民泊・建築基準法ガイド(親記事) > 許可種類の選び方・完全版
こんにちは。
建設業許可と民泊・旅館業許可の専門家、行政書士の小野馨です。
物件が決まった後、あるいは物件探しの段階で、全ての投資家様が必ずぶつかる「運命の分かれ道」があります。
「手続きが簡単な『民泊新法』でとりあえず始めるか?」
「工事をしてでも本格的な『旅館業許可』を取りに行くか?」
ネット上の情報を見ると、こんな言葉が並んでいます。
「民泊新法なら届出だけで簡単!」「旅館業は審査が厳しくてハードルが高い」
確かに、手続きの楽さだけを見ればその通りです。
しかし、私は建設と法律のプロとして、あえて厳しいことを申し上げます。
「安易に民泊新法(180日制限)を選ぶことは、将来の利益を半分ドブに捨てるのと同じです」
リノベーションに1,000万円かけたのに、法律のせいで年の半分しか営業できない。
こんな馬鹿げた話はありません。
ビジネスとして「利益」と「資産価値」を最大化したいなら、答えは一つ。
多少の工事費をかけてでも、「旅館業許可(簡易宿所)」を取るべきです。
今回は、この2つの許可の決定的な違いと、旅館業許可の最大のハードルである「玄関帳場(フロント)」や「トイレの数」を、建設業者の技術でクリアする裏技について、どこよりも詳しく解説します。
この記事でわかること(完全比較)
- 「365日 vs 180日」 5年間の収益差は2,000万円以上?
- 旅館業許可が取れないエリア「用途地域」の絶対ルール
- 最大の難関「玄関帳場(フロント)」をICTと小工事で突破する方法
- 「トイレ・洗面」は何個必要?建設業者が教える設備基準
- 出口戦略:売却時に「旅館業許可付き」が高く売れる理由
1. 「365日」vs「180日」収益の壁と残酷な真実
まず、最も重要で、かつ多くの人が甘く見ている「稼げる日数」の違いについて、数字で直視していただきます。
| 項目 | 民泊新法 (住宅宿泊事業法) |
旅館業法 (簡易宿所) |
|---|---|---|
| 年間の営業日数 | 最大180日 (半年間は強制的に営業停止) |
365日 (無制限) |
| 法的な扱い | 「住宅」 (人が住む家) |
「宿泊施設」 (ホテルと同じ) |
| 宿泊日数の制限 | なし | なし (30日以上の長期も可) |
180日制限の「本当の怖さ」
民泊新法では、4月1日から翌年3月31日までの1年間で、人を泊められるのは「180泊まで」と法律で厳格に決まっています。
自治体への定期報告義務があり、システムで管理されているため、ごまかすことは不可能です。
「週末だけ貸すから180日で十分でしょ?」
そう思うかもしれません。しかし、観光地(別府・湯布院)の繁忙期を考えてください。
- GW、夏休み、紅葉シーズン、年末年始…
人気物件になれば、これらの稼ぎ時に予約が殺到します。
しかし、もし10月頃に「180日」を使い切ってしまったら?
一番稼げる年末年始に、指をくわえて休業しなければなりません。
💰 5年間の収益シミュレーション(1泊3万円の場合)
- 民泊新法(180日): 年商540万円 × 5年 = 2,700万円
- 旅館業法(300日稼働): 年商900万円 × 5年 = 4,500万円
その差、なんと1,800万円。
初期投資(リノベ費用)が同じ1,000万円だとしたら、旅館業なら2年で回収できますが、民泊新法では4年かかります。
このスピード感の違いは、投資において致命的です。
2. 「場所」の壁:用途地域の規制を知る
「じゃあ、全員旅館業を取ればいいじゃないか」
そう思いますが、誰でも取れるわけではありません。
最初のフィルターは「場所(用途地域)」です。
旅館業ができる場所・できない場所
日本中の土地には「用途地域」という色が塗られています。
- 民泊新法: 「住宅」扱いなので、住居専用地域(一低層など)を含め、基本的にどこでも営業可能です。
(※ただし、マンション管理規約での禁止や、自治体独自の「上乗せ条例」で、住居専用地域での営業を土日のみに制限している場合があります。京都市や東京都特別区などが有名です) - 旅館業法: 「宿泊施設」なので、以下の地域でしか営業できません。
- 第一種住居地域、第二種住居地域
- 準住居地域
- 近隣商業地域、商業地域
- 準工業地域
- (※用途地域の指定がない「無指定地域」も一部可)
【重要】
もしあなたの物件が、閑静な高級住宅街である「第一種低層住居専用地域」や「第一種中高層住居専用地域」にある場合、どれだけお金を積んでも旅館業許可は取れません。
この場合は、諦めて「民泊新法」を選ぶしかありません。
逆に言えば、物件を買う前に「用途地域」を確認するだけで、勝負の半分は決まるのです。
3. 「設備」の壁:最大の難関『玄関帳場』と無人化
場所の問題をクリアした後に立ちはだかる、旅館業許可最大のボスキャラ。
それが「玄関帳場(フロント)の設置義務」です。
