
リゾート民泊コンシェルジュ&行政書士の小野馨です。
今回は、「東京で民泊を始めるなら知っておいてほしいこと。
規制やエリア、収益についてお話します。
2024年から2025年にかけて、東京の街を歩いていると外国人観光客の方を見かけない日はないですよね。
円安の影響もあって、今や東京は世界でもトップクラスの人気観光都市になりました。
私のところにも「実家が空き家になったから民泊にしたい」「投資として渋谷や新宿で始めたい」という相談が毎日のように舞い込んでいます。
でも、ちょっと待ってください。
「東京ならどこでも儲かる」と思って走り出すのは非常に危険です。
実は東京23区は、世界的に見てもかなり特殊で複雑な「ローカルルール」が張り巡らされているエリアなんです。
同じ「民泊」でも、道路一本挟んだ向こう側の区では365日営業できるのに、こっち側の区では週末しか営業できない、なんてことがザラにあります。
せっかく多額の初期費用をかけて素敵な部屋を作っても、法律の壁にぶつかって「1年の半分も営業できない」なんてことになったら目も当てられませんよね。
このページでは、これから東京で民泊を始めたいあなたが、落とし穴に落ちることなく、最短ルートで収益化するための「地図」をお渡しします。
行政書士としての専門知識と、現場のコンシェルジュとしての経験をフル動員して解説しますので、ぜひ最後までお付き合いください。
この記事を読むことで、以下の4点について深く理解できるようになります。
- 東京で民泊を行うための3つの法的ルールと、あなたの物件に最適な手法の選び方
- 新宿区や渋谷区など、人気エリアに潜む厳しい「上乗せ条例」の具体的な中身と回避策
- 「180日の壁」を突破して365日フル稼働するための、特区民泊や穴場エリアの活用法
- 初期費用はいくらかかるのか、どれくらいで回収できるのかというリアルな収支シミュレーション
東京の民泊規制とエリア選びの完全ガイド
東京で民泊事業を成功させるためには、まず複雑な「ルール」と「場所」の関係を理解することがスタートラインです。不動産投資において「立地がすべて」とはよく言われますが、民泊においては「立地=法律」と言っても過言ではありません。
「駅に近いから」「人気エリアだから」という理由だけで物件を選んでしまうと、後から「実はここでは営業できなかった」という致命的なミスにつながりかねません。ここでは、基礎となる3つの法律の違いから、各区が独自に定めている条例の罠、そして近隣トラブルを避けるための物件選びのポイントまで、プロフェッショナルな視点で徹底的に掘り下げていきます。
東京で民泊を始める3つの法律と違い
まず最初に押さえておきたいのが、民泊を運営するための「法的根拠」です。一般的に「民泊」とひとくくりにされがちですが、法的には大きく分けて3つのスタイルが存在します。どの法律のカードを切るかによって、年間の売上上限が自動的に決まってしまうほど重要な選択ですので、ここはしっかりと理解しておきましょう。
現在、日本で民泊を行うための主なルートは、①住宅宿泊事業法(いわゆる民泊新法)、②国家戦略特区法(特区民泊)、③旅館業法(簡易宿所営業)の3つです。それぞれの特徴を比較してみましょう。
| 法律・制度 | 年間営業日数 | エリア制限 | 特徴・難易度 |
|---|---|---|---|
| 住宅宿泊事業法(民泊新法) | 最大180日 | 住居専用地域でも可(※条例による) | 届出制で参入障壁は低いが、営業日数の上限がネック。年間の半分しか稼働できないため、収益性の工夫が必須。 |
| 国家戦略特区法(特区民泊) | 365日可能 | 大田区など特定自治体のみ | 「2泊3日以上」の滞在条件があるが、通年営業が可能。旅館業法よりハードルが低く、非常に高収益を狙いやすい。 |
| 旅館業法(簡易宿所) | 365日可能 | 商業地域などに限定 | プロ向けの本格運用。場所が限られ、消防設備や建築基準法のクリアが必要でコストがかかるが、自由度は最強。 |
これから初めて民泊に挑戦する方の多くは、「住宅宿泊事業法(民泊新法)」から入ることになると思います。この法律の最大のメリットは、「住居専用地域」つまり普通の一軒家やマンションが立ち並ぶ静かな住宅街でも、行政への「届出」だけで営業が可能になる点です。旅館業法の許可を取るのが絶望的に難しいエリアでも、民泊ならできる可能性があるわけです。
