運送業許可の基礎知識

運送業許可の要件を完全網羅!資金・車庫・人を行政書士が徹底解説

こんにちは。
建設業と運送業、産廃業の許可の実績が豊富な行政書士の小野馨です。

実績100件の経験から、今回は「運送業許可のリアルな実情と攻略法」について徹底解説します。

「トラック運送業を始めたいけれど、許可の壁が高すぎて何から手をつければいいか分からない」
「数千万円の資金が必要という噂を聞いたが本当だろうか」

私の事務所にも、このような切実なご相談が日々寄せられます。
特に最近は、「自社のダンプで運賃を稼ぎたい」という建設業の社長様からのご相談が急増しています。

⚠️ 正直に申し上げます

運送業許可(緑ナンバー)は、建設業や産廃業などの許認可と比較しても、難易度や費用、審査期間のすべてにおいてトップクラスにハードルが高い手続きです。

「車庫を借りたのに許可が下りなかった」「資金計算を誤って申請が受理されなかった」という失敗事例は、残念ながら珍しくありません。

しかし、恐れる必要はありません。
正しい知識という「地図」と、綿密な準備という「装備」があれば、この険しい山は必ず登頂できます。

この記事では、数多くの許可取得をサポートしてきた私の経験に基づき、審査を最短で突破するための急所を包み隠さず公開します。

単なる法令の羅列ではなく、「実際に審査を通すための裏付けとなる考え方」「プロが現場でチェックしているポイント」をお伝えしますので、ぜひ最後までご覧ください。

この記事のポイント

  • 運送業許可を取得するための「4大要件」と相互関係
  • 審査で最も落ちやすい「車庫の前面道路」の計算式と「資金残高」の基準
  • 行政書士に依頼すべきタイミングと費用の相場感
  • 2025年最新の法改正による5年更新制導入と対策

🚧 建設業の社長様へ 🚧

建設業許可をお持ちの場合、一般の基準よりも「圧倒的に有利な条件」で審査を通せる可能性があります。
一般的な基準を読む前に、まずは建設業特化の解説をご覧ください。

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 運送業許可の要件を網羅した基準(全体像)

運送業許可(一般貨物自動車運送事業許可)を取得するためには、「人・物・金・場所」という4つの要素すべてにおいて、国の定める厳しい基準をクリアしなければなりません。

これらは単独で存在しているのではなく、パズルのように複雑に組み合わさっています。

例えば、「売上を上げるために車両を増やしたい」と考えたとします。

すると、連動して「必要な車庫の面積」が広くなり、雇わなければならない「ドライバーの人数」が増え、それに伴って確保すべき「人件費や車両費(資金要件)」も跳ね上がります。

つまり、一つの要素を変えると、他のすべての要件に影響が出るのです。

運送業許可を構成する4つの柱+α

  1. 人(ヒト): 欠格事由がないこと、運行管理者・整備管理者の確保、5名以上の運転者確保。
  2. 物(モノ): 適切なサイズ・構造のトラックを5台以上確保すること。
  3. 金(カネ): 事業を安定して継続するための所要資金を銀行口座に確保していること。
  4. 場所(バショ): 法令に適合した営業所・休憩施設・車庫を確保すること。
  5. 法令(ホウレイ): 申請後の役員法令試験に合格し、適切な社内体制を構築すること。

2. 【最難関】車庫の前面道路幅員と車両制限令

運送業許可の申請で、最も多くの事業者が断念する理由No.1が、実はこの「車庫の前面道路」の問題なんです。

「トラックが物理的に通れる広さがあるから大丈夫だろう」
「向かいの会社もトラックを入れているから問題ないはずだ」

そう思っていませんか?ここが最大の落とし穴です。

運送業許可の審査では、あなたの感覚的な広さではなく、「車両制限令」という法令に基づいた厳密な計算式で可否が判断されます。

どれだけ現地が広くても、役所の図面上で「幅員不足」と判定されれば、その場所で許可を取ることは100%不可能です。

許容車幅の計算式(ここテストに出ます)

