民泊の基礎知識

民泊と簡易宿所の違いを徹底比較!収益と許可の壁をプロが解説

民泊と簡易宿所の違いを徹底比較!収益と許可の壁をプロが解説

行政書士 小野馨
こんにちは

リゾート民泊コンシェルジュ兼行政書士の小野馨です。

今回は、「民泊と簡易宿所の違いを比較!収益と許可の壁をプロが解説」というテーマでお話します。

最近、インバウンド需要の爆発的な回復を背景に、「実家の空き家を観光客に貸したい」「投資用物件を買って宿泊業を始めたい」というご相談が私の事務所にも殺到しています。

しかし、その多くの方が最初の入り口で立ち止まってしまいます。それが、「手軽な民泊(新法)」にするか、「本格的な簡易宿所(旅館業)」にするかという選択です。

ネットで検索すればするほど、「用途地域」「消防法」「特定防火対象物」といった難しい専門用語が並び、結局自分の物件で何ができるのか、どちらが最終的に儲かるのかが分からなくなってしまうんですよね。

そのお気持ち、痛いほどよく分かります。

実は、この最初のボタンの掛け違いで、想定していた収益が全く上がらなかったり、最悪の場合、数百万かけてリノベーションしたのに営業許可が下りないという悲劇も現場で見てきました。

この記事では、法律の条文を並べるのではなく、現場を知り尽くしたプロの視点から、あなたの「収益」と「リスク」に直結するポイントだけを徹底的に深掘りして解説します。

読み終える頃には、あなたの物件に最適な選択肢が明確に見えているはずですよ。

  • 180日ルールの複雑な計算方法と、それが収益に与える致命的な影響がわかります
  • 自分の物件が「簡易宿所」の許可を取れる場所なのか、用途地域判定のコツがわかります
  • 消防設備やトイレ増設など、見落としがちな初期費用のリアルな相場を理解できます
  • 2025年の大阪特区民泊終了や、各自治体の上乗せ条例など最新のリスク情報を把握できます

民泊と簡易宿所の違いや収益性を徹底比較

宿泊ビジネスを始めるにあたり、最も重要なのは「夢」ではなく「数字」です。

「どれくらい営業できて、どれくらい経費がかかり、手元にいくら残るのか」。

この収益構造の根幹を揺るがすのが、民泊新法と簡易宿所の制度的な違いです。

ここでは、曖昧なイメージではなく、経営判断に必要な具体的なファクトを積み上げて比較していきます。

営業日数の違いと180日ルールの壁

まず、両者の決定的な違いであり、収益性を左右する最大の要因が「年間営業日数の制限」です。

ご存知の方も多いと思いますが、2018年に施行された住宅宿泊事業法(民泊新法)では、年間の営業日数が「180日以内」に厳格に制限されています。

これは単純計算で、1年のうち半分以下の日数しか営業できないことを意味します。

ビジネスとして考えた場合、工場の稼働率が最初から最大50%に制限されているのと同じですから、これは極めて重い足かせとなります。

「180日あれば、週末や繁忙期だけ営業すれば十分利益が出るのでは?」と考える方もいらっしゃいますが、ここに大きな落とし穴があります。

それは、「固定費は365日分かかる」という現実です。

家賃や住宅ローンの返済、インターネット回線費用、管理費、固定資産税などは、営業していない日も含めて毎日発生します。

売上が立つ日が半分しかないのに、経費は満額かかる。

この構造上、特に地価が高く家賃相場が高い東京都心部や人気観光地では、損益分岐点(BEP)を超えることさえ難しくなるケースが散見されます。

【要注意】180日のカウント方法は「正午」基準です

「180日」という数字のカウント方法は非常に厳密です。

期間は毎年4月1日正午から翌年4月1日正午までの1年間でリセットされます。

そして重要なのが、カウント単位が「正午」であること。

例えば、ゲストが4月1日の15時にチェックインし、4月3日の10時にチェックアウトした場合を考えてみましょう。泊数で言えば2泊ですが、4月2日の「正午」をまたいで滞在しているため、行政への報告上は「4月1日分」と「4月2日分」の計2日としてカウントされます。