しかし、ここで立ちはだかるのが「180日ルール」という鉄の掟です。4月から翌年3月までの1年間で、人を泊めていいのは180日までと法律で決まっています。残りの185日間は、民泊として営業することができません。この期間をどう乗り切るか(例えばマンスリーマンションとして貸し出すのか、自分の別荘として使うのか)を考えておかないと、家賃分が赤字になってしまうリスクがあります。
一方で、「旅館業法」の許可を取れば365日営業できますが、用途地域が「商業地域」などに限定されるため、物件探しが非常に難しくなります。また、2024年以降のインバウンド回復に伴い、宿泊需要は右肩上がりです。観光庁のデータによれば、宿泊者数はコロナ前を超える勢いで推移しており、この波に乗るためにも、ご自身の物件がどの法律に適しているかを最初に見極めることが成功への第一歩です。
(出典:観光庁『宿泊旅行統計調査』)
ここがポイント:
副業レベルなら「民泊新法」、ガッツリ事業としてやるなら「特区」か「旅館業」。自分のスタンスに合わせて法律を選びましょう。
新宿区や渋谷区の厳しい条例と対策
「せっかくやるなら、外国人がたくさん集まる新宿や渋谷でやりたい!」その気持ち、すごく分かります。新宿の歌舞伎町や渋谷のスクランブル交差点周辺は、宿泊単価も高く、予約が埋まりやすい超人気エリアですからね。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。実は東京都23区には、国の法律(民泊新法)とは別に、区が独自に定めた「上乗せ条例」というものが存在します。そして、新宿区や渋谷区といった人気エリアほど、この条例が非常に厳しく設定されているのです。
具体的に見てみましょう。まず新宿区です。新宿区では、住居専用地域(第一種・第二種低層住居専用地域など)において、「月曜日の正午から金曜日の正午まで営業を禁止する」というルールがあります。これ、どういうことか分かりますか? つまり、金曜の夜、土曜の夜、日曜の夜という「週末」しか営業できないということです。週の半分以上が営業不可となると、いくら単価が高くても収益を上げるのは至難の業です。
次に渋谷区です。ここはさらに厳しく、住居専用地域や文教地区(学校の周辺など)においては、営業できる期間が「学校の長期休業期間(夏休み・冬休みなど)」のみに限定されています。これでは実質的に、年間を通してのビジネスとして成立させるのは不可能です。「知らずに物件を借りてしまった」では済まされないレベルの厳しさですよね。
注意!
「住居専用地域」での民泊は、これらの区では事実上、収益化が困難です。不動産屋さんに勧められても、用途地域だけは必ず自分で確認してください。
では、新宿や渋谷で民泊をするのは諦めるしかないのでしょうか? 実は、抜け道がないわけではありません。これらの厳しい制限は、あくまで「住居専用地域」に対するものです。つまり、駅前や大通り沿いなどの「商業地域」や「近隣商業地域」にある物件であれば、この上乗せ条例の対象外となるのです。
商業地域であれば、新宿区でも渋谷区でも、民泊新法の範囲内(180日)で自由に営業日を設定できますし、要件を満たせば旅館業法の許可を取って365日営業することも可能です。人気エリアで勝負するなら、「用途地域」の確認が命綱になりますよ。
大田区の特区民泊は365日営業が可能
規制の厳しい都心部から少し視点を変えてみましょう。私が今、個人的に最も熱いと感じているのが「大田区」です。なぜなら、大田区は東京都内で唯一、「特区民泊(国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業)」が認められている特別なエリアだからです。
この特区民泊の最大の破壊力は、なんといっても「365日フル稼働ができる」という点に尽きます。民泊新法のような180日の制限が一切ありません。1年中、毎日ゲストを泊めることができるのです。ビジネスとして考えたとき、稼働日数が2倍になるというのは、売上の天井が2倍になることを意味します。これはものすごいメリットですよね。
「でも、何か厳しい条件があるんじゃないの?」と思われた方、鋭いです。特区民泊には一つだけ、「最低宿泊日数が2泊3日以上でなければならない」というルールがあります。つまり、1泊だけの利用は受け付けられないのです。
しかし、安心してください。東京に観光に来る外国人ゲストの行動パターンを分析すると、1泊で帰る人はほとんどいません。平均して3〜5泊、長ければ1週間以上滞在するのが普通です。ですから、「2泊縛り」は実質的なデメリットにはなりにくいのです。
