こんにちは。
1番わかる建設業許可の教科書、運営者の行政書士の小野馨(おのっち)です。
日々の現場仕事、本当にお疲れ様です。
ようやく今期の決算が終わって、税理士さんとの打ち合わせや税務署への申告も済ませて、「やれやれ、これでやっと書類仕事から解放されて現場に集中できるぞ」なんてホッと一息ついていませんか? そのお気持ち、痛いほどよくわかります。
ですが、ここで水を差すようで非常に心苦しいのですが、建設業許可をお持ちのあなたには、もう一つだけ、絶対に忘れてはならない超重要な手続きが残っているのです。
そうです、それが今回解説する「決算変更届」です。
インターネットで「建設業許可 決算」なんて検索すると、「期限を過ぎるとヤバイ」「許可取り消し」なんて物騒な言葉が並んでいて、不安になってしまいますよね。
でも安心してください。この手続きは、ルールさえ正しく理解していれば、決して怖いものではありません。
この記事では、難しい法律用語は極力使わず、忙しい社長のためにポイントを絞って、なぜこの手続きが必要なのか、どうすれば最短ルートで終わらせられるのかを、私の実務経験を交えて徹底的に解説していきます。
- 決算変更届の提出期限と年間スケジュールの完全理解
- 税務申告書をそのまま出せない?建設業法特有の「書き換え」ルール
- 手続きを長期間放置してしまった場合に会社を襲う具体的なリスク
- 自分やるかプロに任せるか、失敗しないための判断基準
建設業許可の「決算変更届」とは?なぜ毎年必要なの?
建設業許可を苦労して取得した時、「これで5年間は安泰だ!」と思いませんでしたか? 確かに許可の有効期限は5年間ですが、それは「5年間何もしなくていい」という意味ではありません。実は、建設業許可を維持し続けるためには、5年に一度の「更新」とは別に、毎年必ず行わなければならない「年次報告」のような義務があるのです。それがこの「決算変更届」です。ここでは、そもそもなぜ国や県がこの書類を求めているのか、その背景にある「目的」と、絶対に守らなければならない「鉄の掟(期限)」についてお話ししますね。
税務署への確定申告とは「別物」であることを理解しよう
まず一番最初に、そして最も強くお伝えしたいのは、「税理士さんに頼んで税務署に確定申告したから、役所への報告も終わっているだろう」という考えは、今すぐ捨ててくださいということです。ここ、本当によくある勘違いポイントなんです。
税務署への申告と、建設業許可の決算変更届は、そもそも「提出する目的」も「提出する相手」も全く異なります。税務署への申告は、その名の通り「税金を正しく計算して納めるため」に行うもので、相手は国税庁(税務署)ですよね。一方で、決算変更届の提出先は、許可を受けた「都道府県知事(または地方整備局)」になります。
では、なぜ都道府県はわざわざ毎年の決算内容を知りたがるのでしょうか? それは、建設業法という法律が「発注者の保護」を目的としているからです。建設業は、手抜き工事や工事の放棄が起きると、注文主や地域社会に甚大な被害を与えます。そのため、許可行政庁は「この会社は、今年もちゃんと健全に経営されているか?」「工事を完遂できるだけの資金力(財産的基礎)が維持されているか?」「実際にどんな工事を行っているのか?」という情報を、常に最新の状態で把握しておく必要があるのです。
「うちは今期、赤字だったから出したくないな…」「今年は忙しくて工事実績がほとんどないんだけど…」といった相談を受けることもありますが、結論から言うと、赤字だろうが黒字だろうが、工事実績がゼロだろうが、建設業許可を持っている限りは毎年必ず提出しなければなりません。
この届出された内容は、原則として誰でも閲覧できる状態で公開されます(現在は情報保護の観点から一部制限されていますが)。つまり、あなたの会社がちゃんとルールを守って透明性のある経営をしているかどうかを、世の中に対して証明するための手続きでもあるのです。
ここがポイント!
