回送運行許可(ディーラーナンバー)は、自動車の製作・販売・陸送・特定整備を業とする事業者が、許可された業務のために車検切れ・未登録の自動車などを回送する制度です。赤枠の番号標があれば、どの車でも自由に走らせてよいわけではありません。
申請前に押さえたいのは、「年間12台売ればよい」という全国共通の基準はないことです。業種と管轄によって、必要な実績、集計期間、管理体制が異なります。ここでは近畿の公示を中心に、販売実績の整理、費用、営業所の管理、取得後の記録まで順に確認します。
- 営業所の所在地と、販売・陸送・製作・特定整備のどの業務で使うのかを決める
- 管轄の運輸支局等の登録部門で、実績の対象期間と必要書類を確認する
- 売買の記録と管理体制を整え、許可・許可証交付・番号標貸与の手続きを進める
回送運行許可の取得要件と販売実績の基準
古物商許可と回送運行許可は別の手続き
回送運行許可の根拠は、道路運送車両法第36条の2です。中古車を売買するための古物商許可を持っていても、それだけで車検切れの車を公道で走らせることはできません。逆に、回送運行許可を受けても、古物営業など別の法令上必要な手続きが免除されるわけではありません。
近畿の取扱要領では、中古車販売業を営むことの証明として、所定の団体の会員証明または公安委員会が発行した古物営業許可証の写しを挙げています。新車販売・輸入車販売・製作・陸送・特定整備には、それぞれ別の証明方法があります。「全員が古物商の自動車商でなければ申請できない」と一括りにはできません。
近畿は販売業の区分ごと、関東は月平均12両が基準
近畿運輸局の令和4年4月1日改正公示の別表1では、新車販売業者と中古車販売業者は1か月平均10両以上、輸入車販売業者は1か月平均5両以上です。新車販売業者が中古車も販売する場合は、その販売車両数を含めます。小型二輪自動車には、特定整備業を除いて基準を2倍とする注記もあります。実績を証する書面は、原則として最近6か月間の製作・販売・陸送の実績を対象としています。
一方、関東の許可基準は月平均の販売実績12両以上で、大型自動車・輸入自動車の換算規定があります。これを「直近1年間で12台」と読み替えることはできません。端数処理や対象車種、必要な実績期間まで含め、営業所を管轄する運輸局の要領・申請様式で確認してください。
近畿の公示には、離島等のやむを得ない事情を踏まえる規定もありますが、一般の販売業者が実績不足を任意に免除してもらえる制度ではありません。また、近畿の新規申請で実績がない場合に将来3か月の計画数を認める規定は、製作業者・陸送業者を対象としたものです。中古車販売業者にも当然に使えるとはいえません。
根拠:近畿運輸局・回送運行取扱要領(第4条・別表1)、関東運輸局・許可基準と貸与基準。
特定整備業の申請では販売台数ではなく、車検のため自ら特定整備した自動車について、申請直前1年間の臨時運行許可による運行実績が7台以上あることなどを確認します。2回目以降は、直前1年間の回送運行許可による実績が対象です。陸送業にも委託契約・運転者等の別基準があるため、販売業の基準で判断しないでください。
販売実績を証明する書類と、足りないときの確認順序
台数の一覧から契約・入金・車両の資料へたどれるようにする
まず、対象期間の取引を月別に整理します。車両を特定できる情報、売買日、相手方、取引の内容を一覧にし、契約書・注文書、請求書・領収書、入出金の記録、オークション計算書、車検証関係資料など、実際に保有する証拠と対応させてください。
古物台帳と売上帳、売買契約などの整合性を確認することは重要ですが、古物台帳の件数がそのまま販売実績になるわけではありません。仕入れだけの車両、取消しになった取引、同じ車両の重複計上を混ぜないようにします。現金取引や車検切れの車についても、一律に証明不能と決めつけず、どの資料で取引の実態を示せるか確認しましょう。
| 確認したい取引 | 整理して相談する資料・注意点 |
|---|---|
| オークションでの売買 | 仕入れと売却を分け、計算書・車両情報・入出金を対応させる。出品しただけの車両を成約実績にしない。 |
