民泊・建築基準法ガイド(親記事) > 検査済証がない物件の救済措置
こんにちは。
建設業許可と民泊・建築法務の専門家、行政書士の小野馨です。
別府や湯布院、あるいは全国の古民家エリアで物件を探していると、不動産屋さんからこんな言葉を聞くことはありませんか?
「この物件、建物は立派なんですけど、検査済証(けんさずみしょう)がないんですよ。だから安くしておきますね」
もしあなたが、「へぇ、安くなるならラッキー! リフォームすれば関係ないでしょ」と軽く考えて購入しようとしているなら、今すぐそのハンコを止めてください。
検査済証がない物件で、安易に民泊(旅館業)を始めようとすると、役所の窓口で門前払いを食らい、数千万円のリノベーション費用がすべて水の泡になる可能性があります。
【警告】検査済証がないと起きる悲劇
- 200㎡を超える「用途変更」の確認申請が受理されない。
- 旅館業法の許可申請で、建築指導課の「適合通知書」が出ない。
- 銀行の事業用融資が下りない(違法建築の疑いがあるため)。
しかし、絶望する必要はありません。
国もこの問題を放置しているわけではなく、正式な「救済ルート」を用意しています。
今回は、書類がない昭和の建物を合法的に蘇らせるためのウルトラC、「法適合状況調査(12条5項報告)」について、建設業のプロの視点で徹底解説します。
これを知れば、あなたはライバルが怖がって買わない「お宝物件」を独占できるようになります。
この記事でわかること(プロの視点)
- なぜ昭和の古民家には「検査済証」がないのか?(歴史的背景)
- まずは役所で「台帳記載事項証明書」を取れ!
- 書類を再発行できない代わりの救済措置「12条5項報告」とは?
- コンクリートに穴を開ける!?リアルな調査内容と費用
- 建設業者が教える「既存不適格」と「違反建築」の決定的な違い
1. そもそも「検査済証」とは?なぜ9割の古民家に無いのか?
建物を適法に建てるためには、建築基準法で定められた「3つのステップ」を踏む必要があります。
- 確認申請(着工前): 「こういう図面で建てます」と申請し、パスすると「確認済証」が出る。
- 中間検査(工事中): 構造などのチェックを受ける。
- 完了検査(完成後): 役所が完成した現場を見て「図面通りに建ちましたね」とお墨付きを与える。これに合格すると貰えるのが「検査済証」です。
この検査済証は、いわば建物の「卒業証書」であり、これがあって初めて「法的に完成した建物」として認められます。
昭和の「検査を受けない」文化
今でこそ完了検査を受けるのは常識(受検率90%以上)ですが、実は平成10年(1998年)頃までは、完了検査の受検率は30%〜40%程度しかありませんでした。
当時の建築業界では、確認申請(入り口)だけ通して、最後の完了検査(出口)は「面倒だから受けない」「受けると税金等の捕捉が早まるから嫌だ」といった理由で、スルーして住み始めることが常態化していたのです。
そのため、築30年以上の古民家や別荘の約7割〜8割以上には、検査済証が存在しません。
「大家さんが紛失した」のではなく、「そもそも最初から貰っていない(受けていない)」のです。
これは売主の悪意ではなく、時代の構造的な問題です。
2. 検査済証なしで「民泊」を始めようとすると…
民泊(旅館業)を始めるには、建物の使い道を「住宅」から「宿泊施設」に変える必要があります。
特に延床面積が200㎡を超える場合、「用途変更の確認申請」が必要になります。
ここで役所の担当者は、法律のロジックとしてこう言います。
🏛 役所の論理
「この建物をホテルに変えたいんですね。分かりました。
でも、用途変更(リノベ)の確認申請を受け付けるには、『現在の建物が適法であること』が大前提です。
検査済証がないということは、この建物は未完成か、あるいは図面と違う違反建築かもしれませんよね?