このデータは、2ヶ月ごとの定期報告を通じて行政によりシステム管理されています。

「バレないだろう」とごまかして180日を超過した場合、それは民泊新法の違反ではなく、旅館業法違反(無許可営業)として扱われ、6ヶ月以下の懲役または3万円以下の罰金(等の刑事罰)の対象となる可能性があります。

さらに、この180日制限は、集客プラットフォーム(OTA)側のシステムとも連動しています。

Airbnbなどの主要サイトでは、登録された物件の営業日数が上限に達すると、自動的にその年度の予約受付が停止され、リスティングが非表示になる仕様になっています。

つまり、物理的に予約を取ることができなくなるのです。この「強制シャットダウン」のリスクを考慮せずに事業計画を立てることは、自殺行為と言っても過言ではありません。

したがって、民泊新法を選択すべきなのは、「収益を最大化したい投資家」ではなく、「自宅の空き部屋を有効活用したい」「転勤中の留守宅を一時的に貸したい」といった、資産活用・副業レベルでの運用を考えている方に限られると言えるでしょう。

簡易宿所の許可で実現する365日営業

一方で、私が本格的に宿泊ビジネスを行いたい方に強くおすすめしているのが、旅館業法に基づく「簡易宿所」の許可取得です。

簡易宿所とは、もともとはカプセルホテルや山小屋、ユースホステルのような「多人数で共用する構造」を持つ施設を想定した区分でした。

しかし、近年のインバウンドブームに伴い、ホテルや旅館のような大規模な設備(多数の客室や大きなロビーなど)を持たない小規模な宿泊施設、例えば「一棟貸しの京町家」や「リゾートヴィラ」、「古民家宿」などが、この簡易宿所の許可を活用して運営されるスタイルが完全に定着しました。

簡易宿所の最大のメリットは、何と言っても「365日フル稼働での営業が可能」である点です。民泊新法のような営業日数制限は一切ありません。

これにより、桜や紅葉のハイシーズン、年末年始、GWといった繁忙期はもちろん、平日やオフシーズンの需要も取りこぼすことなく収益化することができます。

具体的な収益インパクトを考えてみましょう。例えば、1泊3万円の宿泊単価で稼働率が80%の場合を単純比較します。

  • 民泊新法(上限180日):3万円 × 180日 = 年商540万円(これが天井)
  • 簡易宿所(365日×80%):3万円 × 292日 = 年商876万円

経費が同じであれば、この300万円以上の差額がそのまま「利益」の差となって跳ね返ってきます。

不動産投資において、この差は利回りを数%〜10%以上押し上げる決定的な要因となります。

ポイント

資産価値への影響も見逃せません
簡易宿所の許可を取得した物件は、「収益物件」としての価値が飛躍的に向上します。

将来的に物件を売却する場合でも、単なる中古住宅として売るのではなく、「旅館業許可付きの宿泊施設」として売却できるため、高値での売却(Exit)が期待できます。

特に京都や箱根、沖縄などの観光地では、許可付き物件は常に投資家から探されている人気商品です。

ただし、この「365日営業権」を手に入れるためには、高いハードルを越えなければなりません。

簡易宿所は法律上「ホテル・旅館」と同等の扱いを受けるため、一般住宅とは比べ物にならないほど厳しい建築基準法消防法の安全基準をクリアする必要があります。

これには当然、多額の初期投資(リノベーション費用)と、許可取得までの長い期間(数ヶ月〜半年)がかかります。

「ハイリスク・ハイリターン」ではなく、「ハイコスト・ハイリターン」。

これが簡易宿所の本質です。初期費用をかけてでも、長く安定して大きな果実を得たいのであれば、迷わず簡易宿所への挑戦を検討すべきです。

用途地域による営業エリアの厳しい制限

「よし、簡易宿所をやろう!」と決意した後に、多くの方が直面するのが「場所の壁」です。

私への相談でも、「物件を買ってしまった後に、そこでは許可が取れないと知った」という悲痛なケースが後を絶ちません。

その原因の9割は「用途地域」にあります。

日本の土地は、都市計画法によって「ここは住むための場所」「ここは店を出す場所」「ここは工場を作る場所」といった具合に、建てられる建物の種類が細かく決められています。