| 輸出販売 | 売買契約と代金の授受、輸出関係資料を整理する。輸出した事実だけで自社の販売実績と判断しない。 |
| 紹介・仲介・委託販売 | 誰が売主となり、誰の計算で販売したのかを契約で確認する。手数料収入と車両の売上を混同せず、管轄へ取扱いを確認する。 |
| 下取り・解体目的の売却 | 車両の販売か、使用済自動車・部品等の取引かを区別する。販売実績への算入と、許可された回送目的への適合は別に確認する。 |
資料の名義や金額が食い違う場合は、理由を確認し、事実を説明できるようにします。実績を作るためだけの名義変更、架空の売買、後付けで事実と異なる記録を作る方法は取らないでください。足りない場合は、対象期間・業種・集計方法を確認したうえで、実際の営業実績を積む必要があります。
申請書類は管轄の様式に合わせる
近畿では、申請書のほか、法人の登記事項証明書または個人の住民票、業種の証明、実績の書面、回送運行調査書、管理責任者等の配置、社内取扱規定、研修計画・実施状況などを確認します。証明書の発行時期や、団体の証明により省略できる資料も定められているため、他地域のチェックリストをそのまま提出用に使わないでください。
窓口へ相談するときは、営業所所在地、業種、月別実績、回送したい車両と目的、必要な番号標の組数、管理担当者をまとめておくと、確認事項を具体化できます。
仮ナンバーとディーラーナンバーの費用を比較する
ディーラーナンバーは、仮ナンバーの申請・返納の負担を減らせる可能性があります。ただし、取得すれば必ず安くなるとは限りません。使用頻度、許可期間、必要な組数、保険、記録管理の負担を合計して比較します。
| 比較項目 | 臨時運行許可(仮ナンバー) | 回送運行許可 |
|---|---|---|
| 許可の対象 | 特定の車両・目的・経路・期間について申請 | 許可された業務・回送目的の範囲で使用 |
| 手数料 | 申請先の案内で確認 | 許可証1枚につき、許可期間1か月までごとに2,050円。5,000円以上となり100円未満の端数がある場合は切捨て。 |
| 保険 | 運行期間を含む自賠責保険等を確認 | 回送する車両・業務・期間に適合する契約を確認。保険料は別途見積り。 |
| 管理の負担 | 申請・受取・返納が必要 | 許可証・番号標の保管、使用記録、研修、報告、更新等が必要 |
許可証交付手数料は、12か月分なら1枚24,600円、60か月分なら1枚123,000円です。これは保険料や専門家への依頼費用を含まない計算例です。「番号標は年2,000円程度」「行政手数料はゼロ」と考えると、予算を大きく誤ります。根拠:道路運送車両法関係手数料令・第1条の表第7号。
自賠責保険があることと、あらゆる事故の損害が補償されることは別です。対象車種、運転者、使用目的、対物損害などの補償範囲について、保険会社等に確認してください。月2~3台なら必ず元が取れる、といった一律の損益分岐点は設けられません。
仮ナンバーは原則5日以内の必要な期間について許可され、有効期間満了日から5日以内の返納が必要です。長期間を要するなど法定の例外はありますが、返納を忘れてよいわけではありません。回送運行許可も、許可・貸与・保険の手続きを終え、車両の安全と使用条件を確認してから使用します。
営業所・保管場所・管理担当者を整える
車庫証明の基準と混同しない
回送運行許可の検討では、営業所の実態と管理体制を確認します。車庫証明など別制度の「営業所から2km」といった条件を、そのまま回送運行許可の全国共通要件にはできません。近畿の番号標貸与数は、業種ごとの実績や回送要員数などにより決まり、「駐車面積12.5㎡につき1組」という基準ではありません。
営業所・車両置場の使用権限や、古物営業等の届出内容は、実態と食い違わないよう整理します。移転や営業所追加があるときは、回送運行の変更手続きと、古物営業など別制度の手続きをそれぞれ確認してください。
番号標を施錠保管し、貸出しと返却を管理する
