温泉付きの別荘や古民家を、宿泊客が温泉を楽しめる宿にしたい。
そう考えたときは、物件の購入や浴室の改修を決める前に、「宿として営業できるか」「温泉を客に提供できるか」「使った湯を適切に排水できるか」を分けて確認しましょう。
ここがポイント
温泉の供給契約と、宿泊営業・温泉利用の行政手続きは別です。
契約内容と必要な許可・届出を、それぞれ確認しましょう。
排水についても、既存の浄化槽へ入れるか、浄化槽を避けて側溝へ流すかを先に決めず、現地の排水先と受入れ条件から確認します。
この記事では、許認可・給排水・衛生管理を分け、どの担当へ、何の資料を持って、何を相談すればよいかを整理します。
まず制度と設備の確認点を押さえ、最後に所在地や営業計画をまとめた「計画メモ」を用意しましょう。
契約・工事前の相談に使える形にすることで、個別の許可条件は担当窓口へ、設備設計は専門業者へ、同じ計画を伝えて確認できます。
1. 温泉付き民泊の許可・届出は、宿泊営業・温泉利用・公衆浴場を分けて確認する
「温泉付き民泊の許可」という一つの手続きがあるわけではありません。
まず、誰を泊め、誰に入浴してもらう施設なのかを決めます。
| 確認する制度 | 主な確認内容 |
|---|---|
| 旅館業法 | 旅館・ホテル営業、簡易宿所営業など、計画に合う営業区分と許可の条件 |
| 住宅宿泊事業法(民泊新法) | 届出の対象となる「住宅」か、年間180日以内の宿泊提供や条例の制限に合うか |
| 温泉法 | 温泉を公共の浴用・飲用に供するための利用許可。宿泊の許可・届出とは別の確認 |
| 公衆浴場法 | 日帰り客など宿泊者以外にも浴場を開放する場合を含め、営業形態に応じた適用の確認 |
宿泊制度の選択では、旅館業と住宅宿泊事業を混同しないことが大切です。
新法の届出は「180日以内ならどの建物でも使える」という制度ではなく、設備・居住の要件を満たす住宅であることが必要です。
特区民泊を検討する地域では、認定制度も別途確認します。
制度の比較は観光庁の民泊制度案内で確認できます。
温泉を公共の浴用・飲用に提供するには、温泉法の利用許可が必要です。
住宅宿泊事業の届出をする場合も、温泉を客に使わせる計画を所在地を管轄する保健所等へ伝え、温泉利用の担当に確認してください。
確認する関係法令の例は、宮城県の住宅宿泊事業の届出案内にもありますが、申請先や様式は自分の所在地で確かめます。
一方、旅館業法の適用を受ける宿泊施設の浴場は、公衆浴場法の適用外とされる扱いがあります。
ただし、日帰り入浴も受け入れるなど利用形態が変われば、同じ整理でよいとは限りません。
住宅宿泊事業の浴室も、旅館業の浴場と一律に扱わず、利用者の範囲・浴室の使い方を示して保健所へ確認しましょう。
厚生労働省「公衆浴場法概要」が制度の基本です。
別府で計画している方は、地域の申請準備と入湯税について別府の温泉利用許可・申請書類・入湯税の確認順序をご覧ください。
2. 「温泉権あり」だけで判断せず、源泉と引湯を分ける
不動産広告の「温泉権」は、その言葉だけでは権利の内容や営業利用の可否まで分かりません。
源泉を所有・管理する計画なのか、供給者から引湯を受ける計画なのかで、確認する契約と手続きが変わります。
自分で源泉を保有・採取する場合
源泉を含む物件を買うことと、温泉法上の許可を受けることは別です。
温泉の掘削・増掘・動力装置には許可が必要で、採取にも、可燃性天然ガスに関する確認を受けた場合などを除き許可が必要です。
既存源泉を引き継ぐときも、現在の許可・確認の名義と対象設備、事業の変更に必要な手続きを温泉担当へ照会します。
環境省「温泉法の概要」を参照してください。
供給者から引湯を受ける場合
供給契約や管理規約を取り寄せ、宿泊客への提供が認められるかを確認します。
自宅・別荘での利用を前提とした契約を、確認せず宿泊営業へ使わないことが重要です。
