
リゾート民泊コンシェルジュ&行政書士の小野馨です。
今回は、「民泊のメリット・デメリット」を徹底比較!
収益と失敗のリスクというテーマでお話します。
2025年に入り、私たちの生活の中で外国人観光客の方を見かけない日はなくなったと言っても過言ではありません。
「民泊事業は今からでも間に合いますか?」というご相談を日々いただきますが、その熱量はコロナ禍前を遥かに凌ぐ勢いです。
しかし、同時に「近隣トラブルで訴えられたらどうしよう」「思ったより経費がかさんで赤字になったら怖い」といった、漠然とした不安を抱えている方も多いはずです。
民泊は、正しく恐れ、正しく準備すれば、あなたの資産形成を加速させる強力なエンジンになりますが、知識不足のまま飛び込むと火傷をするビジネスでもあります。
この記事では、行政書士としての法的な観点と、コンシェルジュとしての現場の視点の双方から、民泊のリアルな収益構造とリスク管理について、どこよりも詳しく解説していきます。
- 民泊特有の爆発的な収益構造と、それを支える税務メリットの全貌
- 旅館業法、民泊新法、特区民泊の法的な違いと、あなたに最適な選択肢
- 騒音やゴミ出しなど、運営で発生しがちなトラブルを未然に防ぐプロの知恵
- 2025年以降の競争激化市場で、勝ち残るために必須となる戦略的思考
民泊のメリットやデメリットから紐解く収益の仕組み
まずは、ビジネスとしての「民泊」がなぜこれほどまでに投資家や不動産オーナーを惹きつけるのか、その収益メカニズムを深掘りしていきましょう。単なる「家賃収入」の延長線上にはない、ダイナミックな損益構造がそこには存在します。
インバウンド需要の回復がもたらす高利回り
民泊事業最大のメリットは、なんといってもその圧倒的な収益ポテンシャルにあります。一般的な賃貸経営(普通借家契約)の場合、家賃は周辺相場によってほぼ固定され、どんなに素晴らしい部屋を作っても、相場の2倍の家賃を取ることは困難です。しかし、民泊は「不動産賃貸業」ではなく「宿泊業」です。売上は「宿泊単価 × 稼働率」という掛け算で決まるため、需要が急増するタイミングでは、賃貸相場の3倍、4倍という売上を叩き出すことが物理的に可能なのです。
特に2025年現在、円安を背景としたインバウンド需要は留まるところを知りません。日本政府観光局(JNTO)の統計によると、2025年11月の訪日外客数は351万8,000人(推計値)となり、11月としては過去最高を記録しました。米国や韓国、台湾などからの旅行者が急増しており、彼らは単なる寝るだけの場所ではなく、家族や友人とリビングで団欒できる「広い空間」や、日本人の暮らしを擬似体験できる「ローカルな宿」を求めています。
なぜ民泊が高収益なのか?
ホテルは「1人あたり」の料金設定が基本ですが、民泊は「1部屋あたり」の料金設定が一般的です。例えば、1泊3万円の部屋でも、4人で泊まれば1人7,500円。ゲストにとっては割安で、ホストにとっては高単価という「Win-Win」の関係が成立しやすいのが特徴です。
私がサポートしている都内の3LDK物件の事例ですが、通常の賃貸なら家賃20万円程度のところ、桜のシーズンや年末年始には1泊5万円以上の設定でも連日満室となり、月商が100万円を超えることも珍しくありません。もちろん、清掃費や光熱費などの経費(ランニングコスト)は賃貸よりもかかりますが、それを差し引いても手元に残る利益(NOI)は賃貸を大きく上回るケースが多いのです。
(出典:日本政府観光局(JNTO)『訪日外客数(2025年11月推計値)』)
減価償却を最大限に活かした節税対策の要点
高所得者の間で民泊が「最強の節税ツール」と呼ばれる理由をご存じでしょうか?その秘密は、「減価償却費」の計上方法にあります。減価償却とは、建物や設備の購入費用を、一度に経費にするのではなく、法律で決められた年数(耐用年数)に分けて少しずつ経費にしていくルールのことです。
ここでポイントになるのが、「築古の木造物件」です。木造住宅の法定耐用年数は22年ですが、これを過ぎた中古物件を購入して民泊事業を行う場合、「簡便法」という計算式を用いることで、耐用年数を「4年」という極めて短い期間に短縮できる可能性があります。
簡便法のマジック
法定耐用年数を全て経過した資産の耐用年数は、「法定耐用年数 × 20%」で計算されます。
計算式:22年 × 0.2 = 4.4年 → 4年(端数切捨て)
例えば、建物価格が2,000万円の築古戸建てを購入したとします。通常であれば22年かけて経費化するところを、わずか4年で償却できるため、単純計算で年間500万円もの減価償却費(経費)を計上できることになります。実際には現金の支出がないにもかかわらず、帳簿上は大きな赤字が生まれるため、この赤字を本業の給与所得や事業所得と合算(損益通算)することで、課税所得を大幅に圧縮し、結果として所得税や住民税が還付されるというスキームです。
