
建設業許可実績100件の行政書士小野馨です。
今回は、建設業者様から最も多くご質問いただく【建設業許可と経営事項審査の違い】について、実務の視点から徹底解説します。
「建設業許可を取ったから、すぐに公共工事に入札できるよね?」
経営者様からよくこのようなご相談を受けますが、実はこれ、大きな誤解なんです。
建設業許可はあくまで「スタートライン」。
そこから公共工事を受注するためには、「経営事項審査(経審)」というハードルを越え、自社の「格付け(ランク)」を上げる戦略が必要になります。
この記事では、複雑な2つの制度の違いをスッキリ整理した上で、2025年の法改正を見据えた「最短でランクアップするための裏ワザ」まで包み隠さずお伝えします。
- 建設業許可と経審の決定的な「役割の違い」がわかる
- 公共工事の入札に参加するための「最短ルート」が見える
- 2025年改正で重要になる「健康経営」や「CCUS」の対策がわかる
- 自社が目指すべき「ランク(格付け)」の目安がわかる
建設業許可や経営事項審査の仕組みと違い
まずは、建設業界における「許可」と「審査」の基本的な構造を理解しましょう。
これらは車の「両輪」のような関係ですが、その目的は明確に異なります。
建設業許可の区分と要件のポイント
建設業許可とは、500万円以上の建設工事(建築一式工事の場合は1,500万円以上)を請け負うために必要な「営業のライセンス(免許)」です。
公共・民間を問わず、一定規模以上の工事を行うすべての建設業者に義務付けられています。
許可を取得するためには、「人・モノ・金・誠実性」という4大要件を満たす必要があります。
特に「500万円の資金調達能力」は、多くの事業者様がつまずくポイントです。
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また、許可には「一般」と「特定」の区分があります。将来的に公共工事で大規模な元請工事(下請代金総額が4,500万円以上)を目指すなら、より厳しい基準の「特定建設業許可」が必要になります。
経営事項審査の項目とP点計算式
一方、経営事項審査(通称:経審)は、公共工事の入札に参加したい企業が必ず受けなければならない「会社の通信簿」です。
建設業許可が「営業してもいいですよ」という免許証なら、経審は「あなたの会社の実力は何点ですか?」というスコアリングシステムです。
参考
総合評定値(P点)の計算式
P = 0.25X1 + 0.15X2 + 0.20Y + 0.25Z + 0.15W
それぞれの記号は以下の要素を表しています。
- X1(完成工事高): どれだけ工事をこなしたか(売上規模)。
- X2(自己資本・利益): 会社にお金があるか、儲かっているか。
- Y(経営状況): 財務内容が健全か(負債回転期間や収益性など)。
- Z(技術力): 1級施工管理技士などの技術者が何人いるか。
- W(社会性等): 社会保険加入、防災協定、建退共など、企業としての社会貢献度。
このP点が、公共工事の入札における「持ち点」となります。
つまり、経審を受けなければ、どれだけ良い工事ができても公共入札の土俵には立てないのです。
許可取得と経審申請の主な違い
両者の最大の違いは、「必須か任意か」と「更新のサイクル」です。
| 項目 | 建設業許可 | 経営事項審査(経審) |
|---|---|---|
| 目的 | 営業の権利を得る(ライセンス) | 公共工事のための格付け(スコア) |
| 対象 | 500万円以上の工事をする全業者 | 公共工事を元請で受注したい業者 |
| 有効期間 | 5年間 | 結果通知から1年7ヶ月 |
| 手続き頻度 | 5年に1度の更新 | 毎年(決算ごと) |
建設業許可は5年に1回の更新ですが、経審は「毎年の決算ごと」に受ける必要があります。
これを忘れると、入札参加資格が停止してしまう「空白期間」が生まれるため、スケジュール管理が命取りになります。
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建設業許可や経営事項審査の活用と戦略
ここからは、単に許可を取るだけでなく、いかにして「ランク(格付け)」を上げ、有利に公共工事を受注するかという「経営戦略」についてお話しします。
管轄行政庁のエリア区分と申請窓口
建設業許可や経審の申請先は、営業所の所在地を管轄する「都道府県の土木事務所(または県土整備事務所)」となります。
