民泊・建築基準法ガイド(親記事) > サウナ民泊の許可と施工
こんにちは。
建設業許可と民泊・旅館業許可の専門家、行政書士の小野馨です。
今、リゾート民泊や貸別荘の市場で、宿泊単価を劇的に、それこそ一晩で「数万円」レベルで押し上げる「魔法の設備」があります。
それが「プライベートサウナ」です。
♨️ サウナ導入の破壊力
- 「サウナがある」というだけで検索フィルターに引っかかり、予約率が倍増する。
- 1泊3万円の宿が、サウナ付きになった瞬間に1泊5万円〜8万円でも埋まる。
- リピート率が高く、閑散期(冬場)でも集客が落ちない。
このブームに乗って、「ウチの貸別荘の庭にも置こう!」と、ネット通販で「バレルサウナ(樽型サウナ)」や「テントサウナ」をポチるオーナー様が急増しています。
しかし、はっきり申し上げます。
その安易な「ポチり」が、あなたの事業を破綻させる引き金になるかもしれません。
【実際に起きたトラブル】
「開業直前の消防検査で、『このストーブと壁の距離では許可できない。撤去してください』と言われ、100万円のサウナがただのゴミになった」
「保健所から『公衆浴場法の許可がないから営業停止』と指導され、予約をすべてキャンセルさせられた」
サウナは単なる家具ではありません。
法律上は「火気使用設備」であり、営業形態によっては「公衆浴場」であり、土地に定着すれば「建築物」です。
今回は、建設と法律のプロの視点から、ネットには書かれていない「違法サウナにならないための法的基準」と、「消防法を技術的にクリアする施工ポイント」を徹底解説します。
この記事でわかること(プロの視点)
- 民泊のサウナに「公衆浴場法」の許可は必要か?(保健所の本音)
- ネットで買った「バレルサウナ」が消防法違反になる理由
- 「電気」vs「薪」 プロが選ぶのはどっち?(コストとリスク比較)
- 火災を防ぐための「離隔距離」と「遮熱板」の施工基準
- サウナは「建物」か?建築確認申請の落とし穴
1. 最初の壁:「公衆浴場法」の許可は必要か?
サウナを営業用として設置する場合、原則として「公衆浴場法」の許可が必要です。
もしこの許可が必要になると、「男女別の脱衣所」「トイレの数」「タイルの材質」など、銭湯並みの設備基準が求められ、小規模な民泊では事実上、設置不可能になります。
しかし、民泊(旅館業)の場合は、ある条件を満たせば「許可不要(旅館業の附帯設備)」として扱われる特例があります。
「他のお客様と混浴するか?」が運命の分かれ道
厚生労働省の通知や各自治体の条例により、判断基準は以下のように明確に分かれます。
| 利用形態 | 公衆浴場法許可の要否 |
|---|---|
| 一棟貸し(占有利用) | 原則「不要」 ※1日1組限定で、そのグループだけが自由に使える場合、「部屋のお風呂」と同じ扱いになります。 |
| 共用利用(ドミトリー等) | 原則「必要」 ※A室の客とB室の客が、同じサウナを使う可能性がある場合、銭湯と同じ許可が必要です。 |
| 日帰り利用 | 絶対に「必要」 ※宿泊客以外(地元の人など)から料金を取って利用させる場合は、完全な公衆浴場です。 |
つまり、民泊でサウナを導入するなら、「1日1組限定の一棟貸し」が最強の勝ちパターンです。
これが、リゾート地で「一棟貸しサウナ民泊」が流行っている法的な理由です。
【⚠️注意】
ただし、自治体(特に別府市や由布市などの温泉地)によっては、独自の厳しい条例がある場合があります。
「一棟貸しでも、定員が◯名を超えるなら公衆浴場とみなす」といったローカルルールがないか、必ず事前の保健所相談が必要です。
2. 施工の壁:「消防法」をクリアする設置基準
「公衆浴場法はクリアした!じゃあAmazonでバレルサウナを買って置こう!」
ちょっと待ってください。
次に立ちはだかるのが、最も物理的に危険で、審査が厳しい「消防法(火災予防条例)」です。
① 「電気」vs「薪(まき)」プロが選ぶのは?
