

こんにちは
リゾート民泊コンシェルジュ&行政書士の小野馨です。
今回は、「経審の点数アップ戦略」と、目前に迫った「2025年改正の重要ポイント」というテーマで、かなり踏み込んだお話をします。
建設業界で事業を営む中で、「なぜウチのランクは上がらないんだ?」「次の入札、このままだと参加できないかも…」といった焦りを感じたことはありませんか?
経営事項審査の総合評定値(P点)は、単なる通知表の数字ではありません。
公共工事の受注ランクを決定づけ、金融機関からの融資条件さえも左右する、まさに会社の「生命線」ですよね。
特に、2025年の法改正は、これまでの微修正とはわけが違います。
「資本性借入金」の評価導入や「社会保険未加入減点の廃止」など、ルールが根底から変わるパラダイムシフトが起ころうとしています。
ここで情報を掴んで対策を打てるか、それとも今まで通りでいるかで、数年後の会社の景色は全く違ったものになるでしょう。
でも、安心してください。経審には、正しい知識を持って攻めれば、短期間でも確実に点数を伸ばせる「戦略的ゾーン」が存在します。
今日は行政書士としての専門知識をフル動員して、その攻略法を余すところなくお伝えしますね。
- 建設業のランクを決定づけるP点の計算構造と効率的な攻め方
- 2025年改正の目玉「資本性借入金」を活用した財務改善の秘策
- Y点・Z点・W点を着実に積み上げるための具体的なアクションプラン
- 経審の点数アップを実現し、強い会社を作るためのロードマップ
経審の点数アップと2025年改正の要点
「とりあえず売上を上げれば点数は上がるだろう」
もしそう思っているなら、少し危険かもしれません。経営事項審査の点数を効率よく上げるためには、まずその計算の「クセ」を理解し、どこに経営資源を投下すべきかを見極めることが重要です。ここでは、P点の構造から2025年の法改正による激変ポイント、そして失敗しないためのシミュレーションの重要性について深掘りします。
建設業のランクを決めるP点の計算構造
経審の点数である総合評定値(P点)は、会社のあらゆる側面を数値化した5つの評価項目によって決まります。まずはこの計算式を頭に入れておきましょう。これがすべての戦略の基本になります。
【P点の計算式】
P = 0.25X1 + 0.15X2 + 0.20Y + 0.25Z + 0.15W
この数式を見て、何か気づきませんか?
そうです、各項目に掛けられている係数(ウェイト)が違うんです。
- X1(完成工事高):ウェイト25%。工事の売上規模です。
- X2(自己資本・利益):ウェイト15%。会社の規模や絶対的な利益額です。
- Y(経営状況):ウェイト20%。財務の健全性を8つの指標で測ります。
- Z(技術力):ウェイト25%。技術職員の数や元請工事の規模です。
- W(社会性等):ウェイト15%。社会保険加入や防災協定など、企業の社会的責任です。
ここで重要なのは、「変えやすさ」と「即効性」です。
X1(完成工事高)やZ(技術力)はウェイトが高く重要ですが、売上を倍にしたり、技術者を急に何人も採用したりするのは、現実的には数年単位の時間がかかりますよね。これを短期で無理に上げようとすると、安値受注や無理な採用で経営が歪むリスクすらあります。
一方で、私が注目してほしいのはY(経営状況)とW(社会性等)です。
Y点は決算対策次第で、W点は制度の導入次第で、次の審査からすぐに点数に反映させることが可能です。つまり、この2つこそが、経営者の意思決定ひとつで攻略可能な「戦略的ゾーン」なのです。まずはここを徹底的に固めることが、点数アップの最短ルートですよ。
2025年改正で評価される資本性借入金
さて、ここからが今回のハイライトです。2025年の改正で最も注目されているのが、「資本性借入金」の取り扱い変更です。これは建設業界の財務戦略を根本から変える可能性を秘めています。
これまで、銀行からの借入金はすべて「負債」として扱われ、経審の財務評価(Y点)においてはマイナス要因でした。借金が多いと「倒産リスクが高い」とみなされて点数が下がっていたんですね。