基本的には、車庫の出入り口が接している道路(前面道路)の幅員によって、そこに車庫として置けるトラックの最大サイズ(車幅)が決まります。

【車両制限令による許容車幅の計算式】
(道路幅員 - 0.5m)÷ 2 = 通行可能な車両の幅
※相互通行(対面通行)の市道などの場合

具体例で計算してみましょう。例えば、あなたが借りようとしている駐車場の前の道路の幅が、実測でちょうど「5.0m」だったとします。

この場合、計算式に当てはめると以下のようになります。
(5.0m - 0.5m) ÷ 2 = 2.25m

この計算結果である「2.25m」が、その車庫に置ける車両の最大車幅となります。

一般的なトラックの車幅と比較すると…

  • 2トンロングや4トントラック(標準):約2.2m前後(ギリギリOKかも?)
  • 4トントラック(ワイド):約2.4m〜2.5m(アウト!)
  • 大型トラック(10t車など):約2.5m(完全にアウト!)

つまり、前面道路が5mしかない場合、物流の主役である4トンワイド車や大型車は車庫として登録できないのです。
もし不動産契約を済ませてしまった後にこれが発覚すると、敷金や礼金、仲介手数料が全て無駄になってしまいます。

さらに注意が必要なのが、道路が「公道」か「私道」かという点です。私道の場合は、その道路の所有者全員から「通行承諾書」をもらう必要が出てくるケースもあり、ハードルがさらに上がります。

3. 必要な資金の計算式と残高証明書

次に高いハードルが「資金」です。運送業許可では、事業を開始するために必要な資金(所要資金)の全額を、自己資金(預貯金)で持っていることを証明しなければなりません。

「創業融資を受ける予定だから大丈夫」
「親会社から借り入れるから問題ない」

と考える方もいるのですが、審査で見られるのは原則として「申請者名義の銀行口座にある現金残高」です。融資を受ける場合でも、その融資が実行され、口座に着金している状態でなければ認められません。

費目 計算すべき期間・内容
人件費 役員・運転者等の給与・手当・法定福利費の6ヶ月分
燃料油脂費 計画走行距離×燃費×燃料単価の6ヶ月分
修繕費 車検費用や点検費用、タイヤ代などの6ヶ月分
車両費 車両購入費全額、またはリース・割賦の12ヶ月分
施設費 営業所・車庫の家賃・共益費の12ヶ月分(敷金等含む)
保険料 自賠責・任意保険・自動車税等の1年分
その他 登録免許税12万円、什器備品費、水道光熱費など

これらを合計すると、中古トラック5台で開業する場合でも、およそ1,500万円〜2,500万円の資金が必要になるケースが大半です。

【ここが最重要】残高確認は「2回」あります

これが「資金拘束」と呼ばれる所以です。預金残高のチェックは以下の2回行われます。

  1. 申請時(申請日時点)
  2. 許可処分直前(審査終了時:約3〜4ヶ月後) ※ほうれいしけんしゅ

審査期間中に、車両の手付金や事務所の契約金などを支払ってしまい、残高が「所要資金の総額」を1円でも下回ってしまうと、その時点でアウト(不許可)です。

つまり、「見せ金」で一時的に借りてすぐに返す、といった手法は通用しないので注意してください。

4. 役員法令試験の難易度と過去問

「書類さえ行政書士に作ってもらえば、あとは待つだけで許可が取れる」と思っていませんか?
実は、申請後に法人の役員(常勤役員のうち1名)が「役員法令試験」に合格しなければなりません。

  • 受験者: 申請する法人の常勤役員(登記簿上の役員)1名
  • 実施時期: 申請書が受理された月の翌月以降の奇数月
  • 合格基準: 30問中24問以上(正答率8割以上)
  • 試験時間: 50分

「条文集を見れるなら簡単でしょ?」と思うかもしれませんが、50分で30問を解くスピードが求められ、どこに何が書いてあるかを把握していないと時間は足りません。実際、近年の合格率は低下傾向にあり、回によっては合格率30%〜40%台という厳しい結果になることもあります。