さらに、リノベーション費用や家具・家電の購入費も、条件を満たせば「少額減価償却資産」として即時償却できたり、3年均等償却ができたりと、経費計上の選択肢が豊富です。ただし、このスキームを適用するためには、個人の場合は「事業的規模」と認められる必要があったり、出口戦略(売却時の譲渡所得税)まで考慮に入れたりする必要があります。安易な適用は税務調査のリスクを高めるため、必ず民泊に詳しい税理士への相談をお勧めします。
180日ルールを補うマンスリー併用の二毛作
民泊事業への参入を躊躇させる最大の要因が、2018年に施行された住宅宿泊事業法(民泊新法)における「年間営業日数180日以内」という制限です。「1年の半分しか営業できないなら、家賃も回収できないのでは?」という懸念はもっともです。しかし、プロの事業者はこのルールを逆手に取り、残りの185日を有効活用する「ハイブリッド運用(二毛作)」で収益を最大化しています。
具体的には、観光需要がピークに達し、宿泊単価を高騰させられる「繁忙期」に民泊の180日枠を集中的に投入し、それ以外の「閑散期」や「平日」を、1ヶ月以上の中期滞在契約である「マンスリーマンション」として運用する戦略です。
ハイブリッド運用の年間カレンダー例
| 月 | 運用形態 | 戦略のポイント |
|---|---|---|
| 3月〜5月
(桜・GW) |
民泊 | 訪日客が最も多い時期。強気の価格設定で収益を稼ぎ出す。 |
| 6月
(梅雨) |
マンスリー | 観光需要が落ちるため、ビジネス出張や一時帰国需要を取り込む。 |
| 7月〜8月
(夏休み) |
民泊 | ファミリー層の旅行需要に対応。地方物件も稼働率が上がる。 |
| 9月〜11月
(紅葉・秋) |
民泊 | 欧米圏からの旅行者が増えるシーズン。180日の残日数を調整。 |
| 12月〜1月
(年末年始) |
民泊 | クリスマス〜正月の超繁忙期。ここまでは民泊枠を残しておく。 |
| 1月〜2月
(閑散期) |
マンスリー | 受験生や、家の建替えに伴う仮住まい需要などをターゲットにする。 |
この運用のキモは、「契約形態の切り替え」にあります。民泊は「宿泊契約」ですが、マンスリーは一般的に「一時使用賃貸借契約」となります。マンスリー期間中は、旅館業法や民泊新法の規制を受けないため、180日のカウントに含まれません。これにより、365日フルに物件を稼働させ、空室リスクを極限まで下げることが可能になります。
ただし、これを実現するには、民泊サイト(Airbnbなど)とマンスリー募集サイト(Sumycaなど)の両方で集客を行い、カレンダー(在庫)をダブルブッキングしないように一元管理するシステム(サイトコントローラー)の導入が不可欠です。手間は増えますが、その分、収益の安定性は格段に向上します。
旅館業法と新法で異なる参入障壁と許可要件
これから民泊を始めるあなたが最初に決断しなければならないのが、「どの法律の土俵で戦うか」ということです。日本には現在、宿泊事業を行うための主な法的枠組みとして「旅館業法(簡易宿所)」「住宅宿泊事業法(民泊新法)」「特区民泊」の3つが存在します。これらは似て非なるものであり、どれを選ぶかによって、初期費用も、営業可能日数も、将来の収益性も完全に変わってきます。
3つの法制度の比較まとめ
| 項目 | 旅館業法
(簡易宿所) |
民泊新法
(届出) |
特区民泊
(認定) |
|---|---|---|---|
| 年間営業日数 | 365日 | 180日以内 | 365日 |
| 実施可能エリア | 用途地域の制限あり
(住居専用地域は原則不可) |
全国どこでも可
(条例による制限あり) |
指定自治体のみ
(大阪市、大田区など) |
| 手続きの難易度 | 高(許可制) | 低(届出制) | 中(認定制) |
| 最低宿泊日数 | なし | なし | 2泊3日以上
(自治体による) |
| 消防設備 | 厳格 | 比較的緩和あり | 厳格 |
旅館業法(簡易宿所)は、いわゆる「プロ向け」のライセンスです。365日営業できる最強のカードですが、取得ハードルは極めて高いです。特に「用途地域」の壁が厚く、静かな住宅街(第一種低層住居専用地域など)では原則として許可が下りません。また、フロント(帳場)の設置義務や、トイレの数、洗面所の数など、建築基準法上の厳しい要件をクリアする必要があり、既存のマンションの一室で取得するのは現実的に困難なケースが多いです。
一方、民泊新法は「家主」や「個人」が参入しやすいように設計されています。用途地域の制限がなく、住宅街でも届出さえすれば営業可能です。ただし、180日制限に加えて、「家主不在型(家主が同居しないタイプ)」の場合は、国交省に登録された「住宅宿泊管理業者」への業務委託が義務付けられています。この委託コストも計算に入れる必要があります。