しかし、今回の改正で、一定の条件を満たす借入金(資本性劣後ローンなど)については、これを「自己資本(Equity)」とみなして評価することが可能になります。
これは革命的です。なぜなら、借入金が自己資本扱いになることで、以下の2つのメリットが同時に手に入るからです。
- Y点が上がる:自己資本比率が劇的に改善し、負債比率が下がります。
- X2点が上がる:自己資本の「額」そのものが増えるため、経営規模の評価もアップします。
(出典:国土交通省『経営事項審査の改正の方向性について』)
【ここに注意!逓減(ていげん)ルールという罠】
「じゃあ、借りられるだけ借りればいいの?」と思うかもしれませんが、そう甘くはありません。この制度には「逓減ルール」という落とし穴があります。
借入金が全額(100%)自己資本として認められるのは、返済期限まで「5年以上」ある場合だけです。そこから期限が近づくにつれて、認められる割合が減っていきます。
| 返済までの残存期間 | 自己資本とみなされる割合 |
|---|---|
| 5年以上 | 100% |
| 4年以上 5年未満 | 80% |
| 3年以上 4年未満 | 60% |
| 2年以上 3年未満 | 40% |
| 1年以上 2年未満 | 20% |
| 1年未満 | 0% |
つまり、導入した瞬間がピークで、あとは効果が薄れていく時限爆弾のような性質を持っています。「5年ごとの借り換え」や「効果が切れる前に内部留保を貯める」といった長期戦略がないと、数年後にランクが急降下することになりかねません。
社会保険の未加入減点廃止と許可要件化
もう一つの大きな変更点が、W点における「社会保険未加入減点の廃止」です。これまでは、雇用保険・健康保険・厚生年金に未加入だと、W点で大きな減点ペナルティを受けていました。これが2025年10月以降、項目ごと削除されます。
「減点がなくなるならラッキー!負担が減る!」と喜ぶのは早計です。
これは規制緩和ではなく、実質的な「義務化の完了」を意味しています。どういうことかと言うと、建設業許可の要件そのものとして「社会保険加入」が必須化されるためです。これまでは「未加入でも減点を我慢すれば許可は維持できた」のですが、これからは「未加入=建設業許可の取り消し・更新不可」となります。
つまり、経審を受ける以前の問題として、社会保険に入っていない企業は建設業の土俵にすら立てなくなるのです。W点から項目が消えるのは、「許可業者なら入っていて当たり前だから、わざわざ審査する必要がない」という意味なんですよ。
もし現在未加入の状態であれば、点数アップの対策をする前に、まずは会社の存続をかけて加入手続きを急いでください。
乖離を防ぐ正確なシミュレーション活用
私が行政書士として多くの建設業者様を見てきて、一番もったいないと思うのが、「シミュレーション不足によるランクダウン」です。
「今期は売上も良かったし、ランクも上がるだろう」と楽観視していたら、通知書を見て愕然とする…というケースが後を絶ちません。
経審の計算、特にY点の8指標は非常に複雑かつ繊細です。例えば、「節税のために機械を買って経費計上した」という行動が、Y点の「固定資産比率」を悪化させ、結果としてP点を大きく下げてしまうこともあります。頭の中の計算と、実際の経審の計算ロジックには、必ずと言っていいほどズレが生じます。
失敗しないシミュレーションの3カ条
- 自己採点の甘さを捨てる:「たぶん大丈夫」は禁物です。常にワーストケースを想定して厳しめに見積もることが鉄則です。
- 複数のシナリオを用意する:「借入を返済した場合」「新車を買った場合」「保険を解約した場合」など、決算前の行動によって点数がどう動くか、複数のパターンを比較検討します。
- 専門家のツールを使う:手計算は計算ミスのもとです。行政書士などが使用する専用のシミュレーションソフトを使って、1点単位の精度で予測を立てることを強くおすすめします。
経審の点数アップに向けたロードマップ
点数アップは、思いつきでやっても効果は薄いです。会社の決算時期や法改正のスケジュールに合わせて、計画的に進めていきましょう。以下に、私が推奨する3段階のロードマップを提示します。