税務申告と決算変更届は完全に別手続きです。税理士さんが建設業許可の届出までやってくれるケースは非常に稀(よほど建設業に特化した事務所でない限り対応していません)ですので、必ず「建設業の届出はどうなっていますか?」と確認するか、別途行政書士に依頼する必要があります。
提出期限は「決算終了後4ヶ月以内」が絶対ルール
この手続きには、法律で定められた明確なデッドラインがあります。それは、「事業年度終了後(決算日)から4ヶ月以内」という期限です。これは、「だいたいそのくらい」という目安ではなく、1日でも過ぎれば「遅延」として扱われる厳格なものです。
具体的なスケジュールをイメージしてみましょう。 例えば、多くの会社が採用している「3月31日決算」の場合を考えてみます。
- 3月31日:事業年度が終了(決算日)。
- 4月〜5月:税理士さんとやり取りをして、会社の決算書を作成し、5月末(決算から2ヶ月以内)までに税務署へ確定申告を行います。
- 6月〜7月:確定申告が終わったその決算書を元にして、「建設業法のルール」に従って書類を作り直します(これが決算変更届の作成作業です)。
- 7月31日:決算変更届の提出期限(デッドライン)。
このように、税務申告の期限からさらに2ヶ月の猶予がある計算になります。「なんだ、税務申告が終わってからまだ2ヶ月もあるのか」と安心しましたか? 実はそこが大きな落とし穴なんです。
多くの社長さんは、税務申告が終わると「ふぅ、終わった終わった」と一度気持ちが切れてしまいます。そして、日々の現場の忙しさに追われているうちに、あっという間に6月が過ぎ、7月に入り…気づけば「来週が期限だ!」と大慌てするケースが後を絶ちません。また、この4ヶ月という期間には、必要な証明書(納税証明書など)を集める時間も含まれています。納税証明書は、税金の納付が完了してからでないと発行されないため、実質的な作業期間はもっと短くなるのが現実です。
この期限を守ることは、単にルールを守るだけでなく、取引先や金融機関からの信用を守ることにも直結します。「あの会社は事務手続きも期限通りしっかりやっている」という評価は、意外と見られているものですよ。
注意点
個人の一人親方の場合、決算日は必ず「12月31日」になります。したがって、確定申告(3月15日まで)が終わった後の「4月30日」が毎年の提出期限となります。ゴールデンウィーク前の繁忙期と重なることが多いため、特に早めの準備が必要です。
参考情報:建設業法における届出義務
建設業法第11条第2項において、事業年度終了後の届出義務が明確に定められています。詳細な条文や背景については、所管官庁である国土交通省の解説ページも参考にしてください。
(出典:国土交通省『建設産業・不動産業:建設業許可制度の概要』)
作成が大変?決算変更届に必要な書類と注意点
「まあ、毎年の報告なんて、今の決算書のコピーをパパッと出して終わりでしょ?」と思われているかもしれません。もしそうなら、どれだけ楽なことかと思います。しかし、残念ながら現実はそう甘くありません。この決算変更届、作成する書類の分量が結構多い上に、専門的な知識がないと作成できない「厄介な書類」が含まれているのです。ここでは、具体的にどんな書類を準備しなければならないのか、そして多くの社長が頭を抱える「最大の難関」について、詳しく解説していきます。
基本的に提出が必要な書類の一覧
提出する書類は、都道府県によって「表紙の様式」や「綴じ方」に若干のローカルルールがありますが、基本的には以下の書類セットを作成して提出することになります。これらは全て、あなたの会社の「この1年間の通信簿」のようなものです。
| 書類名(様式番号) | 内容の詳細と作成のポイント |
|---|---|
| 変更届出書(第一号様式) | 「今期の決算報告を行います」という表紙です。住所や代表者名などを記載します。 |
| 工事経歴書(第二号様式) | 【重要】その1年間に行った主な工事の実績を記載します。「注文者」「工事名」「場所」「工期」「請負金額」などを細かく書く必要があり、作成に最も時間がかかる書類の一つです。業種ごとに作成する必要があります。 |