これを「用途地域」と呼びます。

簡易宿所(旅館業)は、建築基準法上「ホテル・旅館」に分類されます。

そのため、静穏な住環境を守るべきとされる以下の地域では、原則として建築・営業が一切認められていません。

用途地域 簡易宿所(旅館業) 民泊新法
第一種・第二種低層住居専用地域 × 不可 〇 可能
第一種・第二種中高層住居専用地域 × 不可 〇 可能
第一種住居地域 △ 条件付可
※3,000㎡以下等
〇 可能
第二種住居地域・準住居地域 〇 可能 〇 可能
近隣商業・商業・準工業地域 〇 可能 〇 可能
工業専用地域 × 不可 × 不可

表を見ていただくと分かる通り、いわゆる「閑静な住宅街」や「マンションが立ち並ぶエリア」の多くが該当する「住居専用地域」では、簡易宿所の許可は絶対に取れません

どんなにお金をかけてリフォームしても、法律が禁止している以上はどうにもならないのです。

(※ごく稀に開発許可等で例外が認められることもありますが、極めてハードルが高いです。)

ここで輝くのが民泊新法です。民泊新法の最大の功績は、この用途地域の壁を突破したことにあります。

届出住宅はあくまで「住宅」として扱われるため、低層住居専用地域を含むほぼすべての用途地域で営業が可能です。

これにより、「駅前の喧騒を離れた隠れ家的な住宅街」や「海辺の別荘地(多くが住居専用地域)」でも、合法的に宿泊サービスを提供できるようになりました。

もしあなたが既に所有している物件が「住居専用地域」にある場合、選択肢は事実上「民泊新法」一択(または特区民泊のエリア内か)となります。

第一種住居地域の「3,000㎡以下」緩和に注目
以前は第一種住居地域でも旅館業の営業には厳しい制限がありましたが、規制緩和により、現在は床面積の合計が3,000㎡以下であれば営業が可能となっています。

住宅街に近い雰囲気でありながら簡易宿所の許可が取れる「第一種住居地域」は、民泊投資家にとって狙い目のエリアと言えるでしょう。

(出典:国土交通省『用途地域における建築物の用途制限の概要』)

消防法の設備基準や初期費用の相場

許可の種類と場所が決まったら、次に計算しなければならないのが「お金」です。

特に、見積もりを取って皆さん驚愕されるのが消防設備にかかる費用です。

宿泊施設は、消防法において百貨店や病院と同じ「特定防火対象物(5項イ)」に分類されます。

これは、「不特定多数の人が出入りし、かつ就寝を伴うため、火災時のリスクが極めて高い」と見なされるからです。

そのため、一般住宅には義務付けられていない高度な防災設備の設置が求められます。

中でもコストインパクトが大きいのが「自動火災報知設備(自火報)」です。

これは、熱や煙を感知して建物全体に警報を鳴らすシステムです。

以前は、壁や天井を剥がして建物全体に配線を張り巡らせる必要があり、小さな戸建てでも100万円以上の工事費がかかることがザラでした。

これが参入障壁となっていたのですが、現在は規制緩和が進み、延べ面積300㎡未満の小規模施設であれば、配線工事不要の「特定小規模施設用自動火災報知設備(特小自火報)」の設置が認められています。

これなら無線連動型の感知器を天井に取り付けるだけなので、コストは数十万円程度(機器代込み)に抑えられます。

ただし、それでも「一般住宅」のまま貸し出す場合に比べれば大きな出費です。さらに、簡易宿所の場合は、以下のような建築基準法・衛生法上の要件も加わります。

  • トイレの定員比率: 自治体の条例によりますが、「定員5人につきトイレ1個」などの基準がある場合、定員を増やすためにトイレ増設工事(50〜100万円〜)が必要になります。
  • 誘導灯・非常用照明: 停電時に避難経路を照らす設備です。これも数十万円のコストがかかります。
  • パッケージ型消火設備: 建物構造や面積によっては、屋内消火栓やスプリンクラーの設置が必要になる場合があります。これらは非常に高額ですが、代替設備として認められる「パッケージ型消火設備」でも、設置には100万円以上の費用(本体+工事費)がかかります。