近畿の要領は、許可証・番号標を施錠できる設備で厳重に保管することを求めています。固定式の金庫だけが唯一の方法と断定するのではなく、管理責任者が持出しと返却を管理できる設備・運用を整えます。
社内取扱規定には、管理責任者等の役割、保管と使用の手続き、運転者の服務、紛失時の対応、研修、届出、帳簿保存などを具体的に定めます。営業所数や担当者の配置に応じた取扱いがあるため、ひな形を置くだけではなく、自社が実行できる内容にしてください。
過去の違反・取消歴を一括りに判断しない
法令遵守や適切な管理体制は審査の前提です。ただし、「交通違反があればすべて2年間申請できない」という共通ルールではありません。回送運行許可を取り消された場合は、法第36条の2第10項による2年間の制限があります。また、近畿の特定整備業者には、申請前の連続2年間から許可までの行政処分歴についての基準があります。違反・処分の種類と時期を整理して確認しましょう。
取得後の帳簿・報告・更新と目的外使用の防止
「1年保存」では足りない場合がある
許可を取った後は、番号標の管理台帳、許可証等の使用簿、運転者に関する記録、研修の記録など、管轄の要領に沿った帳簿を整えます。近畿ではパソコンによる使用簿の作成・保存も認められていますが、必要な情報を記録し、確認できる状態にする必要があります。
- 誰が、いつ、どの許可証・番号標を持ち出し、いつ返却したか
- どの車両を、どの業務・回送目的で使用したか
- 車両の保安基準への適合、保険、必要な確認を行っているか
- 運転者の資格・記録や研修、実際の使用と帳簿が対応しているか
車台番号は実車・書類に記載された番号を正確に転記します。国産車も含めて必ず17桁と決めつけてはいけません。販売資料との対応や走行記録に不自然な点があれば確認しますが、推測で空欄を埋めたり、未実施の確認を実施済みにしたりしないでください。
近畿の帳簿等は、原則として許可の有効期間満了後6か月間まで保存します。取消し・廃止の場合はそれぞれの基準日から6か月間です。継続して許可を受ける場合の番号標台帳と最新の社内取扱規定は、事業を廃止するまで継続使用します。単に作成から1年で処分しないでください。
年次報告と更新期限を管理する
近畿では、前年度末の状況を営業所の事業種類ごとにまとめ、毎年5月31日までに実績等報告書を提出します。許可の有効期間は法律上5年以内であり、「優良業者になれば初めて5年になる」という仕組みではありません。実際の満了日を許可証で確認し、近畿の要領では満了日の2か月前までに更新申請書を提出します。
私用・他社への貸出しには使わない
販売用の許可なら、自社の仕入れ・納車・展示・整備など、許可証に記載された回送目的に沿って使用します。特定整備用は、車検のために自ら特定整備する車両の引取り・引渡し・車検場への回送などが対象です。友人の私用車を動かすために貸す、通勤や買物に利用する、他社が自由に使えるよう番号標を渡すといった運用はしないでください。
目的外使用や許可条件違反は、許可証等の返納命令や許可取消しの対象となります。すべての違反が同じ処分になるわけではありませんが、使用を止めて事実を確認し、紛失・盗難などは要領に従って警察と管轄窓口へ届け出る必要があります。許可満了・取消し等の際の返納期限も管理してください。
根拠:道路運送車両法・第35条、第36条の2、近畿運輸局取扱要領第23~27条・第38条・第43条。
申請前に相談するときの準備
「自社の販売件数で申請できるか」「委託販売をどう整理するか」「販売と特定整備の両方で使いたい」など、迷う点は取引資料と業務の流れを添えて確認しましょう。行政の申請窓口は、主たる営業所を管轄する運輸支局等の登録部門です。地域外の台数基準を当てはめる前に、所在地と業種を伝えることが大切です。
申請書類の整理については、当事務所の相談窓口へ、営業所所在地・業種・月別実績・希望する回送内容をお知らせください。資料と条件を確認したうえで、必要な手続きや対応範囲を整理します。許可の取得や審査期間を保証するものではありません。