| 直前3年の各事業年度における工事施工金額(第三号様式) | 許可を持っている業種ごとに、過去3年分の請負金額の合計を記載します。「うちは今期実績ゼロだった」という場合でも、「0円」と記載して提出する必要があります。 |
| 財務諸表(第十五号様式〜) | 【最難関】税務申告で使った決算書を、建設業法特有の勘定科目に書き換えて作成した「貸借対照表」「損益計算書」「株主資本等変動計算書」「注記表」などです。 |
| 事業報告書 | 株式会社のみ必要です。会社の事業内容、役員の状況、大株主の状況などを文章で報告します。「定時株主総会」で使ったものがあればそれを転用できますが、なければ新たに作成します。 |
| 納税証明書 | 「事業税」の納税証明書が必要です。税務署(国)ではなく、県税事務所(都道府県)で取得する点に注意してください。領収書ではなく「証明書」という公的書類が必要です。 |
これらに加えて、例えばこの1年の間に「役員の任期が満了して再任(重任)した」場合は、その変更を証明する履歴事項全部証明書(登記簿謄本)が必要になったり、令第3条の使用人(支店長など)に変更があればその届出が必要だったりと、会社の状況に応じて追加資料が求められることもあります。単に決算書を写すだけではない、ということがお分かりいただけるかと思います。
一番の難関は「建設業法様式」への書き換え
さて、ここからが本題です。多くの社長さんや、建設業に詳しくない経理担当者さんが最も頭を抱え、そして挫折してしまうのが、「財務諸表の書き換え」という作業です。
普段、税理士さんが作ってくれる決算書(損益計算書や貸借対照表)は、あくまで「税法」に基づいたものです。しかし、決算変更届で提出する財務諸表は、「建設業法」という全く別のルールの下で作り直さなければなりません。なぜなら、建設業法では「工事ごとの収支」や「手持ち資金の流動性」をより厳密に見たいからです。
具体的には、以下のような「科目の翻訳作業」が必要になります。
- 一般会計の「売掛金」 → 建設業会計では「完成工事未収入金」へ振り替え
- 一般会計の「仕掛品」や「未成工事支出金」 → 建設業会計では「未成工事支出金」へ統一
- 一般会計の「前受金」 → 建設業会計では「未成工事受入金」へ振り替え
- 一般会計の「売上高」 → 「完成工事高」と「兼業事業売上高」に明確に分離
- 一般会計の「売上原価」 → 「材料費」「労務費」「外注費」「経費」に分解して記載(完成工事原価報告書の作成)
特に難しいのが、「原価の分解」です。税務上の決算書では「外注工賃」として一本化されているものを、建設業の決算書では、その中身を見て適切な区分に振り分けなければならないこともあります。また、消費税の「税込・税抜」の処理も統一しなければなりません。
この作業は、ある程度の簿記の知識と、建設業経理の知識がないと非常に難しく、慣れていない人がやると「貸借対照表の左右の数字が合わない!」「利益の額が税務申告書とズレてしまった!」というトラブルが頻発します。この「数字合わせ」の迷宮に迷い込んでしまい、期限ギリギリになって私のような専門家に「助けてくれ!」と電話をかけてこられる社長さんは、実はとても多いのです。
アドバイス
「工事経歴書」の作成も骨が折れます。1年分の注文書や請求書をひっくり返して、「どの工事がいくらで、工期はいつからいつまでだったか」をリストアップする必要があるからです。決算が終わってから1年分を振り返るのは大変な労力です。日頃から「工事台帳」をつけ、エクセルなどで管理しておくことを強くおすすめします。それがあるだけで、決算変更届の負担は半分以下になりますよ。
もし提出しなかったら?放置のリスクとデメリット
「正直、現場が忙しすぎて事務処理なんてやってられないよ」「面倒だから、5年の更新の時にまとめて5年分出せばいいんじゃない?」…そんな風に考えている方、いらっしゃいませんか? 気持ちは本当によくわかります。面倒な書類仕事はお金を生みませんからね。ですが、行政書士としての立場からハッキリ申し上げますと、その考えは非常に危険であり、会社の存続に関わる致命的なミスに繋がる可能性があります。