従来の旅館業法では、「宿泊者の出入りを目視できる場所に、受付台(帳場)を置かなければならない」とされていました。
そして、そこには「常駐のスタッフ」がいることが前提でした。
「一棟貸しの古民家で、フロントなんてスペースないよ!」
「人件費がかかりすぎて赤字になる!」
この悩みを解決するのが、2018年以降の法改正と規制緩和で認められた「ICTを活用した無人チェックインシステム」です。
無人運営(フロント無人化)の3点セット
現在、厚生労働省の基準を満たせば、物理的なフロントやスタッフの常駐なしで旅館業許可を取得できます。
そのためには、以下の3つの設備(工事)が必要です。
- 本人確認システム(タブレット等):
玄関にタブレット端末を設置し、ビデオ通話機能を使って、遠隔地にいるオペレーター(管理業者)と対面で本人確認を行います。パスポートの画像を撮影・送信できる機能が必須です。
※建設ポイント: タブレットを壁掛けするための電源工事と、安定したWi-Fi環境の構築が必要です。 - スマートロック(電子錠):
物理鍵を使わず、暗証番号やアプリで開錠できるドア鍵。本人確認が完了した後に、システムから鍵番号が発行される仕組みが必要です。
※建設ポイント: 既存の古民家の引き戸に対応したスマートロックの選定や、ドア交換工事が必要になる場合があります。 - 防犯カメラ:
宿泊者の出入りを常時記録し、オペレーターがリアルタイムで監視できるカメラを玄関外に設置します。
※建設ポイント: 屋外電源の確保と、死角のない設置位置の調整が必要です。
これらを導入することで、法的に「玄関帳場に代わる措置」として認められ、無人での旅館業運営が可能になります。
当事務所では、これらの機器選定から設置工事の手配まで、建設業者としてワンストップでサポート可能です。
4. 意外な落とし穴「トイレと洗面」の数
旅館業許可(簡易宿所)を取る場合、民泊新法よりも少し厳しい設備基準があります。
特にリノベーション費用に直結するのが「水回りの数」です。
定員とトイレの数の黄金比
各自治体の条例によりますが、多くの地域で以下のような基準があります。
- 定員5名以下: トイレ1個、洗面1個でOK。
- 定員6名〜10名: トイレ2個(男女別などが望ましい)、洗面2個が必要。
もし、あなたが「広い古民家だから、定員10名で貸し出そう!」と計画していても、既存のトイレが1つしかなければ、旅館業許可は下りません。
ここで選択肢は2つです。
- 工事をする: 50万〜100万円かけて、トイレと洗面台を増設する。
- 定員を減らす: 定員を5名に抑えて、トイレ1個のままで申請する。
「定員を減らすと売上が下がる」と思うかもしれませんが、高級路線(1人あたりの単価を上げる)に舵を切るなら、定員5名でも十分利益は出ます。
このように、「設備投資額」と「期待収益」のバランスを計算できるのが、建設業許可を持つ私の強みです。
5. 出口戦略:なぜ「旅館業許可付き」が高く売れるのか?
最後に、将来物件を売却する時の話(出口戦略)をしましょう。
あなたが5年間運営して、十分に利益を出した後、その物件を売りに出すとします。
その時、次の買い手(投資家)はどちらの物件を欲しがるでしょうか?
- A:民泊新法(180日)の物件
「ああ、また営業日数の管理をしなきゃいけないのか。収益性も低いな…」 - B:旅館業許可(365日)の物件
「買ったその日から365日フル稼働できる! 許可取得の手間も工事も不要だ。これは高くても買いだ!」
答えは明白です。
旅館業許可を取得している物件は、それ自体が「高収益を生むシステム」として評価され、相場よりも高い価格で売却できる可能性が高いのです。
最初の工事費(トイレ増設や消防設備など)は、売却益(キャピタルゲイン)で十分お釣りが来ます。
だからこそ、私は投資家様に「迷ったら旅館業を取れ」とアドバイスしているのです。
まとめ:まずは「場所」と「図面」の確認から
いかがでしたでしょうか。
旅館業許可は、確かに民泊新法よりハードルが高いです。
しかし、そのハードルは「建設業の技術」と「ICT」を使えば、十分に越えられる高さです。
当事務所は、単なる代書屋ではありません。
物件の図面を見れば、「あと何を足せば旅館業許可が取れるか」を瞬時に判断し、工事の見積もりまで出せます。
行政書士 小野馨の「許可診断」サービス
- 用途地域チェック: その場所で旅館業ができるか?
- 設備診断: トイレや洗面は足りているか?増設コストは?
- 無人化プラン: どのスマートロックとタブレットを導入すべきか?
「簡単な民泊新法」に逃げる前に、まずは「稼げる旅館業」が可能かどうか、プロにご相談ください。
その判断が、数千万円の利益の差を生みます。
許可の種類が決まったら「建物」の要件へ
旅館業でも民泊新法でも、「建築基準法」と「消防法」は避けて通れません。
特に200㎡超えの確認申請リスクについて、再度確認しておきましょう。