そして恐ろしいのが、「再試験のチャンスは原則1回だけ」という点です。
もし1回目の試験に落ちた場合、翌月以降に再試験を受けられますが、2回目も不合格になると、申請は「強制的に取り下げ(却下)」となります。
数ヶ月かけて準備した書類も、支払った行政書士費用も、すべて無駄になってしまうのです。

5. 車両、人、欠格事由の要件

【人】運行管理者や運転者の確保

  • 運転者(ドライバー): 最低5名以上の確保が必要です。「適切な社会保険・労働保険」への加入は、現在の審査や巡回指導で徹底的にチェックされます。アルバイトだから加入しなくていい、という言い訳は通用しません。
  • 運行管理者: 国家資格者1名の選任が必要です。原則としてドライバーとの兼務はできません。
  • 整備管理者: 3級整備士などの資格者、または実務経験2年以上の者が必要です。

【物】緑ナンバー車両のサイズと構造

営業所ごとに最低5台以上の事業用自動車(トラック)が必要です。
「軽トラックを混ぜて5台にできますか?」という質問が多いですが、軽自動車は「貨物軽自動車運送事業(黒ナンバー)」の管轄になるため、基本的には認められません。

  • NOx・PM法への適合: 首都圏や大阪などの対策地域内に営業所を置く場合、環境規制に適合した車両でないと緑ナンバーが付きません。安価な古い中古トラックを買う際は車検証の備考欄を必ず確認してください。
  • 使用権原の証明: リース契約書や割賦契約書で、1年以上の使用権原を証明する必要があります。

【場所】市街化調整区域での営業所設置

運送業の営業所(事務所)は、原則として市街化調整区域(市街化を抑制する地域)には設置できません。
「周りに家も建っているし、空き店舗があるから大丈夫だろう」と思って契約しても、その建物が「農家住宅」などの特別な許可で建っている場合、運送業の事務所として使うことは違法(目的外使用)となり、許可は絶対に下りません。

例外的に認められるケース(既存宅地やトレーラーハウスなど)もありますが、非常に専門的な判断が必要です。
家賃が安い物件は市街化調整区域であることが多いですが、安易に飛びつくと許可が取れず、引っ越し費用が無駄になります。

【欠格事由】絶対に動かせない条件

申請者(役員全員)が以下の事由に該当していると、どんなにお金と人があっても許可は取れません。

  • 1年以上の懲役または禁錮の刑に処せられ、その執行が終わってから5年を経過していない者
  • 過去に運送業許可の取消処分を受け、5年を経過していない者

特に注意が必要なのは、「昔、若気の至りで喧嘩をして執行猶予がついた」「交通事故で禁錮刑になった」といったケースです。
役員の中に一人でも該当者がいると、会社全体として不許可になります。「隠していればバレないだろう」と思うかもしれませんが、審査プロセスで警察庁への照会が行われるため、過去の犯歴は確実に判明します。

6. 費用・期間・流れ

行政書士への報酬相場と初期費用の内訳

  • 登録免許税: 120,000円(国へ納付)
  • 行政書士報酬: 35万〜60万円(税別)程度

「インターネットで探せば20万円台の格安事務所もあるじゃないか」と思われるかもしれません。

しかし、報酬が極端に安い事務所は「書類作成のみ」を代行し、一番大変で重要な「車庫の前面道路幅員の調査」や「公的証明書の収集」、「運輸局との事前協議」はお客様ご自身でやってくださいというスタンスであるケースがほとんどです。

もしご自身で計測した道路幅員が間違っていて不許可になったりすれば、その期間に発生する「空家賃」や「ドライバーへの給与保証」で、数十万円の損失はあっという間に出てしまいます。

目先の数万円の安さよりも、現地調査まで含めて責任を持ってくれる専門家を選ぶことが、結果的に最もコストパフォーマンスの良い投資になります。

申請から緑ナンバー取得までの期間と流れ

運送業許可は、準備開始から実際に緑ナンバーを付けて走り出すまでには、半年近くの期間を要します。

  1. 事前準備(1〜2ヶ月): 物件選定、資金調達、定款変更、書類収集。
  2. 申請提出: 管轄の運輸支局へ申請書一式を提出。
  3. 法令試験・審査(3〜5ヶ月): 役員法令試験を受験。補正対応。2回目の残高証明提出。
  4. 許可処分: 許可証交付、登録免許税納付。
  5. 運輸開始準備: 選任届、車両登録(緑ナンバー化)、任意保険加入。
  6. 運輸開始届: 事業スタート!