供給者に確認すること
- 契約の承継・名義変更が可能か。承諾や新しい契約が必要か
- 契約期間、更新条件、名義変更料・更新料・基本使用料・超過料金
- 供給される湯量・温度、供給停止や不足時の取扱い
- 引湯管の所有者、修繕の担当者と費用負担
ココに注意
注意すべきは「量」の制限です。
浴槽を大きくしたり、入れ替え回数を増やしたりすると、家庭で使っていたときとは必要な湯量が変わります。
契約条件を確認し、その条件で営業と衛生管理が成り立つかを検討してください。
契約上利用できることが確認できても、温泉利用許可や宿泊営業の手続きの代わりにはなりません。
中古物件の引継ぎを詳しく確認したい方は、温泉付き物件の権利・契約・許可承継の確認へ進んでください。
3. 排水は「どこへ流すか」を決めてから設備を計画する
排水計画の出発点
浴槽・洗い場・台所やトイレの排水を図面上で分け、それぞれがどこへ流れるかを確認します。
温泉排水は、浄化槽を通せばよいとも、分離して側溝へ流せばよいとも一律には言えません。
次の項目で、公共下水道・浄化槽・河川や水路など、計画する排水先に応じた相談先と確認内容を押さえましょう。
公共下水道へ接続する場合
下水道が前面道路まで来ていても、温泉排水をそのまま受け入れてもらえるとは限りません。
下水道管理者へ所在地と排水系統を示し、その処理区域での接続可否、水質条件、必要な届出、使用料を確認します。
公式サイトでは、下水道条例、排水設備工事の手引・申請案内、事業場排水の水質基準を探してください。
資料の見方の例として、熱海市の排水設備案内には処理区ごとの温泉汚水の扱い、藤沢市の案内には事業場排水の水質基準が載っています。
他地域の条件を当てはめず、所在地の同種の資料を確認しましょう。
浄化槽を使用する場合
既存の住宅用浄化槽を、そのまま温泉付き宿泊施設に使えるとは判断できません。
浄化槽は微生物の働きを利用して生活排水を処理する設備です。
現在の人槽・処理方式・維持管理記録と、変更後の用途・排水量をそろえ、温泉排水の水質や温度も含めて担当窓口と設備の専門業者へ相談します。
基本的な仕組みは大分県「浄化槽とは」で説明されています。
処理系統を分ける必要があるか、分けた排水をどこでどのように処理するかは、同時に確認する事項です。
分離工事だけを先に決めないでください。
生活排水側の必要人槽や入れ替え・下水接続の比較は、民泊の浄化槽の容量・定員変更前の確認手順で整理しています。
河川・水路などへ排水する場合
水質汚濁防止法上の特定施設・特定事業場に該当するか、どの排水基準が適用されるか、条例による規制があるかを、自治体の水質・環境担当へ確認します。
水路などの管理者への手続きや同意の要否も別の確認です。
管理者の同意だけで、水質に関する規制を満たしたことにはなりません。
この確認では、旅館業と住宅宿泊事業を区別します。
住宅宿泊事業の用に供するちゅう房施設・洗濯施設・入浴施設は、2020年の政令改正で水質汚濁防止法の特定施設から除外されています。
ただし、それだけで排水先の条件や条例などの確認が不要になるわけではありません。
環境省の改正案内を踏まえ、計画する施設と営業形態を伝えて確認しましょう。
ココがポイント
特に、「排水量が1日50㎥未満なら規制対象外」という理解は避けましょう。
環境省の一般排水基準では、有害物質の基準と生活環境項目の基準が分けられており、50㎥の条件をすべての項目へ当てはめることはできません。
温泉を利用する旅館業には項目による特例や、ほう素・ふっ素等の暫定排水基準もあるため、自分の施設に適用される条件を確認する必要があります。
環境省「一般排水基準」を起点に、泉質・排水先・排水量・営業形態を示して相談してください。
この段階で必要な検査や処理方法を確認し、対応可能な設備と費用の見通しを立てます。
