民泊・建築基準法ガイド(親記事) > 消防設備のコストダウン戦略
こんにちは。
建設業許可と民泊・消防手続きの専門家、行政書士の小野馨です。
民泊や古民家宿の開業準備をしている方から、悲鳴のようなご相談をよく頂きます。
「消防署に行ったら、火災報知器の工事に150万円かかると言われました…」
「ただの平屋の古民家なのに、そんなにかかるんですか?ホームセンターで売ってる3,000円のやつじゃダメなんですか?」
結論から言うと、ホームセンターの家庭用警報器では許可は下りません。
しかし、150万円かける必要があるかと言うと、「やり方次第では30万円〜50万円程度に抑えられる」可能性があります。
今回は、民泊開業の予算を大きく左右する「消防法」の特例制度と、絶対に見落としてはいけない「無窓階(むそうかい)」の恐怖について、プロの視点で解説します。
この記事でわかること
- 民泊に必須の「消防3点セット」と導入費用の相場
- 工事費を1/3にする裏技「特定小規模施設(特小)」の要件
- スプリンクラー強制設置!?「無窓階」の判定基準
- DIYは違法?「消防設備士」の資格が必要なライン
1. 民泊に必須の「消防3点セット」と費用の現実
まず、人が住む「住宅」と、宿泊客が泊まる「旅館・民泊」では、求められる安全レベルが天と地ほど違います。
一般的に、民泊を開業するためには以下の3つの設備(3点セット)が義務付けられます。
① 自動火災報知設備(自火報)
これが一番の金食い虫です。
熱や煙を感知して、建物全体にベルを鳴らすシステムです。
【通常の工事(有線式)】
天井裏に配線を這わせ、受信機(親機)と各部屋の感知器、発信機(赤いボタン)、音響装置(ベル)をすべて有線で繋ぎます。
壁に穴を開けたり、配線工事が必要なため、一般的な戸建住宅でも100万円〜200万円の費用がかかります。
② 誘導灯(ゆうどうとう)
非常口を示す、緑色のランプです。
「玄関なら見ればわかるでしょ?」と思うかもしれませんが、停電時にバッテリーで点灯する業務用のものでなければなりません。
費用相場:1箇所あたり3万〜5万円
③ 消火器
ホームセンターで売っている家庭用ではなく、薬剤の量などが規定された「業務用消火器」が必要です。
150㎡ごとに1本などの設置基準があります。
費用相場:1本あたり1万円前後
これらをまともに導入すると、確かに150万円コースです。
「予算オーバーで開業できない…」と諦める前に、次の章を読んでください。
2. 工事費激減!「特定小規模施設」の特例とは?
国も「小さな民泊に、ホテル並みの設備を求めるのは酷だ」ということは分かっています。
そこで用意されたのが、「特定小規模施設用自動火災報知設備(通称:特小)」という特例制度です。
「特小(とくしょう)」なら配線工事が不要!
一定の条件を満たす小規模な施設に限り、大掛かりな配線工事が不要な「無線連動型」の感知器の設置が認められています。
【特小のメリット】
- 配線不要: 電池式で無線通信するため、天井裏の配線工事が要りません。
- 本体が安い: 受信機(大きな盤)が不要です。
- 工期が早い: 半日〜1日で設置が完了します。
これにより、費用は30万円〜50万円程度(機器代+設置届出費)まで圧縮可能です。
150万円が30万円になるなら、使わない手はありません。
特例が使える条件(300㎡の壁)
ただし、誰でも使えるわけではありません。主な条件は以下の通りです。
- 建物の延床面積が300㎡未満であること。
- 宿泊施設の用途部分が建物全体の10%以下であること(※家主居住型などの場合)
つまり、300㎡を超える大きな古民家やペンションの場合は、この特例が使えず、高額な有線工事が必要になります。
(※だからこそ、物件選びの際は「300㎡未満」かどうかが死活問題になるのです)
3. 最恐の落とし穴「無窓階(むそうかい)」判定
消防設備において、もう一つ絶対に知っておくべきキーワードがあります。
それが「無窓階(むそうかい)」です。
文字通り「窓が無い階」という意味ですが、実際の窓の有無とは関係ありません。
消防法における窓とは、「火事の時に消防隊員が外から進入できる、あるいは中の人が避難できる有効な開口部」のことです。
「窓があるのに無窓階」になるケース
- 格子がついている: 窓があっても、鉄格子や防犯柵があって人が通れない。
- 位置が高い: 床から1.2m以上の高さにあり、足が届かない。
- サイズが小さい: 直径50cmの円が内接できない大きさ。
- ガラスの種類: 消防隊が破壊できない特殊な強化ガラスなど。
もし、あなたの物件の客室が(特に2階や地下で)「無窓階」と判定されるとどうなるか?
「スプリンクラー設備の設置」や「屋内消火栓」など、数百万〜1,000万円クラスの重装備を義務付けられる可能性があります。
こうなると、小規模民泊の事業計画は完全に破綻します。
リノベーションの際は、安易に窓を塞いだり、オシャレな格子をつけたりする前に、必ず「消防上の有効開口部」を確保できているか確認する必要があります。
4. カーテンや壁紙の「防炎物品」義務
設備だけでなく、内装(インテリア)にも厳しい制限があります。
旅館業や民泊施設で使用するカーテン、じゅうたん、布製のブラインドなどは、すべて「防炎物品(防炎ラベルがついたもの)」でなければなりません。
「IKEAで買ったおしゃれな北欧カーテンを使いたい」
と思っても、それに「防炎」のタグがついていなければ、消防検査で「すべて外してください」と指導されます。
また、壁紙(クロス)や合板も、建築基準法上の「内装制限」を受け、難燃・不燃材料を使う必要があります。
DIYで勝手に普通のベニヤ板を貼ったりすると、やり直しになります。
5. 消防設備士(プロ)への依頼は必須
「無線式の警報器なら、自分で買ってきてドライバーでつければいいでしょ?」
と思うかもしれません。
しかし、自動火災報知設備の設置・整備・点検は、法律で「消防設備士(甲種4類など)」の独占業務と定められています。
無資格者が設置工事を行うことは違法です。
また、設置後には消防署へ「設置届」を提出し、消防官による立入検査(完了検査)を受けなければなりません。
この届出書類(配置図や系統図)の作成も、プロでないと不可能です。
まとめ:消防費用は「知恵」で下げる
いかがでしたでしょうか。
消防設備は、何も考えずに業者に見積もりを取ると「100万円オーバー」が当たり前です。
- 物件を300㎡未満に抑えて「特小」を使う。
- 無窓階にならないよう、窓の大きさや格子を調整する。
- 防炎物品を最初から選定する。
こうした「知恵」があれば、コストを数分の一に圧縮し、安全で適法な施設を作ることができます。
当事務所は、建設業許可を持つ行政書士として、提携する消防設備士と共に、「最もコストパフォーマンスの良い消防設計」をご提案します。
「この間取りで消防費用はいくらくらい?」
そう思ったら、物件契約前にご相談ください。
消防の次は「建物」の要件もチェック!
消防法をクリアしても、建築基準法(200㎡の壁)に引っかかると営業できません。
2つの法律をセットで攻略するのが成功の鍵です。