運送業の36協定を見直すときは、対象となる業務、使う様式、協定する上限、実際の勤務を順番に確認します。「運送会社だから全員年960時間まで働ける」「届出さえすれば長時間運転が認められる」という制度ではありません。
自動車運転の業務を含む現行の様式は、一般条項が第9号の3の4、特別条項が第9号の3の5です。第9号の3の2は、災害時の復旧・復興事業を含む建設事業の一般条項の様式であり、運転者の特別条項用ではありません。
本記事は、主に雇用するトラック運転者の労働時間を管理する事業者向けの一般的な説明です。個別の協定内容・労働時間の計算や届出は、管轄の労働基準監督署または社会保険労務士へ確認してください。運輸行政上の管理・必要資料を整理する場合は、巡回指導・行政監査に備える書類と確認の順序も参考になります。
運送業の36協定・特別条項と年960時間の関係
法定労働時間を超える時間外労働や法定休日の労働をさせるには、原則として、事業場の労使で36協定を締結し、所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります。協定で決めた範囲を超えて労働させることはできません。
2024年4月以降、自動車運転の業務にも時間外労働の上限規制が適用されています。原則は月45時間・年360時間で、臨時的な特別の事情がある場合でも、特別条項による時間外労働の上限は年960時間です。対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制では、原則の限度時間は月42時間・年320時間となるため、採用している制度も確認します。
運転者と事務員を同じ上限にしない
年960時間の特例は、自動車運転の業務に関するものです。同じ運送会社でも、事務員や運行管理だけを行う従業員などには、その業務に応じた規制が適用されます。役職名だけで決めず、実際に主として従事する業務を整理してください。
一人で営む個人事業主本人については、雇用される労働者と同じ形で36協定を締結するものではありません。ただし、業務委託という契約名でも実態によって労働者に当たる場合があり、運送事業の安全対策が不要になるわけでもありません。
休日労働と拘束時間は、別に確認する
運転者の年960時間は、法定休日労働を含まない時間外労働の上限です。一方、法定休日の労働についても協定・届出や健康確保が必要で、休日なら際限なく働かせてよいという意味ではありません。
自動車運転の業務には、一般の労働者に適用される「時間外・休日労働の合計が月100時間未満、2~6か月平均80時間以内」「月45時間を超えられるのは年6か月まで」という規制は適用されません。ただし、改善基準告示による拘束時間や休息期間等の管理、安全への配慮は別に必要です。
上限規制の業務別の違いは、厚生労働省の自動車運転者等の上限規制の案内で確認できます。
36協定の様式を選び、勤務実態に合わせて記載する
| 自動車運転の業務を含む場合 | 様式 | 確認する場面 |
|---|---|---|
| 一般条項 | 第9号の3の4 | 限度時間の範囲内で時間外労働等を協定する場合。 |
| 特別条項 | 第9号の3の5 | 臨時的な特別の事情により、限度時間を超える時間外労働が見込まれる場合。 |
現行様式は労働局の36協定様式一覧から確認できます。自動車運転以外の業務を含む場合や、複数の事業場がある場合は、その構成に適した届出方法を確認してください。
昔のファイル名や前年の控えをそのまま使うのではなく、「自動車運転の業務を含む場合」と表示された現行様式と記載要領を確認します。電子申請でも、手続き名と対象業務を確かめてください。
記載前に集める資料と、各欄の確認事項
| 確認する項目 | 用意する資料・判断する内容 |
|---|---|
| 事業場と対象者 | 事業場の所在地、従業員の一覧、業務内容。運転業務の者と、それ以外の者を区分します。 |
| 対象期間・起算日 | 現在の協定の有効期間、勤務カレンダー、給与・勤怠の集計方法。協定期間に空白を生じさせないよう準備します。 |
| 延長する時間・休日労働 | 過去の出勤・退勤、時間外、法定休日労働の実績と、今後の運行計画。法定上限をそのまま必要時間と考えないようにします。 |
| 特別条項を使う事情 | 通常の業務では予見できない業務量の大幅な増加等、臨時的な特別の事情を自社の実態に即して具体化します。 |
| 適用時の手続き等 | 労使で定める手続き、割増賃金率など、様式と記載要領が求める事項を確認します。 |
| 労働者側の当事者 | 過半数労働組合の有無、過半数代表者を選ぶ場合の選出方法とその記録。 |
「業務多忙」「人手不足」という言葉だけで、常時限度時間を超える働き方を正当化することはできません。何が、いつ、どの業務に一時的な追加対応を生じさせるのかを整理します。
例えば、予見できなかった追加発注への対応を事情として検討する場合でも、実際の状況、対象業務、必要な期間等を確認する必要があります。例文を貼り付ければ必ず適法になる、受理される、というものではありません。
過半数代表者は会社が一方的に指名しない