フェーズ1:即時対応(今すぐできること)
決算日に関係なく、今日からでも着手できるのがW点対策です。 防災協定の証明書は手配できていますか?技術者の監理技術者講習の有効期限(5年)は切れていませんか?これらは書類一枚、手続き一つで確実に点数になります。「知らなかった」で点数を落とすのが一番もったいないですよ。
フェーズ2:決算対策(決算3ヶ月前〜直前)
ここが勝負所です。Y点対策を集中的に行います。 手元の現金で一時的に短期借入金を返済して負債を圧縮したり、不良在庫や使っていない機械を売却・除却してバランスシートをスリム化します。この時期は税理士さんと密に連携し、「税金を減らす決算」ではなく「点数を上げる決算」を目指して調整を行います。
フェーズ3:構造改革(中長期・2025年対応)
会社の基礎体力を上げる取り組みです。 Z点対策としての資格取得支援制度の構築や、2025年改正を見据えた資本性借入金の導入検討などがこれに当たります。これらは時間がかかりますが、一度達成すれば長期的に安定した高得点を叩き出してくれる資産になります。
実践的な経審の点数アップ戦略と具体策
全体像が見えたところで、ここからは各評価項目に絞った、より具体的で実践的な「裏ワザ」に近いテクニックをご紹介します。「そんな方法があったのか!」と目からウロコの情報もあるかもしれません。ぜひ自社の状況と照らし合わせてみてください。
完成工事高の振替でX1点を伸ばす手法
X1(完成工事高)は、単純に「売上が高いほど良い」のですが、実は「見せ方」を変えるだけで点数が跳ね上がることがあります。それが「業種の振替(積み上げ)」というテクニックです。
建設業許可には「建築一式」や「土木一式」といった一式工事と、「内装」「塗装」といった専門工事がありますよね。実は、専門工事の実績を、関連する一式工事の実績として合算(振替)できるルールがあるんです。
例えば、「内装工事」で1億円、「建築一式」で2億円の売上があったとします。別々に申請すると、どちらも中途半端な点数になるかもしれません。しかし、内装工事の1億円を建築一式に振り替えて「建築一式 3億円」として申請すれば、建築一式のランクを一気に上げることができるのです(※条件あり)。
「広く浅く」点数を取るより、「一点突破」で高ランクを狙う方が、公共工事の受注戦略としては有効な場合が多いですよ。
また、完成工事高は「2年平均」か「3年平均」か、有利な方を選択できます。
「去年は特需で売上が良かったけど、今年はガクッと下がった」という場合は、去年の数字が薄まるのを防ぐために2年平均を選ぶのがセオリーです。逆に「毎年安定している」なら3年平均の方がリスクヘッジになります。これもシミュレーション必須ですね。
Y点アップに直結する8つの財務指標
Y点(経営状況)は8つの指標で構成されていますが、すべてを均等に改善する必要はありません。改善しやすく、かつ点数へのインパクトが大きい指標を「狙い撃ち」しましょう。
最も即効性があるのが「負債回転期間(X2)」の改善です。
これは「月商の何ヶ月分の借金(有利子負債)を抱えているか」を見る指標です。この数値は決算日時点の貸借対照表(B/S)の数字だけで決まります。
つまり、期中は借金が多くても、決算日の1日だけ借金を減らせばいいのです。具体的には、決算日直前に売掛金を必死に回収し、その現金で短期借入金や買掛金を一時的に返済してしまいます。これだけで、Y点は驚くほど改善します。
次に重要なのが「純支払利息比率(X1)」です。
売上に対して支払利息がどれくらいあるかを見ます。金利の高い借入金を、低金利の制度融資などに借り換えるだけで点数が上がります。2025年改正の「資本性借入金」を活用すれば、その支払利息を経審上の計算から除外できる可能性もあり、ダブルで効果が期待できます。
【重要】節税とのトレードオフに注意
経営者は本能的に「税金を安くしたい」と考えがちです。しかし、過度な節税で利益を圧縮すると、「売上高経常利益率(X4)」や「利益剰余金(X8)」が悪化し、経審の点数は下がります。
経審対策においては、「税金はコストではなく、点数(=将来の受注)を買うための必要な投資」と割り切るマインドセットが必要です。
