民泊・建築基準法ガイド(親記事) > 別府・湯布院の規制・完全攻略
こんにちは。
大分県の建設業許可と民泊・旅館業許可の専門家、行政書士の小野馨です。
現在、私の事務所には、東京・大阪・海外の投資家様から、毎日のようにこのような相談が寄せられます。
「湯布院の金鱗湖近くに、雰囲気の良い古民家を見つけた!」
「別府の鉄輪エリアで、温泉付きの土地を買ってヴィラを建てたい!」
不動産ポータルサイトを見れば、これらは利回り20%超えも狙える「お宝物件」に見えるでしょう。
しかし、地元の実務家として、私は心を鬼にして警告します。
「その物件、大分県特有のローカルルールを知らずに買うと、建物が建たないか、営業停止になります」
別府と湯布院は、日本でもトップクラスに「行政の規制」が厳しいエリアです。
国の法律(建築基準法・旅館業法)をクリアしていても、市独自の「上乗せ条例」や「指導要綱」によって、計画が頓挫するケースが後を絶ちません。
今回は、不動産屋があえて語らない、ネットにも載っていない「別府・湯布院の3大リスク(景観・ラブホ・温泉)」について、どこよりも深く、生々しく解説します。
この記事でわかる「地元の極秘情報」
- 湯布院の景観: 「マンセル値」を知らずに塗装して、塗り直し命令が出た実例
- 別府のラブホ規制: なぜ「ガラス張りの浴室」が命取りになるのか?
- 温泉インフラの死: 鉄管と銅管が3年で溶けるメカニズムと対策
- 運営の壁: 「10分以内駆け付け」を満たすための裏技スキーム
1. 湯布院(由布市)の「景観」は京都よりも厳しい?
由布市、特に湯布院町エリアは、「田園風景と由布岳の調和」こそが最大の観光資源です。
そのため、市役所の都市計画課・景観担当は、新しい建物やリノベーションに対して、異常なほど厳しい目を光らせています。
① 「色」の数値規制(マンセル値)
「目立つようにピンク色の壁にしよう」「屋根は鮮やかな地中海ブルーで!」
これは、湯布院では100%不可能です。
由布市景観計画では、外壁や屋根に使用できる色が「マンセル値(色の三属性を表す数値)」で厳格に指定されています。
- 許可される色: 彩度(鮮やかさ)を極端に抑えた、茶色、濃いグレー、黒、深緑などの「アースカラー」。
- 禁止される色: 赤、黄、ピンク、原色に近い青など。
【ここが落とし穴】
「古民家を買って、今の壁の色と同じ色で塗り直すだけだから大丈夫でしょ?」
いいえ、ダメな場合があります。
過去に建てられた建物でも、今回リノベーション(外観の変更)を行う場合は、「現行の景観基準」に適合させなければなりません。
もし、事前の協議なしに塗装工事を行い、市から「是正命令」が出たらどうなるか。
足場を組み直し、塗料を買い直し、職人を再手配する費用(数百万円)はすべてオーナーの自腹です。
② 「高さ」と「屋根形状」の制限
由布岳の眺望ラインを守るため、建物の高さはエリアによって「10m以下」「12m以下」などに厳しく制限されています。
また、屋根の形状も「勾配屋根(日本家屋のような三角屋根)」が推奨され、都会的な「陸屋根(フラットルーフ)」や「奇抜なデザイン」は、景観審議会でストップがかかる可能性が高いです。
2. 別府市の罠:「ラブホテル規制」の曖昧な境界線
次に、別府市で「高級貸別荘(ラグジュアリーヴィラ)」を計画している投資家が、最も警戒すべきリスクです。
それが「別府市ラブホテル建築等規制条例」です。
「うちは健全な民泊だ! 風俗営業とは違う!」
と主張しても、行政の判断基準は「利用者の目的」ではなく、「建物の構造・設備」にあります。
行政が「ラブホ」とみなす危険な設備
以下のような設備や間取りにすると、行政から「これは実質的にラブホテル(風俗営業類似施設)である」と認定され、建築確認や旅館業許可が下りないリスクがあります。
| 危険な設備・構造 | 行政の解釈(なぜダメなのか) |
|---|---|
| ガラス張りの浴室 (寝室から丸見え) |
「性的好奇心を煽る構造」とみなされやすい。インバウンドに人気の仕様だが、別府では致命傷になる。 |
| 過剰な鏡・照明 (天井の鏡、調光機能) |
同上。ムーディーすぎる演出は規制対象。 |
| フロントの遮蔽 (顔が見えない受付) |
ICTチェックインで「非対面」を強調しすぎると、「人目を忍んで利用する施設」と判定されるリスクがある。 |
| ダブルベッド中心 | 客室のほとんどがダブルベッドの場合、カップル利用(休憩利用)を想定していると疑われる。 |
この境界線は非常に曖昧で、担当者の裁量に左右される部分もあります。
だからこそ、図面を引く段階から、「健全な宿泊施設であることを証明するロジック」を組み立てられる専門家のサポートが必要なのです。
3. 温泉地特有のインフラ:配管と浄化槽の「死」
建設業許可を持つ私として、最も懸念するのが「インフラの物理的崩壊」です。
