こんにちは。
建設業許可と民泊・旅館業許可の専門家、行政書士の小野馨です。
インバウンド需要の回復とともに、別府や湯布院をはじめとする観光地で、古民家や中古別荘をリノベーションして宿泊施設にするプロジェクトが急増しています。
「雰囲気の良い古民家を安く手に入れた」
「内装をオシャレにリノベして、1泊5万円で貸し出そう」
その事業計画、ちょっと待ってください。
不動産屋やリフォーム会社は「良い物件ですよ」「綺麗に直せますよ」と言うかもしれません。
しかし、彼らは「旅館業の許可が下りるかどうか」までは保証してくれません。
⚠️ 実際にあった失敗事例
「2,000万円かけて内装リノベを完了させたのに、最後の保健所の検査で『建築基準法上の用途変更がされていない』『消防設備が足りない』『浄化槽が小さすぎる』と指摘され、営業許可が下りなかった。
是正工事でさらに500万円以上かかると言われ、結局オープンできずに物件を手放した…」
これは脅しではなく、知識不足のまま参入した事業者が陥る典型的なパターンです。
民泊や旅館業を始める際、最大のハードルとなるのは「集客」ではありません。
「建築基準法(建物)」と「消防法(設備)」という、2つの法律の壁です。
この記事では、建設業許可と旅館業許可の両方の実務を知り尽くした私が、「物件を買う前・工事をする前」に絶対に確認すべきハード面の法的要件を徹底解説します。
この記事でわかること(ピラーガイド)
- 建築基準法: リノベ費用が倍になる?運命の「200㎡の壁」と「確認申請」
- 用途地域: そもそもそこで営業できる?「市街化調整区域」のリスク
- 既存不適格: 「検査済証」がない古い建物を合法化する裏技
- 消防法: 民泊特有の「3点セット」とコストダウンの特例
- インフラ: 見落とし厳禁!「浄化槽」の入れ替えコスト
1. 【建築基準法の壁】「用途変更」が必要になる境界線と3つのハードル
まず理解していただきたいのは、人が住むための「住宅(一戸建て)」と、不特定多数が泊まる「宿泊施設(ホテル・旅館・簡易宿所)」では、建物に求められる強度が全く違うということです。
住宅として建てられた建物を宿泊施設として使う場合、法律上は「用途変更」という扱いになります。
ここで事業者の前に立ちはだかるのが、以下の3つのハードルです。
① 運命の分かれ道「200㎡」の壁とは?(確認申請の有無)
2019年(令和元年)の建築基準法改正により、用途変更の手続きは大きく緩和されました。
以前は「100㎡」を超えると必要だった「確認申請」が、「200㎡」を超える場合のみ必要となったのです。
これにより、「延床面積が150㎡くらいの一般的な古民家」であれば、面倒な確認申請なしで民泊に転用できるようになりました。
しかし、ここには大きな落とし穴があります。
誤解:「確認申請が不要=好き勝手に工事していい」ではありません!