決算変更届を軽視して放置していると、どのようなペナルティやデメリットがあるのか。ここでは、脅しではなく実際に起こりうる現実的なリスクについてお伝えします。
5年後の「更新」ができなくなる
これが最も現実的で、かつ最大のダメージとなるリスクです。建設業許可には5年の有効期限がありますが、更新を受けるためには「過去5年分の決算変更届が、毎期欠かさず提出されていること」が大前提の条件となります。
更新の時期(許可満了の3ヶ月前から受付開始)になって、慌てて県庁の窓口に行っても、係の人にこう言われます。「おや、決算変更届が3年分出ていませんね。まずはこれらを全て作成して提出してからでないと、更新の受付はできません」。
これはつまり、「過去の溜まりに溜まった書類を一気に片付けない限り、許可が消滅する」ということを意味します。もし更新期限までに書類作成が間に合わなければ、許可は容赦なく失効します。許可がなくなれば、「500万円以上の工事(建築一式なら1500万円以上)」を請け負うことができなくなります。これまで元請業者として受注していた工事ができなくなったり、下請として入っていた現場から「許可がないなら契約できない」と切られてしまったり…。これは、会社の売上はもちろん、信用の面でも取り返しのつかない大問題になります。
法的な罰則や融資、公共工事への悪影響も
更新ができないだけではありません。法律違反としての直接的な罰則も規定されています。 建設業法第50条では、決算変更届を提出しなかったり、あるいは虚偽の記載をして提出したりした場合には、「6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金」という罰則規定があります。「たかが届出」と思っていると、前科がついてしまう可能性すらあるのです。
さらに、ビジネス面でのデメリットも見逃せません。
1. 経営事項審査(経審)が受けられない
公共工事の入札に参加するために必要な「経営事項審査(経審)」を受ける場合、この決算変更届の内容が審査のベースになります。届出が適切に行われていないと、経審の申請自体を受け付けてもらえません。公共工事を狙っている会社にとって、決算変更届の遅れは入札資格の喪失に直結します。
2. 金融機関からの融資に不利
銀行や信用金庫から融資を受ける際、「建設業許可業者であること」が良い条件の根拠になることが多いです。その際、銀行から「建設業許可の決算変更届の控え(役所の受付印があるもの)を過去3期分出してください」と言われるケースが増えています。これは、銀行が「この会社はコンプライアンス(法令順守)がしっかりしているか」「建設業法上の財務状況はどうなっているか」をチェックするためです。ここで「出していません」となれば、融資審査でマイナス評価になることは避けられません。
もし期限を過ぎてしまったら?
「期限を過ぎてしまったから、もう出せない」ということはありません。遅れてしまっても、提出自体は受け付けてもらえます(ただし、始末書のような理由書の提出を求められることがあります)。放置すればするほど状況は悪化し、まとめて作成するのは記憶も記録も薄れて大変になります。期限を過ぎていることに気づいた時点で、1日でも早く、私たち行政書士などの専門家に相談して提出を済ませましょう。「遅れても出す」という誠実な対応が、傷を最小限に抑える唯一の方法です。
参考情報:建設業法における罰則規定
届出義務違反に関する罰則については、法令検索サイト等で「建設業法 第五十条」をご確認ください。
(出典:e-Gov法令検索『建設業法』)
決算変更届は、単なる事務作業ではなく、あなたの会社の「信頼の証」を毎年積み重ねていく、非常に大切な手続きです。毎年のことですので、しっかりとした社内体制を整えて、安心して本業の工事に集中できる環境を作りましょう。
もし、「書類を作る時間がどうしても取れない」「経理の書き換えが難しくてわからない」「数年分溜まってしまって途方に暮れている」とお悩みでしたら、ぜひ一度お気軽にご相談くださいね。あなたの会社の状況に合わせて、私が責任を持って最適なサポートをさせていただきます。