特区民泊は、その中間的な存在です。対象エリア(大阪市や福岡市など)限定ですが、旅館業法の許可なしに365日営業が認められます。ただし、「最低2泊3日以上」という滞在制限があるため、コンサートやイベント目的の「1泊だけ泊まりたい」という需要を取りこぼすデメリットがあります。ご自身の物件がどのエリアにあり、どのようなターゲットを狙うのかによって、最適な法律を選ぶ戦略眼が問われます。
開業に必要なリノベーションや初期費用の相場
「民泊を始めるには、結局いくら用意すればいいの?」という質問への答えは、物件の状態によって千差万別ですが、ある程度の目安となる相場観を知っておくことは重要です。物件取得費(敷金・礼金や購入費)を除いた「セットアップ費用」として、一般的には200万円〜500万円程度の資金が必要になるケースが多いです。
費用の大半を占めるのが「消防設備」と「リノベーション」です。まず消防設備ですが、民泊は一般住宅よりも火災リスクが高いとみなされるため、自動火災報知設備(自火報)、誘導灯、非常用照明などの設置が義務付けられることがほとんどです。特に自火報は、配線工事を含めると、小規模な戸建てでも30万円〜100万円近い費用がかかることがあります。
次にリノベーションですが、ここで「どこまでやるか」が勝負の分かれ目になります。
単に壁紙(クロス)を張り替える程度なら、6畳一間で4〜5万円程度、家全体でも数十万円で済みます。しかし、外国人ゲストに人気の「和モダン」な空間を作るために、畳を琉球畳に変えたり、古い和式トイレを最新の温水洗浄便座付き洋式トイレに交換(20〜50万円)したり、バランス釜の風呂をユニットバスに変更(50〜100万円)したりすれば、あっという間に予算は膨れ上がります。
安物買いの銭失いになるな!
初期費用を抑えようとして、家具や家電をリサイクルショップの寄せ集めで済ませるのは危険です。ゲストは「非日常」を求めています。写真映えしない部屋は予約が入らず、すぐに価格競争に巻き込まれます。特にベッド、ソファ、照明の3点には投資を惜しまないでください。ここでケチると、後で買い直す羽目になり、結果的に高くつきます。
初期投資の負担を軽減する補助金の活用
数百万円単位の初期投資が必要と聞いて、「やっぱり無理かも…」と諦めるのはまだ早いです。実は、民泊事業の開業や設備投資には、国や自治体の補助金・助成金が使えるチャンスが多々あります。これを知っているかどうかで、スタートラインでの資金繰りが劇的に変わります。
2025年現在、活用できる可能性が高い主な補助金には以下のようなものがあります。
- IT導入補助金: 予約管理システム(PMS)やサイトコントローラー、非対面チェックイン用のタブレット端末などの導入費用の最大1/2(最大450万円)が補助されます。インボイス対応枠なども活用可能です。
- 小規模事業者持続化補助金: 民泊用のWEBサイト制作費、集客のための広告費、看板設置費、さらには店舗改装費の一部などが対象になります。補助上限は通常枠で50万円ですが、インボイス特例などを使えば最大250万円まで引き上げられます。
- 自治体独自の補助金: 特に地方部では「空き家活用」や「インバウンド受入環境整備」を目的とした独自の助成制度が充実しています。例えば、和式トイレの洋式化、無料Wi-Fiの整備、多言語案内板の設置、バリアフリー改修などが対象になることが多いです。
これらの補助金は、原則として「後払い(事業完了後の支給)」であり、申請には事業計画書の作成など一定の手間がかかります。しかし、返済不要の資金が得られるメリットは計り知れません。開業前には必ず、商工会議所や自治体の観光課、あるいは補助金申請に強い行政書士に相談し、使える制度がないかを確認する癖をつけてください。
(出典:全国商工会連合会『小規模事業者持続化補助金<一般型>』)
空き家を活用して民泊を行うメリットと資産価値
もしあなたが、相続などで取得した「誰も住んでいない実家」や「地方の空き家」を持て余しているなら、民泊への転用は単なる収益化以上の意味を持ちます。それは、「資産価値の防衛」です。
日本の住宅、特に木造住宅は、人が住まなくなると驚くべきスピードで劣化します。換気が行われないため湿気がこもり、カビが発生し、シロアリの温床となり、配管は錆びつき、最終的には「特定空家」に指定されて固定資産税が6倍に跳ね上がるリスクさえあります。
しかし、民泊として活用すれば、定期的に清掃スタッフが入り、窓を開けて換気を行い、水道や電気を使用することになります。これが建物の「通風・通水」となり、老朽化を食い止める最高のメンテナンスになるのです。また、民泊用にリノベーションを施し、収益を生み出す物件として稼働実績を作っておけば、将来的にその物件を売却する際にも有利に働きます。「ボロボロの古家」として土地値でしか売れないのと、「利回り〇%の収益物件」として投資家に売るのとでは、売却価格に雲泥の差が出ます。
つまり、空き家民泊は、「家賃収入(インカムゲイン)」を得ながら、「建物の維持管理」を実質タダ(むしろプラス)で行い、将来の「売却益(キャピタルゲイン)」の最大化を狙うという、一石三鳥の不動産活用術なのです。