確認申請が不要なのは、あくまで「役所への書類提出が不要」なだけです。
建物自体は、建築基準法に適合させなければなりません。
これを無視して工事を行うと、違法建築となり、万が一の火災や事故の際にオーナーは刑事責任を問われます。
特に注意が必要なのは、「200㎡を超える大きな別荘や古民家」です。
この場合、建築士による図面作成と役所の審査(確認申請)が必須となり、設計料だけで100万円以上、審査期間で2〜3ヶ月が追加でかかります。
また、3階建て以上の建物の場合、耐火建築物にするための大規模な改修が必要になることもあります。
「安く買った大きな館」が、実は「リノベ費用が莫大にかかる金食い虫」だった、というケースは後を絶ちません。
💡 もっと詳しく知る
200㎡超えの物件や3階建て物件を狙っている方は要注意です。具体的な規制内容は以下の記事で深掘りしています。
👉 200㎡の壁を超えるには?3階建ては?民泊リノベーションの法的要件
② そもそも「民泊」ができる場所か?(用途地域と市街化調整区域)
建物の前に、まずは「土地」の問題です。
日本には「ここで商売をしてはいけません」というエリア分け(用途地域)が存在します。
- 工業専用地域: 工場のための地域。ホテル・旅館は営業できません。
- 住居専用地域(一種・二種など): 原則としてホテル営業は不可ですが、「民泊新法(年間180日制限)」なら可能な場合があります。
そして、地方のリゾート地で最も厄介なのが「市街化調整区域」です。
ここは原則として「建物を建ててはいけない(市街化を抑制する)エリア」です。
古民家カフェや農家民宿なら許可されるケースもありますが、本格的な旅館業許可を取ろうとすると、都市計画法上の「開発許可」が必要になり、ハードルが一気に跳ね上がります。
「景色が良いから」という理由だけで調整区域の物件を買うと、永久に許可が取れず、ただの別荘としてしか使えないリスクがあります。
💡 もっと詳しく知る
調整区域でも諦めるのは早いです。「農家民宿」や「包括承認基準」を使えば許可が取れる裏技があります。
👉 市街化調整区域で民泊はできる?「開発許可」の裏技を行政書士が解説
③ 検査済証がない古民家はどうする?(既存不適格と12条5項)
築古物件の9割が抱える爆弾、それが「検査済証がない」ことです。
検査済証とは、新築時に「この建物は法律通りに建てられました」と役所が証明する完了検査の合格証です。
昔の建物は、確認申請は出していても、最後の完了検査を受けていないケースが非常に多いのです。
検査済証がないと、原則として用途変更の確認申請は受け付けてもらえません。
では、どうするか?
一級建築士に依頼して、現況調査を行い「建築基準法第12条第5項の報告書」を作成してもらい、それを検査済証の代わりにするという手続きが必要です。
これには高度な専門知識と費用がかかりますが、ここをクリアしない限り、適法な旅館業営業はできません。
💡 もっと詳しく知る
検査済証がない物件を買ってしまったら?違法民泊にならないための「完了検査」の重要性と解決策はこちら。
👉 違法民泊にならないための「完了検査」と「検査済証」の重要性
2. 【消防法の壁】住宅と宿泊施設では「命を守る設備」が違う
建築基準法と並んで厳しいのが「消防法」です。
家族だけが住む「住宅」と違い、間取りを知らない宿泊客が泊まる施設には、極めて高い安全基準が求められます。
DIYで煙探知機をつけただけでは、消防署の検査は通りません。
消防設備士(甲種4類など)の資格を持つプロによる設計・施工・届出が必須です。
① 必須となる3点セット(自動火災報知設備・誘導灯・消火器)
旅館業や民泊を行う場合、原則として以下の設置が義務付けられます。
- 自動火災報知設備(自火報): これが最もコストがかかります。受信機、感知器、発信機、音響装置を配線で繋ぐ本格的な工事が必要です。
- 誘導灯: 非常口を示す緑色のライトです。部屋の入り口や廊下に設置します。
- 消火器: 業務用の消火器を適切な場所に配置します。
一般的な戸建住宅をこれらに対応させるだけで、通常は100万円単位の工事費がかかります。
② コストを抑える救世主「特定小規模施設」の特例とは?
「そんなにお金がかかるなら、小さな古民家民泊なんてできない!」
そう思った方、ご安心ください。国もその点は考慮しており、小規模な施設には特例を用意しています。
それが「特定小規模施設用自動火災報知設備(特小)」です。
延床面積が300㎡未満などの条件を満たせば、大規模な配線工事が不要な「無線式」の感知器設置だけでOKとなる制度です。
これにより、消防工事費用を数分の一に抑えることが可能です。
ただし、設置には「消防設備士」の資格が必要な点は変わりません。
💡 もっと詳しく知る
あなたの物件は特例が使える?工事費用の相場は?消防設備工事の具体的基準はこちら。
👉 消防設備工事の費用と基準|特定小規模施設用自動火災報知設備とは?