違法かもしれない建物をホテルにする許可は出せません」
つまり、入り口で門前払いを食らいます。
「現況はすごく綺麗で丈夫そうなんです!」といくら主張しても、書類がなければ役所は動きません。
3. 最初のステップ:「台帳記載事項証明書」を取得せよ
検査済証がない物件を買う場合、まず最初にやるべき調査があります。
それは管轄の役所(建築指導課など)に行き、「台帳記載事項証明書(だいちょうきさいじこうしょうめいしょ)」を取得することです。
これは、過去の建築確認の履歴が記録された台帳の写しです。
これを見れば、以下の事実が判明します。
- パターンA: 確認申請も出されていない(完全にアウトなヤミ建築)。
- パターンB: 確認申請は出ているが、完了検査の記録がない(今回解説するケース)。
- パターンC: 実は完了検査を受けていたが、紙の証書を紛失しただけ(ラッキーなケース)。
もし「パターンC」であれば、この証明書が検査済証の代わりになります。
しかし、大半は「パターンB(検査を受けていない)」です。
この場合に登場するのが、次の救済措置です。
4. 救済の切り札:ガイドラインによる「12条5項報告」
「検査済証がない建物は、二度と日の目を見ないのか?」
国(国土交通省)も、優良な既存ストックを活用できないのは国家的損失だと考え、2014年(平成26年)にガイドラインを策定しました。
それが「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査」です。
実務上は、建築基準法第12条第5項に基づく報告として行われるため、通称「12条5項報告(法適合状況調査)」と呼ばれます。
今のプロが「昔の適法性」を証明する
検査済証の「再発行」は絶対にできません(過去に戻れないため)。
その代わりに、現在の一級建築士や指定確認検査機関が現地を徹底的に調査し、以下のことを証明するレポートを作成します。
- この建物は、建てられた当時(昭和〇〇年)の法律には適合していたこと。
- その後、勝手な増築などの違反工事が行われていないこと。
- 現在の耐震基準などに対して、著しく危険な状態ではないこと。
この分厚いレポートを役所に提出し、審査に通れば、「検査済証はないけれど、適法な建物として扱ってあげましょう」というお墨付きが得られます。
これでようやく、用途変更のスタートラインに立てるのです。
5. 調査のリアルな中身と費用(コンクリートに穴を開ける!?)
「じゃあ、その報告書を行政書士に書いてもらえばいいんですね!」
と簡単に考える方がいますが、これは行政書士だけでは不可能な、ガチの建築調査です。
具体的に何をするのか、費用感とともに解説します。
調査① 図面の復元(現況測量)
古い建物は図面も紛失していることが多いです。
建築士と測量士が現地に入り、レーザー測定器などを使って、柱の位置、壁の厚さ、窓の大きさなどをミリ単位で測り直し、図面をゼロから書き起こします。
【費用目安】 30万〜50万円
調査② コンクリート強度試験(コア抜き)
「基礎のコンクリートは大丈夫か?」を確認するため、基礎の一部を円筒形にくり抜きます(コア抜き)。
そのサンプルを試験場に持ち込み、プレス機で潰して圧縮強度を測定します。
調査③ 鉄筋探査(配筋調査)
コンクリートの中に、図面通りに鉄筋が入っているか。
X線や電磁波レーダーを使って、壁の中を透視して確認します。
【調査・報告書作成の総額目安】
物件の規模によりますが、最低でも50万円〜100万円程度の費用がかかります。
さらに、調査期間として1ヶ月〜2ヶ月を見込む必要があります。
6. 「既存不適格」と「違反建築」の違いを知る
この調査で最も重要なのが、その建物が「既存不適格」なのか「違反建築」なのかの判定です。
- 既存不適格(セーフ): 建てた時は適法だったが、その後の法改正で今の基準に合わなくなったもの。
→ 12条5項報告で救済可能です。 - 違反建築(アウト): 建てた時から違法だった、または確認申請を出さずに勝手に増築したもの。
→ 原則として救済不可。違法部分を解体(是正)する必要があります。
古民家によくある「勝手に作ったサンルーム」や「離れ」は、違反建築とみなされる可能性が高いです。
ここをどう処理するかが、我々プロの腕の見せ所です。
7. 建設業者の強み:調査と是正工事のワンストップ
検査済証がない物件の合法化は、単なる書類作成ではありません。
「調査(建築士)」+「工事(建設会社)」+「申請(行政書士)」の3者が完璧に連携しなければ突破できません。
多くの行政書士事務所は、「建築士さんを探して、調査してから来てください」と言って終わりです。
多くの設計事務所は、「是正工事は工務店に頼んでください」と丸投げします。
当事務所は、建設業許可を持つ行政書士として、この複雑なプロセスをワンストップでマネジメントします。
👷♂️ 小野事務所のソリューション例
- 「基礎の強度が足りないなら、アラミド繊維シートで補強して強度不足を解消しましょう」
- 「この違反増築されたサンルームは、民泊に使わないので解体(減築)して適法化しましょう」
このように、「工事による解決策」を具体的に提案し、実行できるのが建設業者兼行政書士の強みです。
まとめ:書類がない=プロだけが勝てる市場
検査済証がない物件は、一般の買い手や大手不動産会社からは「融資がつかない」「リスクが高い」として敬遠されます。
その結果、立地が良いのに相場よりも大幅に安く放置されているケースが多々あります。
しかし、この記事を読んだあなたなら分かります。
「12条5項報告」という正規の手続きと、適切な「是正工事」を行えば、その物件は合法的な「高収益ホテル」に生まれ変わるということを。
「この古民家、安いけど書類がないらしい…」
そう迷ったら、諦める前に、あるいは契約する前に、当事務所にご相談ください。
プロの目で「再生可能か、手出し無用か」を即座に判定し、合法化へのロードマップを描きます。
建築法務の全体像を再確認する
検査済証の問題以外にも、用途変更には「200㎡の壁」や「消防法」の壁があります。
失敗しないために、ハード面の規制をトータルで把握しておきましょう。