Z点対策となる技術職員の資格と講習
技術力(Z点)は「数」と「質」の勝負です。しかし、人手不足の今、新しい有資格者を採用するのは至難の業。そこで活用したいのが「既存社員のレベルアップ」と「若手の活用」です。
まず基本中の基本ですが、1級施工管理技士などの資格を持っている社員には、必ず「監理技術者講習」を受けさせてください。
講習を受けていない1級資格者は5点ですが、講習を受けるだけで6点になります。たった1点の差と思うかもしれませんが、これが5人いれば5点、P点換算でも大きな差になります。講習は1日で終わりますから、費用対効果は抜群です。
そして、これからのZ点対策の鍵を握るのが「技士補(施工管理技士の第一次検定合格者)」です。
2021年の改正で、実務経験が足りなくて2級などの資格が取れない若手でも、学科試験(第一次検定)に合格すれば「技士補」として加点対象になる制度ができました。若手社員には、まず現場経験よりも先に学科試験の合格を目指させるのが、会社全体の点数を底上げする賢い戦略です。
W点で差をつける防災協定やCCUS
W点(社会性等)は、会社の方針次第で確実に取れる「ボーナスステージ」のような項目です。ここは取りこぼし厳禁です。
防災協定(W3):加点20点
「防災協定なんて、ウチみたいな中小企業が自治体と結べるの?」と不安に思う必要はありません。
自社単独で結ぶ必要はないんです。所属している建設業協会や工業組合などが自治体と包括的な防災協定を結んでいれば、その協会から「加入証明書」や「活動従事者証明書」を発行してもらうだけで加点対象になります。書類一枚でP点が大きく跳ね上がる、まさに「コスパ最強」の項目です。
建設キャリアアップシステム(CCUS)
2025年改正で配点が少し下がると予測されています(全現場導入で15点→10点など)が、依然として重要な加点要素であることに変わりはありません。
ポイントは「導入しただけではダメ」ということ。現場でのカードタッチ率など、就業履歴の蓄積状況が厳しく審査されます。「カードリーダーは持っているけど、倉庫に眠っている」なんて状態だと加点されませんので、現場での運用徹底が必須です。
ISO認証や機械保有で確実に加点を稼ぐ
最後は、設備や認証への投資による加点です。これを「コスト」と見るか「投資」と見るかで経営の差が出ます。
ISO認証(W8)
ISO9001(品質)やISO14001(環境)を取得すると、それぞれ5点、両方で10点加算されます。取得や維持には年間数十万円〜のコストがかかりますが、ランクアップによって公共工事が一本でも多く取れれば、すぐにお釣りが来る計算になりませんか?
小規模な事業者なら、取得費用が安く審査も比較的易しい「エコアクション21(3点)」も狙い目です。まずはここから始めてみるのも良いでしょう。
建設機械の保有(W7)
ショベルカーやブルドーザーなどの特定機械を保有(または長期リース)していると、最大15点が加算されます。
2025年改正では、能登半島地震などの教訓から、不整地運搬車など災害復旧に活躍する機械が新たに対象に追加される見込みです。「災害に強い会社」であることをアピールすることは、自治体からの信頼獲得にも繋がります。
経審の点数アップまとめ
ここまで、かなり具体的なテクニックをお話ししてきましたが、いかがでしたか?
経審の点数アップは、単なる数字合わせのゲームではありません。
- Y点を改善することは、倒産しない強い「財務体質」を作ること。
- Z点を改善することは、技術者を育て「技術の継承」を行うこと。
- W点を改善することは、社会的な責任を果たし「信頼」を積み重ねること。
つまり、経審対策を本気で行うことは、永続する強い建設会社を作ることと同義なのです。
今回ご紹介した2025年改正のポイントや「資本性借入金」といった新しい武器を使いこなし、ぜひ戦略的な経営に取り組んでみてください。
一人で悩む時間はもったいないです。
シミュレーションや具体的な手続きについては、建設業専門の行政書士に相談することをおすすめします。正しい知識と準備で、理想のランクと受注を勝ち取りましょう!