③ 意外な落とし穴!「無窓階」判定と内装制限
最後に、プロでも見落としがちなのが「無窓階(むそうかい)」の判定です。
「窓があるから大丈夫」ではありません。
消防法上の窓とは、「火事の際に消防隊員が進入できる大きさの窓」のことです。
格子がついていたり、高い位置にあって入れなかったりすると「窓なし(無窓階)」と判定されます。
無窓階と判定されると、スプリンクラー設備の設置など、さらに厳しい基準が課される可能性があります。
また、カーテンやじゅうたん、壁紙などはすべて「防炎物品(防炎ラベル付き)」を使用しなければなりません。
おしゃれな海外製のカーテンをつけたいと思っても、防炎認定がなければNGなのです。
💡 もっと詳しく知る
最近流行りの「サウナ付き民泊」や「温泉付き」の場合、さらに公衆浴場法の許可も必要になります。
👉 サウナ付き民泊の許可|公衆浴場法と消防法のクリア方法
3. 【インフラの壁】リゾート・古民家特有の「水と排水」の落とし穴
建物と消防がクリアできても、リゾート地や田舎の古民家には、都市部では考えられない「インフラの問題」が潜んでいます。
ここを見落とすと、数百万単位の追加工事が発生します。
① 浄化槽の「人槽計算」が変わる恐怖
下水道が通っていない地域では「浄化槽」を使用しますが、住宅と宿泊施設では、法律で定められた「処理能力の計算式(JIS)」が全く異なります。
- 一般住宅(5人槽〜7人槽): 家族が使う前提の小さなタンク。
- 宿泊施設(定員ベース): 毎日お客さんがお風呂やトイレを使う前提のため、非常に大きな処理能力が求められます。
例えば、定員10名の民泊を行う場合、既存の家庭用浄化槽(5人槽)では容量不足となり、「20人槽〜30人槽以上の大型浄化槽」への入れ替え工事を行政から指導されるケースがあります。
この工事費用は、掘削やコンクリート工事を含めると200万円〜500万円以上になることも珍しくありません。
「建物は安かったけど、浄化槽の入れ替えで予算オーバー」
これはリゾート民泊における典型的な失敗パターンです。
② 井戸水と温泉の「水質検査」
古民家や別荘では、水道が引かれておらず「井戸水」や「温泉」を使用している場合があります。
旅館業の許可を取るためには、保健所の定める基準を満たした「水質検査成績書」の提出が必須です。
もし検査で大腸菌やヒ素などが検出されれば、高額な滅菌装置を導入するか、最悪の場合は上水道を引き込む(本管が遠いと数千万円かかる)必要があります。
💡 もっと詳しく知る
別府・湯布院ならではの「温泉付き物件」の法律や、排水基準についてはこちらで解説しています。
👉 温泉付き物件の注意点|温泉法と排水基準を行政書士が解説
まとめ:物件購入「前」に建設のプロにご相談ください
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
「思ったより大変そうだ…」と感じられたかもしれません。
しかし、逆に言えば、この「建築と消防の壁」さえクリアしてしまえば、ライバルが参入しにくい「資産価値の高い宿泊施設」を手に入れたも同然です。
多くの行政書士は「書類作成」はできますが、「建築図面」や「消防工事」の現場判断はできません。
多くの建設会社は「工事」はできますが、「旅館業法の許可基準」までは把握していません。
当事務所は、「建設業許可」と「民泊・旅館業許可」の両方を専門としています。
- この古民家は200㎡以下に抑えられるか?
- この間取りで消防設備はどこに必要か?
- 浄化槽や井戸水はそのまま使えるか?
これらの判断を、物件購入前の内見段階からサポートし、リノベーション工事の手配から最終的な許可取得まで、ワンストップで伴走いたします。
別府・湯布院エリアでの民泊開業をお考えのオーナー様、不動産投資家様。
まずは「図面」と「物件情報」を持って、当事務所にご相談ください。
法適合した安全で収益性の高い施設づくりを、全力でサポートいたします。
建設会社が「自社物件」で民泊を始めるべき理由
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