ポイント

民泊新法なら安く済む?
民泊新法(届出住宅)の場合、家主が同居している(家主居住型)なら、一般住宅と同等の設備で済むことが多く、消防設備費用は数万円〜十数万円程度で収まるケースがあります。
しかし、家主がいない「家主不在型」の場合は、簡易宿所とほぼ同等の消防設備(自火報や誘導灯など)が求められることがほとんどです。「民泊新法だから消防設備はいらない」という認識は大きな間違いですので注意してください。

大阪の特区民泊終了と上乗せ条例の影響

これから民泊を始める方に、絶対に知っておいていただきたい最新の「激震」ニュースがあります。

それは、これまで日本最大の「民泊天国」と呼ばれていた大阪市の特区民泊(国家戦略特区)における新規受付の終了です。

特区民泊とは、特定の自治体(大阪市、東京都大田区など)に限って認められた制度で、「旅館業の許可不要」「180日制限なし」「住居専用地域以外ならマンションでもやりやすい」という、いわば民泊新法と簡易宿所の「いいとこ取り」をした最強の制度でした。

しかし、大阪市は2025年関西万博に向けた宿泊施設整備に一定の目処が立ったことや、住環境との調和を理由に、2025年度(令和7年度)を目処に特区民泊の新規認定を終了する方針を打ち出しました。

具体的なスケジュールとしては、2025年9月頃に方針決定、11月頃に計画認定、そして2026年(令和8年)5月頃に完全終了というタイムラインが予測されています。

現在、この発表を受けて「今のうちに許可を取っておこう」という駆け込み申請が殺到しており、窓口はパンク状態、審査期間も通常より大幅に延びています。

もし今から大阪で物件を探して特区民泊を狙うのであれば、「間に合わないリスク」を十分に考慮する必要があります。間に合わなければ、その物件は「180日制限の民泊新法」で運営するか、ハードルの高い「簡易宿所」に切り替えるしかなくなります。

また、民泊新法であっても安心はできません。

自治体が独自に制定する「上乗せ条例」という時限爆弾があるからです。

例えば、日本一の観光都市・京都市。ここでは民泊新法の上乗せ条例により、住居専用地域での営業可能期間が「1月15日正午から3月16日正午まで」のわずか2ヶ月間に限定されています。

桜も紅葉も祇園祭もない、観光閑散期の真冬だけ営業しても、ビジネスとして成立するはずがありません。事実上の「民泊禁止令」です。

東京都でも、新宿区や中野区、世田谷区などで「住居専用地域では週末(金・土・日)しか営業できない」といった厳しい制限があります。

不動産広告の「民泊可」を信じないで

不動産屋さんのマイソク(販売図面)に「民泊可!」と書いてあっても、それが「365日営業できる簡易宿所」なのか、「180日制限がある民泊新法」なのか、さらに「上乗せ条例で週末しか営業できない民泊」なのかまでは書かれていません。

数千万円の投資をするのですから、広告を鵜呑みにせず、必ずご自身で自治体の条例本文を確認するか、専門家に調査を依頼してください。

民泊や簡易宿所の開業手続きと成功戦略

制度の違いやリスクを理解したところで、ここからは「じゃあ、実際にどうやって開業するの?」「どうやって利益を残すの?」という実行フェーズの話に移りましょう。

手続きの進め方や運営体制の構築には、プロだけが知っている「成功のセオリー」があります。

許可申請の流れや行政書士への報酬費用

開業手続きの難易度とスピード感も、民泊新法と簡易宿所では天と地ほどの差があります。

民泊新法は「届出」です。これは「やりますよ」と行政に報告する手続きであり、形式さえ整っていれば受理されます。標準的な処理期間も数日〜2週間程度とスピーディーです。

一方、簡易宿所は「許可」です。これは行政から「やっていいですよ」とお墨付きをもらう手続きであり、保健所の厳しい審査と現地検査をクリアしなければなりません。

事前相談から始まり、図面の修正、消防署との協議、近隣への周知、そして工事完了後の検査...とプロセスが多く、スムーズにいっても2〜3ヶ月、修正が入れば半年以上かかることも珍しくありません。