サウナストーブには「電気式」と「薪式」があります。
「薪のパチパチいう音が癒やされる…」と薪ストーブを選びたがるオーナー様が多いですが、建設のプロとしては「電気ストーブ」を強く推奨します。
- 薪ストーブのリスク:
- 規制が激甘ではない: 煙突の断熱施工、屋根貫通部の不燃処理、火の粉対策など、クリアすべきハードルが山積みです。
- 運用リスク: 宿泊客(素人)が火を扱います。薪を入れすぎて過熱火災を起こしたり、不完全燃焼で一酸化炭素中毒になるリスクが非常に高いです。
- 電気ストーブのメリット:
- 安全・簡単: スイッチ一つで温度管理ができ、火災リスクが低い。
- PSEマーク: 国内の安全基準(PSE)を満たした製品なら、消防署の審査もスムーズです。
「でも電気代が…」と心配されますが、火災事故のリスクと、薪の管理(含水率の調整や保管場所)の手間を考えれば、電気一択です。
② 「離隔距離(りかくきょり)」の確保と短縮テクニック
これが消防検査で一番落ちるポイントです。
消防法(火災予防条例)では、ストーブの周囲に一定の空間を確保することが義務付けられています。
一般的に、サウナストーブの側面や上面から、壁や天井まで「100cm以上(※機種による)」離す必要があります。
しかし、狭いバレルサウナや個室サウナの中で、壁から1mも離したら、人が座るスペースがなくなりますよね?
ここで使うのが、建設業者の技術「不燃材料による離隔距離の短縮」です。
👷♂️ プロの施工テクニック
ストーブ周囲の壁に、単なる木材ではなく「厚さ◯mm以上の不燃材料(ケイカル板やステンレス遮熱板)」を、壁から25mm以上浮かせて設置する(空気層を作る)ことで、必要な離隔距離を大幅に短縮できます。
通販で買ったバレルサウナをそのまま組み立てると、壁が「木(可燃物)」のままなので、離隔距離が取れずに「消防法違反」となります。
必ず、内装の不燃化工事(遮熱板の設置)を追加で行う必要があります。
3. 意外な落とし穴!「バレルサウナ」は建築物か?
「庭に置く小屋だから、建築確認なんていらないでしょ?」
これは大きな間違いです。
土地に定着する屋根付きの工作物は、原則として「建築物」です。
つまり、サウナ小屋を設置することは「増築」扱いになります。
① 建ぺい率オーバーの罠
敷地に余裕がない場合、サウナを置いたことで「建ぺい率(敷地に対する建物の面積割合)」をオーバーしてしまう可能性があります。
これは違法建築となり、融資が止まったり、行政指導の対象になります。
② 防火地域の罠
都市部や密集地にある「防火地域・準防火地域」では、建物の外壁や屋根に防火性能が求められます。
木製のバレルサウナは、そのままでは防火性能がないため、防火地域内には原則として設置できません。
「買った後に置けないことが発覚した」とならないよう、事前の用途地域調査が必須です。
4. 建設業者が教える「正しいサウナ施工」
サウナは「買って置く」ものではなく、「施工する」ものです。
当事務所がサポートする場合、建設業のノウハウを活かして以下のような対策を行います。
電気容量と動力(200V)契約
家庭用の100V電源では、サウナは温まりません。
業務用のハイパワーなストーブ(4kW〜9kW程度)を動かすには、単相200Vまたは三相200V(動力)の専用回路が必要です。
一般家庭の電気契約(60Aなど)のままでは、サウナのスイッチを入れた瞬間にブレーカーが落ちます。
電力会社への申請と、幹線ケーブルの張り替え工事が必要です。
基礎工事と排水
数百キロあるサウナを土の上に直接置くと、湿気で底が腐ったり、不同沈下で傾いたりします。
コンクリート土間を打つか、束石(つかいし)で強固な基礎を作る必要があります。
また、サウナ内で使用した水や汗をどう処理するか(排水設備)も、保健所のチェックポイントです。
まとめ:サウナは「高収益」だが「高リスク」
サウナ付き民泊は、成功すれば投資回収期間を大幅に短縮する「ドル箱」になります。
しかし、火災リスクと隣り合わせの設備である以上、行政のチェックは厳しいです。
【サウナ導入の3つの関門】
- 保健所: 公衆浴場法に該当しない運用(一棟貸し)か?
- 消防署: ストーブの離隔距離と遮熱板は適正か?
- 建築課: 建ぺい率や防火地域の規制を守っているか?
この3つの関門をすべて突破しなければなりません。
ネットで「簡単設置!」と書かれた商品を鵜呑みにしてはいけません。
当事務所は、建設業許可を持つ行政書士として、「法適合した安全なサウナの導入」を、機種選定から電気・基礎工事の手配、そして許可申請までワンストップでサポートします。
「庭にバレルサウナを置きたい」
そう思ったら、ポチる前にまずはご相談ください。
そのサウナが置ける場所なのか、電気工事はいくらかかるのか、無料で簡易診断いたします。
サウナの前に「建物本体」は大丈夫?
サウナの許可が取れても、母屋の「用途変更」や「消防設備」がNGなら営業できません。
民泊開業に必要なハード面の要件を、改めて全体確認しましょう。