7. 2025年法改正と事業継続

【2025年】更新制の導入とトラックGメン

これから運送業を始める方が、絶対に知っておかなければならない未来の話があります。
それは、国土交通省が進める「物流革新」の一環として、2025年(令和7年)頃を目処に「許可の更新制」が導入される見込みであるということです。

これまでは一度取れば「永久ライセンス」でしたが、これからは「5年ごとの更新制」になります。
更新時には、社会保険の加入状況や法令違反(行政処分歴)、財務状況などがチェックされ、不適合なら許可を失う可能性があります。

【これからの対策】
国は「トラックGメン」による荷主への監視強化や、「標準的運賃」の告示など、運送事業者が適正な運賃を受け取れるような環境整備も進めています。
これからは「安かろう悪かろう」ではなく、「コンプライアンスを守り、適正運賃で高品質な輸送を提供する事業者」だけが生き残れる時代になります。

巡回指導への対策とGマーク

許可取得後、概ね3〜6ヶ月以内に「巡回指導」が行われます。
ここで「点呼記録簿」や「運転日報」などの帳票類が厳しくチェックされ、評価が低いと「監査」や「行政処分」の対象になります。

逆に、安全管理を徹底すれば「Gマーク(安全性優良事業所)」を取得でき、監査免除などのメリットを受けられます。

【重要】許可取得後の生存戦略:「健康経営」で人手不足を解消する

許可を取って運送業を始めたものの、「ドライバーが集まらない」「高齢化で健康面が不安」という壁にぶつかる経営者様が多くいらっしゃいます。

そこで当事務所が強く推奨しているのが、「健康経営(健康経営優良法人)」への取り組みです。

建設・運送業にこそ「健康経営」が必要な理由

  • 採用力の強化: 「社員の体を大切にする会社」というブランドになり、若手や経験者の採用に圧倒的に有利になります。
  • 事故リスクの回避: 定期的な健康チェックやSAS(睡眠時無呼吸症候群)対策を行うことで、運転中の急病による重大事故を防ぎます。
  • 入札加点・金利優遇: 自治体によっては公共工事の入札加点対象になったり、銀行融資の金利が優遇されるメリットがあります。

運送業許可は「スタートライン」に過ぎません。
その先で会社を成長させるための「健康経営認定サポート」や、ドライバーの定着率を上げるための労務アドバイスも、当事務所の得意分野です。

まとめ:運送業許可のプロフェッショナルにお任せください

運送業許可は、物流という社会インフラを担うプロフェッショナルとしての「証」です。

取得までの道のりは険しく、多くの書類と資金、そして覚悟が必要ですが、それを乗り越えた先には大きなビジネスチャンスが待っています。

運送業許可は、ご自身で申請することも制度上は不可能ではありません。
しかし、車両制限令の計算や膨大な書類作成、そして何より「法改正への対応」を考えたとき、リスクヘッジとして運送業専門の行政書士を活用することを強くおすすめします。

  • 場所(車庫)は最優先: 前面道路幅員の計算と用途地域の確認は、物件契約前に必ず行う。ここでのミスは取り返しがつかない。
  • 資金は余裕を持って: 申請から許可までの約半年間、所要資金以上の残高をキープできるよう、キャッシュフローを管理する。
  • 未来への投資: 2025年以降の更新制導入を見据え、許可取得後すぐにコンプライアンス体制を整える。

この記事が、これから運送事業という大海原に挑戦されるあなたの、確かな羅針盤となることを願っています。
もし具体的な手続きや物件の判断で迷われた際は、「建設と運送」の専門家である当事務所にご相談ください。

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