「天然の温泉だから無処理で流してよい」とも、「基準を超える成分があるから必ず開業できない」とも、資料なしで結論を出さないことが大切です。
4. 給湯設備と衛生管理は、開業後の担当者まで決める
湯が出ることと、宿泊客へ継続して提供できることは別です。
湯量・温度・成分、貯湯槽や配管の状態、加温・循環の有無を確認し、設備の専門業者へ点検と計画を依頼します。
配管材や給湯器は、温泉への適合性とメーカーの使用条件を個別に確認してください。
特定の材質への交換や換気設備の仕様を、泉質や現場条件を見ずに決めるものではありません。
かけ流しでも衛生管理が不要になるわけではない
レジオネラ対策は、循環式だけの問題ではありません。
かけ流しであっても、貯湯槽や配管などを含めて管理する必要があります。
厚生労働省の循環式浴槽の対策マニュアル内「掛け流し温泉施設のQ&A」(本文29頁/PDF32頁)でも、浴槽・貯湯槽・配管などの生物膜除去の重要性が示されています。
施設の構造を整理したうえで、厚生労働省のレジオネラ対策資料と所在地の条例・保健所の指導を確認しましょう。
- 清掃、換水、消毒、水質検査の対象と頻度
- 貯湯槽・配管・ろ過設備など、浴槽以外の管理範囲
- 日々の点検・測定・記録を誰が行い、誰が確認するか
- 異常や検査結果の不適合があったときの連絡先と対応手順
これらを、清掃業者へ任せる作業と運営者が確認する作業に分けて文書化します。
保健所等の浴場・衛生担当に、営業形態に対応する条例・衛生管理基準と、管理手順書・点検記録の参考様式があるかを聞き、検査対象・頻度・報告の要否を確認してください。
横浜市の浴場施設管理案内は管理手引書や記録の参考例ですが、同市の義務や頻度を全国共通とは扱いません。
薬剤の濃度や投入方法も、この記事だけをもとに設定することはできません。
温泉成分の掲示と衛生検査は別に管理する
温泉法に基づく成分・禁忌症等の掲示と、浴槽水などの衛生状態を確かめる検査は、目的が異なります。
温泉成分の分析書があるだけで、日常の衛生管理が済むわけではありません。
温泉成分の掲示には、登録分析機関による分析結果が必要で、定期的な分析は10年ごとです。
手元の分析書の分析日を確かめ、掲示内容や届出も温泉担当へ確認してください。
環境省の温泉法概要に基本事項が示されています。
5. 契約・工事前に進めたい確認の順序
相談前に用意する計画メモ
窓口ごとに前提が食い違わないよう、次の項目を一枚にまとめます。
- 場所と営業:所在地、宿泊制度の候補、定員
- 浴室の使い方:利用方法、日帰り客を受け入れるか
- 温泉と排水:温泉の入手方法、既存の排水先
既存施設へ客室露天風呂を追加する場合は、増築費用の見積もりと工事前の確認事項も併せて整理してください。
資料がそろっていなくても、分かることから相談する
図面や分析書が見つからない、排水先が分からない、必要湯量・排水量をまだ計算できていない場合も、計画メモに「未確認」「未算定」と記載して相談を始められます。
窓口では、手元の資料で判断できることと、追加で誰から何を取り寄せる必要があるかを確認しましょう。
接続可否や供給量が未確認のまま、利用できる前提で契約・工事へ進めないことが大切です。
所在地の担当窓口と、探す資料を対応させる
次は担当の役割と資料の種類の目安です。
部署名や所管、資料名は自治体によって異なり、市町村ではなく都道府県等が担当する場合もあります。
窓口が分からなければ、市町村・都道府県の代表窓口や保健所に所在地と「温泉を宿泊客へ提供する計画」を伝え、各担当を案内してもらってください。
| 確認先の役割 | 探す資料の種類 | 窓口で聞くこと |
|---|---|---|
| 保健所等の宿泊営業・民泊担当 | 旅館業・住宅宿泊事業の手引、条例、申請・届出様式と添付書類一覧 | 計画に合う制度、建物の使い方、事前相談と申請の順序 |