では、これらの手続きを専門家(行政書士)に依頼した場合、どれくらいの費用がかかるのでしょうか。一般的な相場感をお伝えします。

手続きの種類 行政書士報酬の目安 法定手数料(実費)
民泊新法(届出) 5万円 〜 15万円 無料(または数千円)
簡易宿所(許可申請) 30万円 〜 50万円 2.2万円 〜 3万円
消防法令適合通知書 3万円 〜 10万円 なし
図面作成(建築士連携) 10万円 〜 30万円 なし

「高いなぁ、自分でやろうかな」と思われたかもしれません。

もちろん、ご自身で手続きを行うことは法律上可能です。

しかし、特に簡易宿所の場合、建築基準法や消防法の知識がないまま図面を描いて保健所に持っていっても、門前払いを食らうのがオチです。

「窓の面積が足りない」「廊下の幅が数センチ狭い」「トイレの前室がない」といった細かい指摘を受けて何度も図面を書き直し、そのたびに役所に通う手間と時間(人件費)を考えれば、30万円払ってでもプロに任せて、1ヶ月でも早くオープンして売上を作ったほうが、結果的にコストパフォーマンスが良いことがほとんどです。時は金なり、です。

管理業者への委託義務とランニングコスト

許可を取って終わりではありません。むしろ、そこから始まる「運営(オペレーション)」こそが本番です。ここで重要になるのが、誰が物件を管理するのかという問題です。

民泊新法では、家主が同居しない「家主不在型」の民泊を行う場合、法律(第11条)により、国交省に登録された「住宅宿泊管理業者」に管理業務をすべて委託することが義務付けられています

これは「絶対」です。親戚や友人に頼むことはできません。

この管理委託費の相場は、売上の約20%前後です。例えば月50万円の売上があっても、10万円は管理会社に支払わなければなりません。

さらに、清掃費(リネン代含む)やOTA(Airbnbなど)の手数料15%前後を差し引くと、オーナーの手元に残る利益率は30%〜40%程度まで下がってしまいます。

一方、簡易宿所には、法律上の「管理業者への委託義務」はありません。

もちろん委託しても構いませんが、法律上は強制されていないのです。

もしあなたが物件の近くに住んでいて、ゲストからの緊急時の連絡(鍵が開かない、お湯が出ない等)にすぐ駆けつけられる体制が取れるのであれば、自主管理を選択することができます。

これにより、委託費20%をまるまる自分の利益として確保できます。清掃だけをプロに外注する「部分委託」というスタイルも可能です。

ランニングコストを徹底的に抑えて高収益体質を作りたいのであれば、自主管理が可能な簡易宿所(または特区民泊)が圧倒的に有利です。

トイレやフロント設置義務の緩和措置

かつて、簡易宿所の許可取得において最大の物理的な壁となっていたのが「玄関帳場(フロント)の設置義務」でした。「宿泊者の出入りを目視できる場所に、受付用のカウンターを設けなさい」というルールです。

これのせいで、玄関スペースが狭いマンションや小規模な戸建てでは、物理的に許可が取れないという時代が長く続きました。

しかし、ここ数年で風向きが大きく変わりました。

厚生労働省からの通知や各自治体の条例改正により、ICT(情報通信技術)を活用した本人確認ができる場合、物理的なフロントの設置を不要とする緩和措置が全国的に広がっています。

ICT活用による代替措置とは?
具体的には、玄関にタブレット端末を設置し、ビデオ通話機能を使ってオペレーターが宿泊者の顔を確認し、パスポートの提示を受ける仕組みです。

スマートロックと連動させることで、完全非対面でのチェックインが可能になります。

(出典:厚生労働省『旅館業における衛生等管理要領』)