さらに大田区は、羽田空港(東京国際空港)のお膝元です。深夜便で到着したゲストや、早朝便で帰国するゲストにとって、空港に近い大田区(蒲田エリアなど)は非常に便利な宿泊拠点となります。実際、私のクライアントでも大田区の特区民泊で、都心のホテル並みの高稼働を叩き出している方が何人もいらっしゃいます。
消防設備の設置義務などは旅館業法に近いレベルで求められますが、旅館業の許可を取るよりはハードルが低く、住居地域でも認定が取れる可能性があります。本気で「民泊事業」をやるなら、大田区は最強の選択肢の一つと言えるでしょう。
豊島区など規制が緩い穴場エリア
「新宿や渋谷は家賃が高すぎるし、規制も怖い。でも大田区だと都心からちょっと遠いかな…」そんなあなたに提案したいのが、いわゆる「民泊フレンドリー」な穴場エリアです。具体的には、豊島区、墨田区、北区、荒川区あたりが狙い目です。
これらの区の最大の特徴は、独自の上乗せ条例を(現時点では)ほとんど設けていない、あるいは非常に緩いという点です。例えば豊島区(池袋エリア)は、巨大なターミナル駅を持ちながら、区全体として民泊に対して比較的寛容な姿勢を見せています。住居専用地域であっても、民泊新法のルール通りに平日も週末も営業が可能です。
特に池袋は、今や秋葉原に次ぐ「アニメ・サブカルチャーの聖地」として、世界中のオタク層から熱烈な支持を受けています。成田空港からのアクセスも「成田エクスプレス」やバス一本で来られますし、新宿・渋谷へも埼京線や湘南新宿ラインですぐに出られます。集客ポテンシャルは都心3区に引けを取りません。
また、スカイツリーがある墨田区や、上野・浅草に近い台東区・荒川区エリアも、外国人観光客には鉄板の人気スポットです。これらのエリアは、都心に比べて物件の取得費用や家賃相場がまだ抑えられています。つまり、「初期投資を安く抑えて、高い利回りを狙う」という戦略が立てやすいのです。
ここだけの話:
あえて「山手線の外側」や「下町エリア」を狙うのも賢い戦略です。古い一軒家をリノベーションして「日本的な暮らし」を体験できるようにすると、欧米系のゲストにものすごく喜ばれますよ。
マンションでの民泊許可とトラブル
最後に、物件選びにおいて最もトラブルになりやすく、かつ最も重要な「マンションでの民泊」についてお話しします。特に初心者の場合、手軽に始められる賃貸マンションの一室で民泊をやろうと考えがちですが、ここには巨大な地雷が埋まっています。
結論から言うと、「管理規約で民泊が禁止されているマンションでは、絶対に許可が下りない」と考えてください。分譲マンションの場合、住民たちで構成される「管理組合」が定めた管理規約というルールブックがあります。国土交通省が標準的なモデルを出しているのですが、今の一般的なマンションの規約では、民泊(住宅宿泊事業)を「禁止する」と明記されているケースが圧倒的多数です。
もし規約で禁止されているのに、こっそり届出を出そうとしても、行政の窓口で「管理組合からの承諾書を出してください」と言われて門前払いになります。また、賃貸物件の場合も、賃貸借契約書に「転貸禁止(又貸し禁止)」の条項が入っているのが普通です。オーナーに無断で民泊を始めて、ゲストが夜中に騒いだりゴミ出しのルールを破ったりして近隣からクレームが入れば、即刻契約解除・退去処分になるだけでなく、多額の損害賠償を請求される可能性もあります。
「バレなきゃいい」という考えは捨ててください。近隣住民の方は、見慣れない外国人が頻繁に出入りしていればすぐに気づきますし、保健所への通報も増えています。マンションで民泊をやるなら、以下の2つの条件のどちらかを満たす必要があります。
- 管理規約で明確に「民泊を容認する」と書かれている(非常にレアです)。
- 一棟丸ごと民泊専用になっている、あるいはオーナーが民泊運用を前提に募集している「民泊可物件」を専門サイトで探す。
普通の不動産ポータルサイト(SUUMOやHOMESなど)に載っている物件は、99%民泊不可だと思って間違いありません。民泊専用の物件紹介サイトや、民泊に強い不動産業者を頼るのが、トラブルを避ける一番の近道です。
さて、ここまで「場所とルール」について詳しく解説してきました。自分のやりたいスタイルに合ったエリアが見えてきたでしょうか? 次の章では、いよいよ「お金」の話。実際にどれくらい儲かるのか、具体的な収支シミュレーションを見ていきましょう。続きが気になりますよね?