大分の温泉は素晴らしいですが、設備にとっては「猛毒」であることを理解してください。
① 3年で穴が開く?「金属腐食」の恐怖
別府の「明礬(みょうばん)」や「鉄輪(かんなわ)」エリア、あるいは塚原高原などの温泉は、強力な酸性や硫黄分を含んでいます。
中古物件の床下配管が、昔ながらの「鉄管」や「銅管」だった場合。
温泉を通水した瞬間から腐食が始まり、早ければ2〜3年でピンホール(穴)が開き、漏水します。
給湯器やボイラーも、温泉対応の特殊な機種でなければ、メーカー保証は一切効きません。
【対策】
リノベーションの際は、内装にお金をかける前に、必ず床下の配管を全て「耐熱性硬質ポリ塩化ビニル管(HT管)」や「架橋ポリエチレン管」に交換してください。
ここをケチると、営業開始後に床下が水没し、全てやり直しになります。
② 浄化槽のバクテリアが全滅する
別府・湯布院の別荘地には下水道がなく、「合併処理浄化槽」を使っているケースが多いです。
ここに、殺菌作用の強い温泉や、高温のお湯をそのまま流すと、槽内のバクテリアが死滅します。
バクテリアが死んだ浄化槽は、ただの汚水タンクです。
未処理の汚水と悪臭が側溝に垂れ流され、近隣住民の通報で発覚し、行政指導を受けます。
これを防ぐには、「温泉排水と生活排水を分ける(系統分離工事)」が必須です。
4. 運営の壁:「10分以内駆け付け」のリアル
ハード面をクリアしても、最後に立ちはだかるのがソフト面(運営体制)の規制です。
特に無人運営(家主不在型)を行う場合、別府市や由布市の実務運用では、非常に厳しい「駆け付け要件」が求められます。
🚨 行政の指導ライン(実例)
「火災、急病、近隣トラブルが発生した際、管理者が『概ね10分以内』に現地に到着できる体制を整えてください」
東京の代行業者では許可が下りない
多くの投資家は、東京や大阪の「全国対応の民泊代行業者」に委託しようとします。
しかし、その業者の拠点が福岡市や大分市中心部にあった場合、別府・湯布院まで10分で来ることは物理的に不可能です。
申請時に、行政は「管理者の住所」や「緊急時の連絡体制図」を厳しくチェックします。
「何かあったら警備会社が向かいます」でも、到着時間が30分かかるならNGを出されることがあります。
【解決策】
必ず、「別府市・由布市内に拠点を持つ地元の管理会社」と契約するか、近隣に住む個人と提携する必要があります。
当事務所では、この要件を満たすための「信頼できる地元の管理業者」のご紹介も行っています。
5. 建設業者が教える「凍結」という物理的リスク
最後に、法律ではありませんが、この地域特有の「気候リスク」について。
「九州=南国」だと思っていませんか?
湯布院は盆地、別府の別荘地は標高が高いため、冬場は北海道並みに冷え込みます。
水道管破裂で1,000万円の損害
寒冷地仕様になっていない普通の水道管や給湯器は、氷点下になると中の水が凍って膨張し、配管を破裂させます。
特に、冬場にお客さんがいない期間、水抜きを忘れて放置するとどうなるか。
破裂した配管から水が吹き出し続け、床一面が水浸しになり、そのまま凍りつきます。
発見された時には、床材も断熱材も全て腐ってカビだらけ。
リノベーション費用1,000万円が、たった一晩の凍結で全損になります。
【必須対策】
必ず「水抜き栓(不凍栓)」の設置工事を行い、宿泊客や清掃スタッフに「水抜き手順」を徹底させるマニュアル作りが必要です。
まとめ:大分での民泊は「地元の案内人」が必要不可欠
いかがでしたでしょうか。
別府・湯布院での民泊開業は、高収益が約束された魅力的な市場ですが、その入り口には数え切れないほどの「罠」が仕掛けられています。
- 由布市の景観条例を知らずに、ピンク色の壁に塗ってしまう。
- 別府市のラブホ条例に引っかかる、「スケスケお風呂」を作ってしまう。
- 温泉成分を甘く見て、配管を溶かしてしまう。
- 駆け付け要件を満たせず、許可が下りない。
これらは、Googleマップを眺めているだけの遠方のコンサルタントには見えない「現場のリアル」です。
当事務所は、大分県にも詳しい建設業許可・行政書士事務所です。
地元の役所(建築指導課・保健所・観光課・景観担当)との太いパイプと、最新の条例知識を持っています。
「この物件、湯布院のあの辺りなんだけど、規制はどうなってる?」
「別府のこのエリアで、ヴィラを建てて大丈夫か?」
そう迷ったら、物件を買う前に、手付金を払う前に、まずはご相談ください。
地元のプロとして、その土地の「取扱説明書」と「生存戦略」をお渡しします。
作った後の「管理」はどうする?
駆け付け要件を満たすために「地元の管理業者」が必要ですが、
もしあなたが地元の建設業者なら、自社で「住宅宿泊管理業」の登録を受けて、
管理まで請け負うことで、毎月の安定収入を手に入れることができます。