が許可を取るための鉄則
- 資格の棚卸し:自分の持っている資格が29業種のどれに使えるか、まずは確認する。
- ドキュメント管理:10年実務経験の証明には、過去の請求書・契約書・通帳が命。絶対に捨てない!
- 資金のタイミング:500万円の残高証明書は、申請の直前に取得する。
- プロに頼る勇気:特に実務経験の証明や法人成り(認可承継)は、行政書士に任せた方が結果的に安上がりで確実。
建設業許可という「看板」を手に入れれば、社会的信用が上がり、請け負える工事の幅もグッと広がります。それは単なる許可証ではなく、あなたがこれまで積み上げてきた実績と信用の「証(あかし)」でもあります。「自分には無理かも…」と諦めずに、まずは手元の書類整理から始めてみてください。その一歩が、あなたの事業を次のステージへ大きく飛躍させるはずですよ。