| 温泉利用・浴場衛生担当 | 温泉利用許可の手引・様式、構造設備・衛生管理基準、管理手順書や記録の参考様式 | 宿泊者だけか日帰り客も含むかを示し、必要な許可、添付図面、検査・管理方法 |
| 下水道管理者 | 排水設備工事の申請案内、下水道条例、受入れ水質基準 | 所在地の処理区で温泉排水を接続できるか、条件・届出・使用料 |
| 浄化槽担当 | 設置・変更の手続案内、維持管理の案内 | 用途・定員の変更と温泉排水を踏まえ、既存設備の検討に必要な資料・手続き |
| 環境・水質担当 | 特定施設の届出案内、排水基準、地域独自の排水規制を定める条例 | 営業形態・施設・排水量による適用、必要な検査と着工前の手続き |
| 河川・水路等の管理者 | 放流先の利用・占用等に関する手続案内 | 管理者は誰か、接続・放流に必要な手続きや同意は何か |
| 建築担当・消防署 | 用途変更・増改築の相談案内、宿泊施設の消防手続・設備の案内 | 建築担当には用途・工事内容、消防署には宿泊形態・定員・図面を示し、それぞれ必要な手続きを確認 |
公式サイトでは「手引・様式・基準」を探す
所在地の市町村・都道府県の公式サイト内検索、または検索エンジンで、たとえば「自治体名+温泉利用許可+手引」「自治体名+旅館業+申請+添付書類」「自治体名+下水道+温泉排水」「自治体名+浴場+衛生管理」と検索します。
これは検索語の例で、実在する資料名ではありません。見つからなければ、表の担当へ該当ページや資料を案内してもらいましょう。
資料を開いたら、対象地域・営業形態、更新日や施行日を確認し、申請様式だけでなく添付書類一覧・記載例・条例の基準も読みます。
古い資料や対象が分からない資料は、窓口に「この計画では、この資料のどこを使えばよいですか」と確認してください。
同じ計画メモを使い、確認結果を設計へつなぐ
- 資料を集める:売主・供給者から温泉の契約書、許可・確認関係書類、成分分析書、設備図面、修繕・点検記録を取り寄せます。
- 営業と温泉利用を相談する:保健所等へ宿泊制度、温泉利用、公衆浴場の適用を確認します。建築担当・消防署にも計画を伝えます。
- 排水経路を確認する:下水道担当、浄化槽担当、環境・水質担当と、排水先の管理者へ相談します。部署名や所管は自治体によって異なります。
- 設備と管理を具体化する:確認した条件を建築士・設備業者へ渡し、給湯・排水の計画、工事費、維持管理費を検討します。
- 契約・工事・申請の順序を調整する:必要な許可や届出、現地確認の時期を窓口と合わせ、先に必要な手続きがある工事を見切り発車しないようにします。
水質汚濁防止法の特定施設の設置・構造等変更の届出が必要な計画では、着工前の届出と実施制限期間にも注意が必要です。
すべての民泊に同じ期限がかかるわけではないため、該当性と着工できる日を環境・水質担当へ確認してください。

温泉付き民泊の計画では、許認可と設備を別々に進めず、同じ営業計画で照合することが出発点です。
自分で相談を進める場合も、窓口の回答と確認日、追加で必要な資料をメモしておくと、設計・契約の判断に使えます。
温泉付き民泊の契約・工事前に、許認可の準備を一緒に進めませんか
温泉付きの物件を宿にしたい一方で、保健所や役所への確認、必要な資料集め、申請書類の準備を一人で進めるのが難しいときは、サクセスファン行政書士事務所へご相談ください。
計画に合わせた役所への事前相談、必要資料の整理、申請・届出書類の作成と提出、提出後の補正対応まで支援します。
宿泊営業と温泉利用の手続きを整理し、窓口への照会や書類対応の負担を減らして、開業準備を進められるようお手伝いします。
まずは所在地、予定する営業形態、温泉の供給方法、契約・工事の予定時期、いま分からないことをフォームでお知らせください。
資料がそろっていない段階でも、分かる範囲からご相談いただけます。
給排水設備の設計や施工の判断は、それぞれの専門業者・担当窓口での確認が必要です。