例えば、本店があるエリアによって担当する事務所が明確に決まっています。管轄外の事務所に行っても書類は受理されませんので、必ず事前に都道府県のホームページ等で「管轄区域」を確認しましょう。
電子申請システムJCIPの導入と対応
建設業界にもDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が押し寄せています。
2025年(令和7年)9月1日からは、国の新しいシステム「JCIP(ジェイシップ)」による電子申請が本格化する予定です。
これにより、大量の紙ファイルを持参する手間が省ける一方、デジタル庁の「GビズIDプライム」の取得が必須となります。直前になって慌てないよう、今のうちから準備を進めておくことを強くおすすめします。
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公共工事の入札参加資格とランク格付
経審でP点が出たら、次は各自治体(市町村や県)への「入札参加資格審査申請」を行います。ここで初めて、Aランク、Bランクといった格付けが決まります。
一般的に、ランクは以下の計算式で決まる「総合数値」で判断されます。
総合数値 = 客観点(経審P点) + 主観点(自治体独自の加点)
【一般的なランク基準の目安】
- Aランク(大規模工事): 総合数値 800点〜1000点以上
- Bランク(中規模工事): 総合数値 650点〜800点程度
- Cランク(小規模工事): 総合数値 650点未満
※自治体によって基準は大きく異なります。
主観点や工事成績評定の重要性
ここで重要なのが、自治体独自に加算される「主観点」です。
これは、「災害時の防災協定を結んでいるか」「地元に貢献しているか」「工事の成績が良いか」などを点数化したボーナスポイントです。
P点(客観点)を急に上げるのは難しいですが、この主観点は経営努力ですぐに上げることができます。例えば、「健康経営優良法人」の認定を取得することで、5点〜10点の加点を行っている自治体も増えています。
ランクアップを目指す点数対策
では、2025年の法改正を見据えて、具体的にどう点数を稼ぐべきか。プロが教える「最強の加点戦略」は以下の3つです。
- 建設キャリアアップシステム(CCUS)の活用:
2025年の改正で、W点(社会性)における重要度が格段に上がります。「システムに登録している」だけでなく、「現場でカードリーダーを使って就業履歴を蓄積している」ことが評価の分かれ目になります。 - 技術力の強化(Z点):
1級施工管理技士などの資格者を増やすのが王道です。若手技術者の育成や、資格取得支援制度の導入は必須です。 - 健康経営の導入:
これが今、最も注目されている差別化戦略です。「社員の健康を守る会社」として認定されることは、入札の加点になるだけでなく、採用難の建設業界において強力な武器になります。
専門家への依頼費用や報酬の相場
最後に、手続きを専門家(行政書士)に依頼する場合の一般的な費用感をお伝えします。
- 建設業許可(新規): 10万〜15万円程度 + 法定手数料(知事許可9万円)
- 経営事項審査(一式): 5万〜10万円程度 + 手数料
- 入札参加資格申請: 3万〜5万円程度
「自分でもできるのでは?」と思われるかもしれませんが、書類不備で申請が遅れ、入札のチャンスを逃す「機会損失」は計り知れません。特に、ランクアップの戦略まで相談できる専門家を選ぶことが、投資対効果を高める鍵となります。
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建設業許可や経営事項審査のまとめ
建設業許可と経営事項審査は、単なる事務手続きではありません。自社の経営体質を強化し、公共工事という大きな市場へ参入するための「パスポート」です。
2025年の大改正を前に、今やるべきことは明確です。
「許可を取り、CCUSや健康経営を導入し、選ばれる会社になること」。
当事務所では、単なる許可代行にとどまらず、その後の経審対策やランクアップ戦略までトータルでサポートしています。「今の点数で入札に参加できるか?」「どうすればAランクになれるか?」など、まずはお気軽にご相談ください。
※本記事の情報は執筆時点の法令等に基づいています。申請手数料やランク基準は変更される可能性がありますので、最終的な判断は必ず各自治体の公式サイト、または専門家へご相談ください。