この規制緩和により、以前は簡易宿所が不可能だった狭小物件やマンションの一室でも、許可取得の可能性が飛躍的に高まりました。

ただし、自治体によっては「駆けつけ要件(管理者が10分以内に到着できること)」をセットで求めてくる場合もあるため、やはり事前の条例確認は必須です。

また、トイレの数についても注意が必要です。

簡易宿所では「定員〇人まではトイレ1個、それを超えると2個」といった基準が条例で定められています(例:京都市など)。

定員を8人にしたいのに、トイレが1つしかないから定員5人までしか認められない、といったケースもよくあります。

この場合、高額な水回り増設工事をするか、定員を減らすかの経営判断を迫られます。

マンションで民泊を始める際のリスク

「駅近の分譲マンションの一室を買って民泊にしたい」というご相談も多いですが、戸建てにはない特有の、そして致命的なリスクがあることを知っておいてください。

最大のリスクは「マンション管理規約」です。現在、分譲マンションの多くが、管理規約で「民泊禁止(住宅宿泊事業等の禁止)」を明文化しています。

規約で禁止されている以上、行政に届出を出しても受理されませんし、隠れて営業しても管理組合に見つかって即刻停止(+損害賠償請求)を求められます。

「まだ規約に書いてない古いマンションなら大丈夫?」と思うかもしれませんが、国交省が「民泊を禁止するか容認するか方針を決めるように」と通達を出しているため、総会でいつ「禁止」が決議されるか分かりません。

この不安定さは投資にとって致命的です。

もう一つの見落としがちなリスクが「消防設備」です。

マンションの一室を宿泊施設にする場合、その部屋だけでなく、建物全体が消防法の規制対象となる(特定防火対象物が混在する建物となる)可能性があります。

もし建物全体に自動火災報知設備が設置されていない場合、あなたの一室の民泊のために、全住民の部屋に感知器を設置しなければならなくなる...なんてことは現実的に不可能です。

マンションでの民泊開業は、戸建てに比べてハードルが数段高いという覚悟が必要です。

民泊とマンスリーを併用するハイブリッド運用

最後に、民泊新法を選ばざるを得ない方への、起死回生の策をご紹介します。

ココがポイント

それが「民泊×マンスリーマンション」のハイブリッド運用です。

前述の通り、民泊新法には「180日」の壁があります。

しかし、残りの185日を指をくわえて見ている必要はありません。残りの期間を「マンスリーマンション(短期賃貸借契約)」として貸し出すのです。

マンスリーマンションは、法律上は「住居の賃貸」であり、「宿泊」ではありません。

したがって、旅館業法や民泊新法の規制対象外となり、180日のカウントに含まれません。

ハイブリッド運用の黄金パターン
繁忙期・週末(〜180日): 民泊(Airbnb等)として高単価で短期客を回す。
閑散期・平日(185日〜): マンスリー(Sumyca、LIFULL HOME'S Monthly等)として、出張者や一時帰国者に中長期で貸し出す。

この組み合わせにより、365日収益を生み出すことが可能になります。

ただし、民泊と賃貸では契約形態が異なるため、定期借家契約の締結や、清掃オペレーションの切り替えなど、管理の手間は増えます。

最近では、このハイブリッド運用を一括で代行してくれる管理会社も増えてきていますので、そうしたプロの手を借りるのも一つの手です。

民泊と簡易宿所の違いまとめ

長くなりましたが、最後にあなたが「どちらを選ぶべきか」の決断をサポートするディシジョンテーブルをまとめました。

今のあなたの状況を当てはめてみてください。

あなたの状況・希望 おすすめの選択肢 理由
物件が「住居専用地域」にある 民泊新法 法的に簡易宿所が不可能なエリアです。ハイブリッド運用で収益確保を目指しましょう。
365日フル稼働で高収益を狙いたい 簡易宿所 初期投資はかかりますが、売上の天井がなく、資産価値も向上します。本気ならこれ一択。
初期投資を50万円以下に抑えたい 民泊新法 消防・建築コストが安く済みます。まずはスモールスタートで経験を積むのに最適です。
大阪市でこれから物件を探す 簡易宿所 特区民泊は終了間近でリスク大。最初から簡易宿所が取れる商業地域等の物件を狙うべきです。

民泊と簡易宿所、どちらが優れているという絶対的な正解はありません。

大切なのは、あなたの物件の「立地」、用意できる「予算」、そして「どれくらい稼ぎたいか」という目標に合わせて、最適な制度を選ぶことです。

法規制は生き物のように変化します。

ネットの情報だけで判断せず、最終的な決断の前には、必ず管轄の保健所や、民泊専門の行政書士・建築士に最新の状況を確認してくださいね。

あなたの民泊ビジネスの成功を心から応援しています!

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