事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は、過半数代表者と協定します。代表者は労働基準法上の管理監督者ではなく、36協定を締結する代表を選ぶ目的を明らかにしたうえで、投票・挙手等の手続きで選ぶ必要があります。
社長が担当者を指定したり、親睦会の代表を当然に36協定の代表と扱ったりしないでください。選出の対象や方法に不明点がある場合は、労基署等へ確認してから進めます。
36協定だけでなく、トラックの改善基準告示も守る
改善基準告示は厚生労働大臣告示で、拘束時間、休息期間、運転時間などを定めています。運輸行政でも運転者の過労防止に関係するため、年960時間以内かどうかだけでは足りません。
労働時間は労働に従事する時間、拘束時間は労働時間と休憩時間を合わせた時間、休息期間は勤務終了から次の勤務開始までの拘束されない期間です。休憩と休息を同じ意味で集計しないことが大切です。
| トラック運転者の主な項目 | 原則と、例外を使う場合の注意 |
|---|---|
| 1年・1か月の拘束時間 | 原則、年3,300時間以内・月284時間以内。労使協定等の条件を満たす場合、年3,400時間以内の範囲で月310時間まで、年6か月まで延長できます。 |
| 月の延長を使う条件 | 284時間を超える月は連続3か月まで。月の時間外・休日労働が100時間未満となるよう努める必要があります。各月が上限内でも、年間上限を超えることはできません。 |
| 1日の拘束時間 | 原則13時間以内、延長する場合の上限は15時間。14時間を超える回数をできるだけ少なくするよう努めます。 |
| 休息期間 | 継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らないことが原則です。 |
| 運転時間 | 2日平均で1日9時間以内、2週平均で1週44時間以内。連続運転時間は原則4時間以内とし、必要な運転の中断を確保します。 |
| 休日労働 | 2週について1回が限度です。拘束時間の上限なども併せて守る必要があります。 |
宿泊を伴う長距離貨物運送、2人乗務、フェリー乗船、休息期間の分割等には、それぞれ条件付きの特例があります。表だけを見て適用せず、該当する運行の条件と記録を確認してください。詳しい要件・計算例・確認ソフトは、厚生労働省のトラック運転者向け改善基準告示の案内から確認できます。
なお、改善基準告示の「月の拘束時間の延長は年6か月まで」と、36協定の時間外労働に関する規制は別の条件です。数字が似ていても、対象となる時間を取り違えないでください。
荷待ちを一律に休憩として処理しない
運転していない時間でも、呼ばれたらすぐに作業するよう待機を求められているなど、使用者の指揮命令下にある時間は、労働時間として扱う必要があります。デジタコで「休憩」を選択したことだけでは、休憩と認められるとは限りません。
到着、荷待ちの開始・終了、荷役、休憩、出発の時刻と、その間に求められていた対応を記録します。実態に合う時間区分を労務担当者と確認し、長い荷待ちが続く取引先とは予約時間や作業分担、納品条件等を話し合う材料にしてください。
届出の後も、毎月の確認と勤務の見直しを続ける
- 有効期間と提出を確認:協定の締結・届出を済ませ、控えと届出状況を保管します。労働者への周知も行います。
- 実績を照合:勤怠、運転・荷待ちの記録、休日、賃金計算を突き合わせ、協定と改善基準告示の両面で確認します。
- 上限に近づく前に調整:次月の運行、配車、受注、休息、代替要員を見直します。記録を減らして帳尻を合わせてはいけません。
- 問題を見つけたら相談:超過した日・対象者・原因と現在の対応を整理し、所轄労基署や社会保険労務士へ是正方法を相談します。
協定がない期間や上限を超えた労働を、後から届出を出すだけで適法にできるわけではありません。また、割増賃金の支払いと、違法な長時間労働をさせない義務は別です。
労働関係法令違反と運輸行政上の違反には、それぞれの確認・処分の仕組みがあります。書類の不備だけで直ちに一定の日車処分や許可取消しが決まるとはいえず、違反内容等によって判断されます。自社の状況を隠さず、必要な是正を進めてください。
36協定の相談先と、運送業の行政手続きの相談先
36協定の締結・届出、労働時間・割増賃金の計算、就業規則などの労務相談は、所轄労働基準監督署または社会保険労務士が相談先です。現在の協定、勤務カレンダー、勤怠記録、運行記録、賃金関係資料をそろえると、どこに問題があるか確認しやすくなります。
サクセスファン行政書士事務所へは、運送業の許認可・変更届、行政窓口への事前確認、必要資料の整理など、運輸行政の手続きをご相談いただけます。36協定の作成・労基署への提出代行を、行政書士業務としてこのページでお約束するものではありません。
労務と運輸のどちらの手続きか分からない場合は、困っている内容と受け取った通知、期限をお知らせください。対応できる範囲と、別の専門家への確認が必要な事項を分けてご案内します。
制度確認日:2026年10月24日。個別の労働時間制度や特例の適用、協定内容は、労働基準監督署・社会保険労務士へご確認ください。
